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三十六話


「さあ、フラーニャ、これで覗きの心配はいらないわ。ベッドに横になりなさい。メイもお手伝いするのよ」

「もちろんですニャー!」

「よろしくお願いしますわ」


 うつ伏せになったフラーニャの背に、私は実家から持ってきた無数のリープッド達の怨念が籠った長年愛用しているブラシを取り出してフラーニャの背に当てますわ。

 サッ! サッと、最初は浅く……徐々に深く抜け毛をしっかりと取る様にして、リープッド達が気持ち良いと感じられる力加減で毛を梳いていきますわ。


「ニャ……ニャ……ああ……ニャアア……」

「ウフフフ……」


 ブラシを入れるとギュッとベッドのシーツを軽く掴んでいたフラーニャが、ブラッシングが強くなるのに合わせて徐々にベッドのシーツのしわが増えていきますわ。

 メイも私がブラシを入れていない足や尻尾の先などの細かな所を自前のブラシで撫でて行きますわね。


「き、気持ちいい……ニャ、ニャアア……ニャアアア……」


 声を押し殺していたフラーニャだけど、徐々に我慢できなくなったのか鳴き声が大きくなってきましたわ。

 ゴロンとたまらず転がったので、これ幸いにお腹にもブラシを掛けますわよ。


「ニャアアアアン……ニャアアン」

「ニャン。フラーニャ、清楚なのに毛玉が出来てしまっているニャ。今日はブラシのコツを覚えるのニャ。アーマリア様のお手を煩わせてはいけないのニャ」

「フフフ……メイ、それもまた楽しいのだから気にしないの。貴方の毛玉を取るのだって……素敵なのだから」

「ニャー」

「ニャアアン……ニャアアアン! ニャアアアアアアアン!」


 なんてやり取りをしながらフラーニャの胸と喉にも丁寧にブラシを掛けますわ。

 さらにゴロっとフラーニャが転がったわね。

 箱座りをする猫みたいな態勢で目を細めていますわ。

 大きな猫みたいでやっぱりリープッドは可愛らしいわぁ……。


 ポロポロと抜け毛もそれなりに取れて来ていますわね。

 まだまだ取りきれていないですわ。

 さて、重要な尻尾の付け根もやりますわよ。

 ここをブラシ掛けした際、フラーニャはどんな反応をするか楽しみですわ。


「ニャアアン! ああ……すごい! ゴロゴロゴロゴロゴロ……」

「フラーニャも喜んでくれているのニャ」

「さあ、メイも準備なさい。一緒にブラシがけをしてあげますわ。フラーニャも一緒で良いわよね?」


 ゴロゴロしながらフラーニャはコクコクと何度も頷きましたわ。


「ニャアアアン!」


 メイはバッと服を脱いで私の膝に体を預けてきましたわ。

 フフ……フラーニャの様に慣れない態度も良いけれど、メイの様に手慣れた様子ですり寄って来るのも素敵ですわ。

 って楽しい一時を楽しんでいると。


 ドンドンドンドンドンドン!


 と、至高の時間を妨害する音が響き渡った。


「君達! 部屋で一体何をしているんだ!」


 これはアルリウスの声ね。

 何やら慌てた様子で、しかも怒気が含まれている。


 さて……どうしたらいいのかしら?

 フラーニャの方を見ると、まだ目が潤んでいますわ。

 我に返っているのか、普段からボケっとした顔をしているフラーニャからすると分かり辛いですわね。


「邪魔が入ってしまったニャ」


 メイの方は扉の方を見て若干不愉快そうに眉を寄せていますわ。


「とりあえずメイ、フラーニャをアルリウスに見えない様に掛け布団を掛けてあげなさい」

「はいですニャ。ほら、フラーニャ」

「ニャー……ン」


 という訳で、フラーニャの羞恥心に配慮しながら私は部屋のカギを開けて応対するわ。


「アルリウス、そんなに慌てて一体どうしたのよ」

「どうしたもこうしたもない! 一体君達は部屋で何をしていたんだ!? 隣からフラーニャの喘ぐ声が聞こえてきたぞ!」


 アルリウスが非常に不愉快そうに私に問い詰めるような目線を向けてきたわ。

 ウフフ……凄くゾクゾクしちゃう。

 悪いお姉さんに詰め寄ったらいけないわよ。


「何ってフラーニャにブラシを掛けていただけよ」

「掛けていただけ……だと!? あんな声を出して、そんな訳がないだろう! 嘘を言うのも大概にしてほしい! フラーニャ! 大丈夫か!?」


 必死に室内に入ろうと、見ようとしているけれどフラーニャに失礼よ!

