十話
蓮と庭園に向かった佐維は気恥ずかしそうにしていた。
女性とこうやって二人きりになるのに慣れていないのだと佐維は説明した。蓮は自分も男性とこんな状況になったのは初めてだと告げる。
「え。姫様もですか。わたしは幼い頃から学問や武芸の稽古に時間を費やしていましたから。女性と接した経験が少ないんです」
「私はその。幼い頃は部屋に閉じこもりがちでしたので。異性と接した経験は佐維様よりないと思います」
蓮がそう言うと佐維はそうですかと笑った。「姫様。白來国について探っておられると父から聞いています。あなたに危険がないようにわたしも協力したいのですが。よろしいでしょうか?」
佐維が真面目に言う。蓮はさてどうしたものかと考える。
「…私に協力ですか。構いませんけど佐維様にとっても危険かもしれませんよ?」
「それは承知の上で申しています。これでも二十四になりますし。武芸の方面ではお役に立てると思います」
佐維はにこやかに笑いながら告げた。
「わかりました。でしたら、護衛にしていただけるように兄上にお願いしてみます」
蓮が頷くと佐維は照れたように笑う。
「姫様の護衛にしていただけるのですね。でしたら精一杯頑張ります」
「佐維様。その代わり、無理は禁物です。危なくなったら私を置いて逃げてください。命を私のために懸けなくていいですから」
蓮がきっぱりと言うと佐維は驚いたらしく固まる。
「…姫様?何をおっしゃるんですか」
「わたしは何も変な事は言っていません。むしろ、兄上に救われたので。この命は兄上や佐維様たちのために使いたいと思っています。それにこの国のためには兄上は大事なお方です。佐維様、わたしに何かあったら。代わりに兄上を助けて守って差し上げてください」
「姫様。わたしはむしろあなたに何かある事の方が心配です。だから、そんな自分をないがしろにするようなことはおっしゃらないでください」
「佐維様…」
「約束ですよ?」
佐維が念を押して言うと蓮は仕方なく頷いた。ほっと佐維は胸を撫で下ろした。
「では、庭園を散策してから宮に戻りましょう。後宮の近くまでお送りします」
「わかりました」
蓮は再び頷いた。佐維がそっと彼女の手を取る。
驚きながらも蓮は握られた手を振りほどかずにいた。意外と温かくてがっちりとした佐維の手に頼もしさを感じながら蓮は庭園をゆっくりと歩いたのだった。
一刻(二時間ほど)が経った頃になって蓮は疲れてきたので佐維にそれを伝えた。
「あ。すみません、姫様もお疲れだったんですね。じゃあ、後宮までお送りします」
「お願いします」
蓮が言うと佐維は頷いた。手を繋いだままで二人は後宮まで歩いていく。
佐維は道すがら自分の仕事の話や父の娑浬について聞かせてくれた。彼の話によると娑浬には子供が正妻である女性との間に四人いるらしい。
一番上が佐維の姉で須勢莉といい、年は二十七歳だとの事だった。彼女は既に結婚しており、とある大臣家に嫁いでいる。
須勢莉には子供が二人いて両方とも男の子らしい。
二番目が佐維で三番目が弟で名を実光という。実光で年齢が二十二歳だそうだ。
佐維と実光は独身だが王宮で衛士をしている。二人とも翠蘭の人柄や顔を知っていて蓮の事も聞いた事があったらしい。
一番末っ子が妹で名を朔といい、年齢は十九歳らしい。朔は独身で婚約者はいるとの事だった。
「須勢莉姉さんは明るくてしっかり者です。弟の実光は明るいんですがお調子者ですね。一番下の朔は真面目で几帳面な子です。皆、姫様の事は父から聞いていますからご安心ください」
佐維がにこやかに笑いながら説明してくれる。蓮は相づちを打ちながらゆっくりと歩いた。いつの間にか、後宮の門の前まで来ていた。
「あ。もう、後宮まで来てしまいました。では佐維様。またお会いしましょう」
「はい。では陛下の執務室でお待ちしています」
佐維が手を振ってきたので蓮も同じようにする。二人の初対面とは思えない打ち解ける早さに門の見張り番も目を見開いた。
そのうち、五十鈴が迎えに来て二人は別れたのだった。




