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4C:災王ルート(プレビュー版)その28

 一兵の奮闘に全軍が奮い立つ――。知恵と矜持を持ち合わせた人間であるからこそ生じたこの変容を、生来の獣である魔物どもは理解できなかった。

 何故、先ほどまで臆し、逃走の片鱗さえ垣間見えていた者達が急に攻勢に転じて来たのか。人間同士の争いならばこの劣勢は覆らない。

 所詮は死こそ誉の騎士道精神。

 美しくも無謀な死地への先駆けだ。

 しかし相手はそれを解せぬ獣ならばこそ、この理解不能な状況反転に著しく動揺し、そしてその動揺は一気に波及した。背後にサンドワームの死穴を負って尚、コボルトは下がり、ゴブリンは下がり、リザードマンも下がる。

 魔物の津波は引き潮へ変わる。

 重装騎兵たちはこの機を逃さない。

 逃せば終わりの潜在一隅だ。例え最初の交差でこれが『捨て身の攻撃』と悟られようとも、ここで退く選択肢はなく、そして押し返す好機もここしかないのだ。既に生還は捨てている。難攻不落の要塞になるとはそういうことだ。仲間達の撤退を誓う。ファーガスへ誓うとはそういうことだ。重装騎兵は地鳴りのような足踏みを鳴らしながら進軍し、戦槌を大仰に振り上げ、怖気に駆られた魔物達へ迫っていく。後退する弓兵たちも矢を引き絞り、この一矢が最大限の効果をあげるその瞬間を待つ。槍兵たちも下がりながら、しかしやがて殺到してくるであろう魔物達に備え、覚悟し、生ける剣山としてその切っ先を低く落す。

 恐らくそのときは、

 重装騎兵がその槌を振り降ろすその瞬間に訪れるだろう。

 撤退は間に合わない。

 しかしこの落命が女王都を刹那でも永らえさせるなら本望。

 皆がそう、ある種の陶酔と尊厳が滲む決意を胸に刻んでいた。


 陽光さえ喰らう――その影に空が覆われまるで。

 

 陶酔は絶望に。

 尊厳も絶望に。

 全てが絶望に糊塗された。

 ただ、この瞬間に。

 救済と言うには、あまりに禍々しかったのだ。

 かつての認定災厄にトラウマをもつ老兵が、黒く濁った空を仰いで、枯れるような断末魔を最初に溢す。


「ああ……イゾルデ様……。ブラックドラゴン公。貴女は女王都で冥府の釜を開くのですか?」


 暗い雲間を裂いて天から現れたのは巨大な――天使のように愛らしい七つの童顔。

 まるで好奇心から草間を覗き込む少年少女のように、それらは天上から下界を見下ろしていた。

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