二十二話
「おお! そこにいるのは聖女にして学園の生徒アーマリア嬢で違いない!」
なんか……王様との会談を終えると出待ちをしていた学園の校長先生が私に声を掛けてきた。
家宝の鎧を着ているのによくわかったわね。
「ええ、三週間ぶりですわね、校長先生」
「うむ! 生徒であるアーマリア嬢の活躍、学園も鼻が高いぞ」
……いや、学園は私の悪行を深く受け止めて退学処分にしたじゃない。
何を言っているのかしら?
「さあ、いつでも学園に戻ってきて良いのじゃぞ。学園はアーマリア嬢が帰って来る事を待っている!」
ここにも手の平べアリングがいたわ。
しっかりと念を押さねばいけないわ。じゃないとつけ入れられる。
スピナーハンドは手の平返しが異様に早く、日の目を見る前に勝利を確信していたから良いけど、校長は随分と調子の良い事を考えているみたい。
ここはガツンと言っておかなきゃダメね。
「いえいえ、私は既に学園を退学処分された身。おめおめと舞い戻っては迷惑を掛けた学園の皆様に顔向け等出来ませんわ」
私の謙遜の言葉に校長はまだニコニコとしながら揉み手を続ける。
「いやいや、君は十分に罪を償った。退学処分など学園はしておらん。罪を償う事を前提とした休学処分だったではないか」
事実の改竄とは、どこまで聖女が所属していた学園って箔がほしいのか。
呆れて物が言えませんわ。
いえ……ここは、私を退学処分にした学園という汚名を被りたくない、なんて状況も加味するって所かしら。
けれど、さすがに学園の方を擁護するのもどうかと思いますし……悩ましいですわね。
ただ、この手の平返しは不服ですし、もっと顔色をうかがってほしかったわね。
もっと低姿勢だったら話を合わせてあげましたわ。
「その様な事実を私は認識しておりませんでしたわ。今一度、確認した方がよろしいかと思いますわ」
こう……今更学園に舞い戻って何をしろと言うのでしょうね?
アーマリアの学園生活なんてラインハルトへのアタック以外なんもない。
それ以外だと学園内で仕事に来ているリープッドにちょっかいを出していた位ね。
……本当、好きな事しかしてないな。
前世を思い出す前のアーマリアは。
もっとまじめに学ぼうよ。
とはいっても……悪行を仕出かして退学にされた訳で、その悪行は学園のみんなも知っている。
そんな所へ呑気に行く気は起きない。
気に食わない奴を聖女としての権力で思いのままに使えると思われるし、そう言った感じで顔色を伺われるのは……前世を思い出す前のアーマリアからしたら悪くはないけど、今は嫌!
うん……ここはきっぱりと断った方がいいわ。
何か知りたかったら詳しい者を雇用して教えを請えば良いし、学園に所属する意味はもうない。
「やはり復学に関しては考えておりません。幾ら償ったと言われても、私自身がまだ、許せていないからですわ」
「おお……何と高潔な精神……」
大司教が合わせて感嘆の声を上げているけど、正直この人も怪しいのよね。
「なのでせっかくの提案ですが、断らせていただきますわ」
「し、しかし」
ここで取りつく島を与えては良い様に利用されかねないのでしっかりと言っておきましょう。
「それでは、校長先生、またどこかで会える事を心から願っておりますわ。その際は、生徒ではなくアーマリアとして見てくださいまし」
「あ……」
とまあ名残惜しそうにしている校長にやんわりと拒絶の言葉を投げかけて私は足早にその場を去った。
うん……やっぱり非常に居心地悪いわ。
追放された所から返り咲いたのに、優越感はあっても共感性があると相手の裏が見えて気持ち悪いのだと知った。
「それでは、何かありましたらいつでも教会に来てください。出来る限り力になりますよ」
で、大司教がこれから教会に行こうと言ったので断り、一応の実家であるアルミュール家に戻った。
「はぁー……緊張したわー」
「うにゃーん」
屋敷の応接間にみんなを案内してから、椅子に腰かけてメイを膝に乗せてこれでもかと撫でまわす。
アルリウス達もせっかくだからと招待して屋敷内で休んでもらっているわ。
