十二話
蓮は佐唯と何とはなしに会話をした。
「佐唯さん。ここから白莱国までどれくらいかかりそうですか?」
「そうですね。後二日はかかりそうです。だが、私や翡翠達はなるべく平坦な道を選んでいましたから。これでも道のりでいえば、まずまずの早さですよ」
「そう。まずまずかあ」
蓮はため息をついた。佐唯も苦笑いする。そんな二人を翡翠と月歌は心配そうに見ていた。
他の面々も佐唯に「うらやましい」と言っている。蓮が美人だし性格もおとなしくて身分も王女とあったら男性陣は最高じゃないかと思っていた。
が、佐唯は蓮と距離を取ってそれ以上は踏み込まない。それが焦れったくもあった。
あいつ、いつになったら蓮姫に告白するんだろう?男性陣はやきもきしていたのだった。
月歌は呆れたと思う。翡翠など、「惜しい」とか言っている。男の人って馬鹿らしい事を気にするのだ。
母の銀苓に言わせれば、そんなものだと言うのだろうが。青い空は憎らしいほどに晴れ渡っていた。
(蓮様。佐唯様の事は友人としてしか見てないし。婚約者として意識するのはいつになるのやら)
そう思いつつも佐唯と蓮から目を逸らした。やれやれと息をつきながら蓮に渡す水や菓子を用意するのだった。
あれから、二日が経って白莱国の国境の村を通り国内に入った。王宮までは後半日ほどだ。
「蓮さん。もう白莱国に入りました。王宮までは半日もあったら着くでしょう」
「そう。やっとね」
「ええ。王宮に着いたら侍女が付けられます。彼女達には注意してください」
「わかったわ」
「蓮さん。皇太子も挨拶に来られるでしょう。その時はわたしも同席します。そのつもりでいてください」
佐唯が声を低めて言った。蓮は頷いた。
皇太子は要注意だ。それは兄の翠蘭も言っていた。
緊張しながらも蓮はまっすぐに前を向く。佐唯も表情を引き締めた。翡翠や月歌達も頷き合い、気持ちを改めたのだった。
王宮に着いたのは夕刻になってからだった。空も藍色で薄暗くなっている。蓮達が着いたのを門の衛士に言うと慌てて伝えに走っていく。少し経ってから衛士達の上司らしき男性が出てきた。
「…これはこれは。蘇芳国の姫様ご一行ですな。確か、宰相の裟浬様のご子息も同行なさっていると上司から聞いております」
男性が言うと馬から蓮を降ろして佐唯も後で下馬した。手綱を引いた状態で佐唯は頭を下げる。
「申し遅れました。わたしが裟浬の息子です。藤沢佐唯と申します」
「ほう。あなたがそうか。佐唯殿、わたしは白莱国の兵部省ー兵部尚書で名を凰修炎と申します」
「凰殿ですか。わかりました、わざわざ長官がいらっしゃるとは。お手数をおかけします」
「いえ。気にされる事はありません。むしろ、王妹殿下がいらしたのに大したおもてなしもできなかった。申し訳ない」
凰修炎は申し訳なさそうに眉を下げた。気の良さそうな男性だ。蓮はそんな印象を持った。
「凰殿。とりあえず、姫はお疲れです。近くの宿をご存知ないですか?」
佐唯がわざとらしく言うと凰修炎は笑った。
「はは。何をおっしゃるかと思えば。王宮で泊まられたらよいですよ。それくらいはさせていただきます」
「…凰殿。国王陛下への信書を蘇芳国の陛下よりお預かりしています。明朝にお渡しします」
「左様か。わかりました、ではそのように陛下にはお伝えします」
凰修炎が答えると佐唯は蓮に言った。
「では行きましょう。姫、月歌殿と一緒にお行きください」
「わかったわ。佐唯さんもゆっくりと休んでね」
「ありがとうございます。では」
佐唯は浅く頭を下げると翡翠達や修炎と一緒に行ってしまった。衛士達と共に侍女が五名ほど出てくる。
「ようこそおいでくださいました。蓮姫様」
「はじめまして。私の名をご存知なのですね。休ませてもらってもいいかしら」
「はい。陛下からは丁重におもてなしをするように命じられております。中へどうぞ」
侍女の一人が前へ進み出て告げた。蓮は頷いた。そのまま、侍女達と王宮へ入ったのだった。




