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二十一話


 なんて思いながら王様のいらっしゃる協議の場への扉の前に大臣が居るのに気付いて視線を向ける。

 王様と共に厳しい視線を私に向けていたのだ。この大臣の態度で反応が分かるはず。

 すると機嫌が良さそうにニコっと返されてしまった。


 おお……どうやら私の実績から許してくれている様ね。

 これなら大丈夫でしょう。


 そう思いながら私が先頭になって協議の場である部屋の扉を潜る。

 扉に関しては使用人が入ろうとすれば入れてくれるものね。


「聖女様の来場ー」


 という声が聞こえて来て、会談の場……部屋の中を確認する。

 机はなく、椅子だけで話をする場所になっているみたい。


「これはこれはよく来られた聖女様。貴方の活躍は世界規模で有名になっている様で、お目通り出来てワシも嬉しく思う」


 と、王様が、大臣に誰が聖女なのかを尋ねてから聞き出し、若干低姿勢で私に握手を求めて来る。

 二週間前に激怒して睨んでいた人物だとは思えない対応ね。

 なんだかんだで政治の中で生きているって事なのかもしれないわ。

 王様の後ろではつまらなそうなラインハルト様がこっちを見ていますわ。

 わかってはいるけれど大事な席だから出席しているって顔ね。


 私は無言で手を差し出し、握手をする。

 鎧越しだけどね。


「それで聖女様は鎧に身を固めているが見目麗しい外見をしているとの話、どうかその姿を見せて頂けないか?」


 ……ん?


「えー……その……王様? その、私の経歴に関して正しく把握しておられるでしょうか?」


 私は言葉を濁しながら選ぶように答える。

 この私の声を聞けば、王様ならわかっているはずよね?

 ラインハルト様の表情からしてわからないはずもない。


「もちろんじゃ」


 よかったよかった。

 わかっているのならいいのよ。

 さすがは王様。切り替えが早いわね。


「……」


 ふと、ここでアルム国式の正しい敬礼をしているアルリウスに目がいくわ。

 よくその敬礼の仕方を知っていたわね。

 その凛々しさ、ラインハルト様を思い出すと同時に微笑ましいわ。

 ただ、アルリウスをラインハルト様も見てる?

 確かによく出来た敬礼だものね。


「であるから、その姿を見せてくれんか。鎧越しでは苦しかろう」


 肩を抜いたラフな格好でーって事を言いたいのよね。

 わかるわかる。

 この辺りは元々婚約者だったからアーマリアが結構体験している。


「本当に……よろしいのですか?」

「聖女様は随分と謙虚な方の様じゃな。もちろん大丈夫に決まっているではないか」


 まあ、さっきのやり取りから私が何者であるかをわかっているみたいだし、大丈夫よね。

 君子豹変す、とか過去の罪は水に流しているって事で良いのかも。


「わかりました……それでは」


 と、私は膝をついて家宝の鎧から降りて王様の前に立つ。


「き、貴様は――!?」


 ここで王様は私の顔を見て絶句とも苦虫を噛み潰したとも言える、複雑な表情を浮かべた。

 それから大司教の方と大臣を見て、大臣が同様に驚きの表情を浮かべている事に眉を寄せる。


 ちょっと……話が行ってたんじゃないの?

 もしかして聖女が来るーってだけで大して話を聞いてなかったとでも言う気?

 まあ平然と私を王城に招いた時点で大丈夫かなぁとは思っていたけれど。


 むしろ大臣の怠慢なのかしら?

 それとも教会関係とか、その辺りの派閥の隠蔽工作からきた強烈なボディブロー?

 ラインハルト様の不機嫌な様子を見て察しなかった王様が耄碌している可能性が高いわ。


「ええ、この方が、ドリーイム迷宮において段位神ヴィヌムス様を解放成されたアルム国の流刑追放者であったアーマリア様であられます。アルム国王様、ご理解なさっておられなかった、と言う事はありませんよね?」


 大司教が小首を傾げながら尋ねる。

 これは教会が確信を持ってやらかした、で良いのかしら?

