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二十九話

 それから二日ほどは特に変わり映えのない講習を受けた。

 ただ、野営の仕方とかは学べたから収穫かしらね。

 前世の知識があるから焚火の焚き方とかはわかっていたけれど、見張りの仕方は参考に出来たわ。


 休憩のコツとかね。

 座って寝るって中々難しいのだけれど、冒険者ならこの辺りは覚えなきゃいけないみたい。

 タフでないと生きていけないのは段位があっても変わらないのでしょうね。

 なんとなくサバイバル講習を受けただけだった様な気はするけど気にしないわ。

 後は専門講習を受けて行けって感じで、私の初めての訓練課程は終わったわ。



 Fランク 段位4 アマリリス

 初級冒険者訓練課程修了



「フフ……やったわ」

「アマリリス様ー」


 ギルド内でカードの更新を終えた所でメイも講習を終えてやってきたわ。


「どうでしたかニャ?」

「見なさい」


 私はメイにカードを見せるわ。


「やりましたニャ! アマリリス様のカードに記載されましたニャ!」

「ええそうよ! これで私も冒険者として一歩を踏み出したのよ」


 なんとなく無意味な三日間を過ごした様な気もするけれど、気にしない。

 前世の知識で大体どうにかなった様な気もする。


 水の確保とかこの世界は結構大変らしいのよね。

 川の水とか井戸水とか、浄化の魔法とか煮沸消毒をしないと飲んだらお腹を壊すそうよ。


 この辺りは前世の記憶ともあんまり差が無いか……。

 ただ、汚染された水が多いのは人類の生存領域が広がらない理由みたいね。


「あ、そうニャ。アマリリス様、教会でお呼び出しが来ているそうニャ。さっき教会の人が使いに来ていたニャ」

「何かしら?」


 メイは小声で他の人に聞こえない様に囁くように言ったわ。


「大司教様がお帰りになったそうニャ。それでアーマリア様とお話がしたいそうニャよ」


 うっ……あの人からのお呼び出し?

 ちょっと勘弁してほしいけれど、色々と良くしてくれているからしょうがないわね。


「わかったわ。早速行きましょうか」

「はいですニャ!」


 という訳で私達は教会の方に出向いた。

 教会にいる人にアーマリアとしてのカードを提示して大司教を呼び出す。

 相変わらず応接間みたいな所に案内されたわ。


「これはこれは聖女アーマリア様。話によれば私共より先に迷宮都市に入り、熱心に活動しているとのお話を耳にしております。経過はどうでしょうか?」


 これは私が偽名で講習を受けていた事はわかっている感じでしょうね。

 それ位の腹黒さは持ち合わせている相手よ。


「一応順調ね。何事も基礎から覚えないと足元をすくわれるわ」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。さすがは聖女様ですね。ギルドの者達も聖女様を見習ってもらいたいモノです」

「それで、私に何か用かしら?」

「まずは聖女様のご実家であるアルミュール家からのお荷物をお預かりしております。後ほどお渡ししますのでお受け取りください」

「今すぐではなくて?」

「馬車に沢山積んでありますので」


 スピナーハンド、何を大司教に預けたのかしら?

 ちょっと気になるわね。

 後で確認しましょう。


「わかったわ。要件はそれだけ?」

「いえ……」


 隠す様に声を低くして大司教は説明を始めた。


「これは現在計画されている段階の話なのですが、聖女様の耳に入れて頂ければと思う案件です」

「なに?」

「聖女様は迷宮に潜る事なく講習を受けておりましたよね? この後は迷宮に潜るのでしょうか? それともより上位の講習を受ける方針で?」


 なんでこんな事を気にするのかしら?

 まあ、大司教からしたら私は聖女だから安全な所でお飾りの聖女をしてほしいってことなんでしょうけど。

 ……場合によっては他国の迷宮都市とかを探して逃げるべきかしら。


「なんで貴方にそんな事を答えなくてはいけなくて? そんなの私の勝手でしょう?」


 素のアーマリアとして若干きつめの返答を大司教に行う。


「ご機嫌を損ねたのでしたら謝罪致します。私共としては聖女アーマリア様が迷宮に挑みたいと仰るのなら止めるつもりはありません」

「あら? 随分と殊勝な心がけね」


 この手の権力欲の塊の連中って人を利用する事しか考えず、駒が勝手に動く事を良しとはしない。

 それとも私は既に用済みとでも言いたいのかしら?


「段位神ヴィヌムス様は聖女様一行に関して感謝の気持ちを私達に伝えておられます。そんな聖女様を無意味な権力闘争に巻き込もうものならヴィムヌス様の恩恵が失われる危険が付きまといますので」


 あらま……その辺りの事を懸念しているのね。


「何より段位神ヴィムヌス様は冒険を推進する神。聖女様が迷宮に挑むのなら止める事こそ罪でしょう」


 大司教も中々難しい立場にいらっしゃるのね。

 これも神様が意思を持って提示している影響でしょう。


「で? なんで私のこれからの予定を気にしているのかしら?」

「ええ、その件でお尋ねするのもこちらの都合……というよりも聖女様にお聞きしたい一件が絡んでおりましてね」

「何かしら?」

「聖女様は迷宮都市の現状をどう捕えておられるでしょうか?」

「そうね……物価の高騰はまだ良いとして、大冒険者時代! って状態で迷宮の混雑がうっとおしいわね」

「ニャー……」


 私の素直な感想にメイは黙っていたけれど、思わず同意と言った様子で頷き続けている。


「そうでしょうな。これは世界単位で行われている問題ではあります。じきに解消するとは思うのですが、しばらくの間は続くでしょう」

「ええ。それがどうかしたのかしら?」

「ここでお話したい話というのは聖女様方も悪い話ではない物です」

「勿体ぶるのはやめなさい」


 この手の権力を持った連中って前置きが長いのよね。

 アーマリアは何だかんだ気が短くもあるので、この手の話は好きじゃない。


「では単刀直入にお尋ねしますが、聖女様は現段階で未踏の迷宮に興味はありますかな?」


 ピンとメイの耳が跳ねたわね。

 ふーん……と思わず悪女っぽい表情を浮かべてしまう。


「続けなさい」

「ではご説明しましょう。現在、迷宮都市近隣にある迷宮には沢山の冒険者達が出入りしております」


 地図を広げて大司教は私達に説明するわ。

 で……迷宮都市から少し離れた川辺の山奥を指差しますわね。

 一応、道らしきものはあるみたいだけど……。


「ここに少しばかり離れた……強い魔物が生息する地域が存在します。ええ、ヴィムヌス様が解放されるまで立ち入りするのは真なる意味で上位の冒険者しかいなかった地域です。危険ですから関所を設け、今も見張りを立てている場所でございます」

「ここに何があるって言うの?」

「もちろん……迷宮です。出現する魔物は強く、今まで手が出せなかった場所です。ここにいる地上の魔物達を殲滅し、開拓……人々の出入りが出来るようにする計画が持ち上がっております」

「へぇ……それと私に何の関係が?」

「この計画候補地は他にも何件かあるのです。何分……大冒険者時代ですからねぇ」


 ああ、他にも候補地があって、戦力が整って来たから魔物を倒して迷宮の入口へのアクセスをしやすくする……入れる迷宮を増やす計画がギルドと合同で行われるって事で良いのでしょう。


「それでです。聖女様には一つの迷宮と近隣地域の開拓をお願いしてよろしいかと判断しておりまして……どうでしょうか?」


 つまり迷宮への一番乗りと地上の魔物の一掃を任せたいって話、と。

 邪神の使徒を倒せる聖女だから任せられる依頼と言った所ね。


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