第45話 模擬戦
「――それ、言い値で譲ってくださらないかしら?」
カマーの声は、冗談めいているようでいて、ほんのわずかに本気の色を帯びていた。
店内の空気が、すっと張り詰める。
「……言い値、ですか?」
僕は手の中のポーション瓶を見つめる。
この大陸には現状存在しない回復性能薬。
しかも……フルポーション級だ。
それを、量産できる可能性があるとしたら――。
〈多くの命が救えるし、何より僕のためにもなる……〉
理屈では、悪い話ではない……
しかし……
これが……逆に軍や貴族の手に渡れば……
もし戦争になれば……戦局をひっくり返す兵器にもなり得る。
僕はまだ、この世界のパワーバランスを知らない。
それに……この薬は女神セリカ様から頂いたもの……
こんな大切な物を……知らないまま渡すのは――
かなり危険だ。
なら……
「……一つ、条件があります」
「まぁ♪ 何かしら?」
僕は、カマーを真っ直ぐ見た。
「対価はお金じゃなくていいです」
「……あら?」
更に空気が変わる。
「僕と……剣術の手合わせをお願いできますか?」
数秒の沈黙。
そして――
「……ふふ」
低く、楽しそうな笑い声。
「なるほど……つまりアタシを値踏みする気ね?」
図星だった。
王宮騎士団、しかもS級だ。
それが事実なら、実力も人格も相応のはず。
この人が信用できるかどうか。
それを、自分の目で確かめたい。
そして――
(この世界で、僕の実力がどこまで通用するのか)
試してみたい。
「ところで、あなた職業は?」
「えっと……聖騎士です」
「聖騎士!?幻の職業じゃない!?」
〈やっぱり……驚いている……〉
「まぁいいわ、OKよ♪」
色々聞きたそうだったが……カマーは即答した。
「ただし、手加減は保証しないわよ?」
「は、はい!!」
「ちなみに……私は重剣士よ」
「ヘビーソード!?」
一体どんな職業なんだ……
少し申し訳ないが、ステータスを覗かせてもらう……
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■ カマー・フィット(30)
職業: ヘビーソード Lv.19
生命力:900
魔法力:0
攻撃力:850
防御力:600
機動力:580
属性: なし
■ 称号: 剣豪の破壊者
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〈な、なんだよ……この数値……しかも、称号が破壊者って……なんか怖い……〉
少しだけ足が震えた。
とにかく、僕のステータス表示よりも格上なのは間違いない!!
そして……魔法力はゼロ……
〈そう言えば……魔力を持たない人間も存在するって、ギルド受付嬢のカリーナさんも言ってたっけ……
〉
だけど、魔力が無いからといって油断はできない。
それ以上の高いスペックを持っているのだから……
僕は覚悟を決めつつあった。
■ それから……10分後……
道具屋の裏手
そこには簡素だが、しっかりと整備された訓練用の広場があった。
「商人の裏とは思えませんね……」
ミラージュが小さく呟く。
「備えあれば憂いなし、よ♪」
カマーは木刀を二本持ってきた。
そして、一本を僕に差し出す。
受け取った瞬間、分かる。
軽い。だが重心が良い。
よく使い込まれている。
「それじゃカケルちゃん、始めましょうか」
カマーは構えた。
その瞬間……
〈ゾッ!!〉
背筋が凍りついた。
動きに無駄がない。
隙がない。
空気が、変わった?
さっきまでの妖艶な雰囲気は消え、そこに立っているのは一流の剣士。
……本物だ。
僕は深く息を吸う。
〈でも、ここからだ!!〉
僕は、対人戦は初めてだ。
魔物とは違う。
相手は思考する。誘う。読む。
足を半歩、引く。
視線を逸らさない。
一瞬も気が抜けない……
しかし……
「……行きます」
「いつでも、どうぞ!?」
ダッ!!
次の瞬間。
僕は、地面を蹴った。
木刀が空を裂く音が響く。
この一撃で分かる。
通用するのか。
それとも――。
ガギーーン!!
木刀と木刀のぶつかり合い、衝撃が走る!!
〈やっぱり、簡単に受け止められた……結構、全力だったんだけどな…〉
頭では分かっていたが……こうも簡単に受け止められると……さすがに落ち込む……
〈う〜ん……スピードはあるみたいね……〉
「では……これはどうかしら?」
ダッダッダッダッダッダッ!!
「うわ!!」
カマーは剣先を突き出し、物凄いスピードで、槍のように襲ってきた!!
しかも……剣先が複数に見えるほどの猛ラッシュだ!!!
「この!!」
僕も辛うじて猛ラッシュを回避するが……
「脇がガラ空きよ♪」
「へぇ?」
パシッ……
いつの間にか僕の腹部にカマーの足蹴りが入っていた……
しかし、痛みはない……どうやら寸止めしてくれたようだ……
〈動体視力もまぁまぁね……でも……〉
「つ、強い……」
始めから分かっていたが、カマーの実力は悔しいが本物だ……
しかも、全く本気を出していない……
「もう一度お願いします!!」
仕切り直しだ!!
「うおーーーッ!!」
僕は、もう一度カマーに剣を向け猛ダッシュするのだった。