 それとも意固地になって私の帰国を拒否したりしない様にする為の慈悲?

 さすがにこの場で私を罵倒なんて王様も出来ないでしょうけど……。


「そ、そうじゃな。よくぞ罪を償って戻って……きた! アーマリア、貴様から剥奪した貴族の地位を再度授けるとしよう」

「もちろん家督や地位などはしっかりと上げて下さるのでしょう?」


 大司教の追加攻撃!

 王様の額に青筋が浮かんでいるわ。


「も、もちろんじゃ。アルミュール家から没収した地位を返還。聖女に授けようとしていた地位と領地も……与える」


 間違いないわ。

 私に恩というか抱え込む為に色々と権力とか領地とか沢山準備していたのよ。


 きっとアルム国出身の女性とか、その辺りまでしか耳にしていなかったとかだわ。

 ここで断れば教会を、世界を敵に回すわよね。王様の個人的な采配で償った罰を理由に報償をキャンセルとかは……他国が付け入る隙になりかねないわ。

 まさかその聖女が二週間程前に罰した貴族の女だなんて夢にも思わなかったのね。

 風聞だけを聞いて色々と用意していたんだ。

 もしくは私は既に死んだ者として数えていて、可能性を度外視されていたのかしら?


 アルム国に関して不安になってきたわ……大丈夫かしら。

 いえ……仮に王様がこの事実を知っていても、拒否は出来ないわね。

 私の出生があるわけだし。


 これは私自身の失態とも言えるかもしれない。

 自身の家柄を世間に流布せずに犯罪者だった女程度で済ませればよかったのよ。

 もしくは聖女って経歴だけを王様に伝えた奴の所為! 大臣辺りが怪しいわ。

 もっと世界を改革してしまった私の経歴をしっかりと見なかった王様も悪いけどね。

 ……他人の所為にする方向に思考が向かっている。


「ごめんあそばせ」

「くっ!」


 こら! なんで謝罪する気分で相手を挑発するんだ私!

 王様のプライドがズタズタだぞ!

 しかも私を傷つけたり権力で何かしようものなら世界から糾弾される。

 針のむしろだ。


 ごめんなさい。そんなつもりじゃないの!

 このまま会談を続けたら私が耐えられないし、王様の胃に穴が開くのは間違いない。

 元々私の自業自得、王様の為に早めにこの場を去った方が良さそう。

 別に私は王様に対して恨み節なんてないの。


「ラインハルト、何か言う事はないか?」


 ここで王様が盛大にラインハルト様にぶん投げを行う。


「お前の婚約者ではないか」

「……父上、誠に申し訳ありませんが彼女との婚約は破談となっております」


 今まで黙っていたラインハルト様が王様に向かって答えました。

 そうですわ。悪行が明るみになった際に、私の婚約者としての立場は無くなりました。

 例え返り咲いたとしても、無かった事にはなりません。

 むしろ無かった事にしてしまっている王様の方に問題があるのよ。


「そうですわ。例え償ったとしても過去にはもう戻れませんわ」

「だ、だが……」


 尚も追いすがろうとする王様に私は一礼してから背を向けました。


「それでは用事が済んだので私は失礼させていただきますわ」


 心から私はそう願い、家宝の鎧に入るわ。

 アルリウスが私と王様のやり取りを非常に困った顔で見ている。

 そりゃあわかるわよね。


「では、予定よりも早いですが、会談を切り上げましょう。アーマリア=G=アミュエール様、ご自身の貴族の地位が戻った事を教会の者を代表して祝福いたします」

「あ、ありがとう」


 腹黒なのか天然なのかわからない大司教からの言葉に私は礼を述べて会談の場を後にする事にしたのだった。

 久しぶりにラインハルト様を見たけれど、やっぱり不機嫌そうだったわ。


 ……なんとなく別人みたいに感じる。

 それだけ……私の事を怒っていらっしゃるのでしょう。

 潔癖な方でしたから。


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