 そう思った所でフラーニャが掛け布団を羽織ながらムクッと立ち上がって問答をしている私達の元にやってきますわ。


「アルリウス」

「フラーニャ! 無事か!?」

「ええ……大丈夫よ」


 ホッとした表情になったアルリウスが私に敵愾心のある目をしてからフラーニャの手を握りますわ。


「だが、さっきフラーニャは凄い声を出していたじゃないか! 早くここから出るんだ!」


 で、私の方を見ますわね。


「幻滅だ……悪いがもう声をかけないでくれないか」


 おおう。ラインハルト様と同じ言葉を投げかけられちゃった。

 アルリウスの軽蔑の視線……なんかゾクゾクするわね。

 けれど、ここは誤解だと説明すべきよね。


「ニャ! アルリウス、これは――」

「さあ、フラーニャ」


 そうしてメイが弁明し、アルリウスがフラーニャを私の魔の手から救おうと引っ張ろうとした所で、フラーニャは逆に引っ張った。


「フラーニャ?」

「アルリウス、貴方は誤解しているわ」

「……フ、フラーニャ?」


 で、フラーニャはアルリウスの背後に回り込むようにして肩を掴み、そのまま部屋の中に押し込んでいく。

 なんか想像とは違った展開になりそうね。


「ウフフ……アーマリア様、アルリウスの毛並みを見てください。ここ……随分と汚れておりますわ」

「そうね……」


 この辺りの手入れは個人差がわかれるけれど、アルリウスは一際無自覚な様ですわ。

 きっとフラーニャと同様にリープッドの生態に関して経験が浅いからでしょうね。

 教会やお城にいた際には軽く手入れはしていたのでしょうけれど、それじゃあ足りませんわよ。

 今日は沢山戦ったのですから当然ですわね。


 ちなみに私達は定期的にお風呂には入る文化をしていますわ。

 ある程度清潔ではあるけれど、どうやらアルリウスは最低限しかしていなかったみたいね。


「い、一体何が……」


 フラーニャの並々ならぬ様子に動揺を隠せないアルリウスはキョロキョロと周囲を見渡す事しか出来ないわね。

 ああ、目が興奮してクリクリしていて可愛らしい。


「ニャー……アルリウス、誤解だニャー。アルリウスもこれを知ればきっと理解をしてくれるはずだニャ」


 メイも私とフラーニャが何をしたいのかわかったようで、ブラシを持ってアルリウスに詰め寄るわ。

 三人とも目が座っている自覚はありますわよ。

 こんな所に一番汚れているリープッドがやってきたんですもの。

 今日はがんばったのだからご褒美をあげなきゃいけませんわ。


「な、なんなんだ君達は! 目を覚ませ! 私に何をする気だ!」

「ブラッシングですわ」

「気持ちいいのニャ」

「さあ……始めましょう。リープッドって素敵なのですわ」


 と、がっしりとアルリウスが逃げられない様に肩を掴んだフラーニャを先導としてメイがアルリウスの服を一枚一枚脱がして……楽しい夜が始まったのよ。


「や、やめろ! う、うわぁああああああああああああああああああああああああああ!」


 バタンと私は部屋の扉を閉めてしっかりと……鍵を掛けたわ。

 夜はこれからですわね。


 翌朝、アルリウスは如何わしい事は何もなかった事を理解してくれたわ。

 毛並みはツヤツヤになりましてよ!

 当然、私は三人のリープッドを相手に朝、マタタビの棒でプカーをしましたわ。

 朝チュンですわ!


とりあえず一章完です。

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