203 セイイツの死
ゴウイツは、突然やってきたセイイツを悲しみの籠った目で迎えた。
息子がこれからやろうとしていることが何か、彼には大方の予想がついていたからだ。
「わたしの行っていた任務を、これからは父上が代わってやっていただきたい」
それだけいうと、セイイツは鍵のようなものを彼に向って差し出した。
ゴウイツは、拒否できぬものを感じ、仕方なく鍵を受け取った。
「これは、例の奴らから託された任務ということか?」
セイイツが無言で頷く。
「わしが拒否すると言ったら?」
「それでもかまいません。倉庫に捕えた者たちを解放してやってください。迎えの者が来た際には、セイイツは死んだと言っていただければ結構です」
ゴウイツは何か言いかけ、途中でそれを思い直したように口を噤んだ。
彼が言いたかったのは、死んだことにするのか、それとも、本当に死ぬつもりなのか、ということだった。
だが、訊くまでもないことのような気がしたのだ。
「あのこどもはどうした? 倉庫の中の一員になったのか? それともドミアールの餌食になったのか?」
「ドミアールはもういません。こどもと仙族の少女は倉庫の中です」
「あの二人が特別だと思っているのか?」
「わかりません。まあ、少女のほうは特に何の力もないようです。しかし、一緒でないと、あのこどもが癇癪を起すでしょう」
ゴウイツが苦笑しつつも頷く。
「最後に一つだけ訊くが、セイイツ、おまえの行動は矛盾しているとは思わないか? わしを自殺させないためにここに閉じ込めておきながら、今、おまえが自らやろうとしていることは完全に矛盾していると」
「父上とわたしは違います」
「どう違う?」
セイイツはちらりとゴウイツを見た。ゴウイツは、その目の奥に絶望を見た気がした。一時の感情ではなく、本物の絶望を。
「父上は息子を殺しましたか? 母上を自分の手で殺そうとしましたか?」
ゴウイツは深く溜息を漏らし、これ以上何を言おうと説得するのは無理だと悟った。
「任務のことはわしが何とかする。元々こんなことをするのは反対だが、どうするかは、これからゆっくり考えて決める。まだその時間は十分にあるだろう」
セイイツは頷くと、最後に小さく微笑んだ。
「さようなら、父上」
「親不孝な奴だ」
さすがに何か酸っぱいものが込み上げたゴウイツは、それを誤魔化すように笑って見せた。
「とはいえ、どうせ、時間の問題だ。わたしもすぐにそちらの世界へ行くことになる」
「待っています。母上と一緒に」
「冗談をいうな。あいつは…」
言いかけたゴウイツだったが、最後まで言い切ることは出来なかった。目の前から、セイイツの姿が消えたからだ。
再び、ゴウイツが大きく溜息をつく。
しばらく、無言で何かを感じとろうとしていた彼は、突如、この世からセイイツの生命反応が消えたのがわかった。
これほど簡単なことなのか…。
英雄と呼ばれた男がこの世から消えるのは、これほど造作もなく呆気ないことなのか?
彼の脳裏を、まだこどもだったころのセイイツの姿が駆け巡った。
わしはどこかでこどもの育て方を間違ったのか? それともこれが運命だったのか?
だが、今さら何を考えても無駄なことはわかっていた。
それに、セイイツにも言ったように、自分があの世と呼ばれる世界へいくのも、それほど先のことではない。過去にどんな間違いを犯したのせよ、セイイツは許してくれるはずだ。
ゴウイツは振り向くと、別天袋を収容した。背後に広がっていた世界が瞬時に消えてなくなり、ただの岩肌に変化する。それと同時に四か所に繋がっていたあの扉も消えた。扉ごと、ゴウイツが収容したからだ。
次の瞬間、ゴウイツの姿が鍾乳洞からパッと消え去った。
半妖グドンの選択 おわり
最後まで読んでくださってありがとうございました。心より感謝いたします。