使用人達の目線がちょっと痛いけれど、ね。
こう、なんだアイツ……って顔に書いてあるのよ。
まあ当然と言えば当然よね。
犯罪が明るみになってスピナーハンドに勘当されようとしていたら、スピナーハンドが妙な態度で家宝の鎧を持っていかせて、一週間と少しで聖女になって戻って来たんだもの。
それ以前に色々と好ましくない悪女の罪が露見して罪人になったのに、妙な感じに返り咲きしてきたら複雑な気持ちにもなるわよね。
う~ん、なんとも言えない爽快感の無さ。
貴族に戻れて、前世で憧れた三食昼寝+ティータイム付き、更にメイを好きにブラッシング出来る生活を取り戻したのに、釈然としないわ。
「メイはアーマリア様が元の地位に戻り、聖女に任命された事を誇りに思うのニャ」
「ええ、ありがとう」
その所為で、なんていうか色々と政治の道具にさせられそうなのよね。
まあ、前世を思い出す前のアルミュール家の令嬢の時よりも、思いのまま権力を使えそうなんだけどね。
気に食わない奴がいたら『アイツは邪神の使徒よ! 間違いないわ!』とか言うだけで相手を社会的抹殺出来るという、恐ろしい程の権力を持っている事になっちゃってるけど。
こういう事を思い付くのはアーマリアの性根が腐っているのか、それとも前世のオレも腐っていたのか、どっちなのかしら。
「あ、そうニャ! アーマリア様! メイは今回、アーマリア様をお支えした功績で使い魔の学校を卒業出来るだけの特例を頂きましたニャ! しかも上級使い魔資格も一緒にもらったニャ! でもメイは継続してアーマリア様にお仕えしたいのですニャ」
つまりメイは使い魔として一人前……いえ、エリートとしての資格をもらったのね。
確か使い魔って職業はリープッド族がなれる物で、魔法使いの補佐役をする職業だったはずよ。
「私は魔法使いじゃないわよ? それでも良いのかしら?」
「アーマリア様は聖女なのですニャ。むしろベテラン使い魔がこぞってお願いに来ると思うニャ」
メイの言葉を聞いて妄想してしまう。
エリート使い魔資格を持つ、無数のリープッドが私の僕になりたいとお願いしてくる光景を……。
天国だわ。
だけど、その中で一番を選べと言うなら、私が困っている時に支えようと一番に来てくれたメイ以外いないわ。
「何があろうと困っている時に力になってくれたメイが私の一番の使い魔よ。メイが望むなら喜んで引き受けるわ」
「にゃーん! アーマリア様ありがとうございますニャー!」
私の功績でメイが良い目にあってくれるのは非常に嬉しく思える。
……いえ、私だけの功績じゃなく、みんなのお陰なんだけどね。
恐ろしい程の強運にも恵まれたし。
それから私はしばらくメイを撫でまわし、そこそこ贅沢でゴロゴロした生活を数日ほど続けた。
今日はメイやみんなを連れてピクニックでも行こうかな、これからの私はどうなるのかとぼんやりと考えながらの日々だった。
ただ、夜会とかに参加して愛想笑いをしながら聖女として話をするなんて事もあり、かなり窮屈に感じている。
私自身が主導的に動けば権力が思いのままであるはずなのだけど……なんとも満たされない。
おそらくこれはアーマリアとしての願望が叶ったけれど前世の私を合わせると、望んだ結末ではないという事なのかもしれない。
いえ、アーマリアも満たされていない。
これは……アレね。
憧れであった物を手にしたのだけど、いざ手にしてみると、憧れていた時の様な感覚が無い……なんていう、わがままな感覚。
前世だとゲームで物凄く高額で取引されている装備を入手した時、憧れていた時はほしいとばかり思い浮かんだけれど、いざ手に入れて性能を堪能した際に、こんなものだったっけ? って想像との違いに落胆するみたいな感覚。
これが近いわ。
しかも……アーマリア自身の直感のお陰でさらりとくぐりぬけられているのだけど……なんか目の上のタンコブとして他の貴族達に目を付けられ始めている。
正直、贅沢は出来るけど、メイ達とじゃれる以外で気が休まらない予感がしていた。
なんて満たされない日々を数日過ごしていた所……機会は訪れた。




