4-1 火喰鳥
4 火喰鳥
覚醒したその日から、瑠樺は自らのなかにある妖力を強く感じるようになっていった。
油断をすると、その妖力が勝手に動き出してしまいそうで、瑠樺はそれを抑えるために注意をむけて一日を過ごすことになった。
夜になり、部屋に戻って一人になりやっとホッと息をつく。
その感覚に身を任せるように、そっと瞼を閉じる。
途端に緩くなったガードをすり抜け、周囲の気が自分のなかに流れ込んでくる。いや、正確には自分の気が外に向けられ、多くの気を拾い集めてしまうのだ。
街を行き交う人々の気。そして、いくつかの妖気。
これは……人々のなかで暮らす妖かしの気。
人々の暮らしの向こう側で潜んで生きる妖かしの気。
木霊……小さな小さな精霊たち。
こんなふうに気を感じられるようになったのも、最近になって自分に起きた変化の一つだ。
きっと覚醒したことと、矢塚の稽古を続けてきた成果なのだろう。
ただ、一つ困ったことは、無意識のうちに周囲の気を感じ取るようになってしまっていることだ。
――キミの妖力は今、すごい速さで成長しているんだ。だから、そのアンテナをオフにすることがしにくくなっている。成長に精神が追いつけば、そのうちそのアンテナを自由にオンオフ出来るようになるよ。
矢塚はそう言っている。
そんなわけで、今はつい気を緩ませるとこんなふうに街中の妖気を拾い集めてしまうわけだ。
妖気といっても、それはさまざまだ。
しかも、その多くな一般の人の小さな小さな気のなかに混じる妖気のことが多い。多くの人々の中にはわずかではあるが、無意識のなかに小さな妖気を持っているのだ。
だが、今夜はそんな妖気のなかに異質なものが混じっていることに気がついた。
(これは?)
これまでに感じ取ったことのない不思議な気配だった。
それはとても小さく、ほんの一瞬のことだったが、強く印象に残るものであることに間違いなかった。
どこか懐かしく、そして、暖かみのある気。
(あれは?)
瑠樺はいつしか母のことを思い出していた。
* * *
翌日の放課後、瑠樺は雅緋と共に学校近くの公園に立ち寄っていた。
「何それ? 特殊な妖気? 何か特殊な妖かしの気でも感じたのかしら?」
瑠樺の話を聞いた後、雅緋はいつものような冷たいものいいで言った。
「いえ、そういうものとは違うような気がします」
「妖気なのでしょう?」
「そうなんですけど……でも、もっと大きいような……そう、まるでこの星そのものの妖気のような」
「星? ずいぶんオーバーな――」
そう言ってから、雅緋は突如何かに気づいたかのように言葉を切った。
「星っていうのはちょっと大げさだったかもしれないですけど」
「……いえ、そのことはいいわ。忘れて。ところであなた、矢塚さんのところの修行は順調なの?」
「さ、さあ、順調かどうかはよくわかりませんけど……」
雅緋には先日の猫仮面とのことについて、それによって自分が覚醒したことも話していない。
「きっと順調なのよ」
断言するかのように雅緋は言った。だが、雅緋に言われるとそれが間違いないことのように感じられてくる。
実はあの猫仮面と出会った後、すぐに思い出したのは雅緋のことだった。あれが雅緋だったら……と、考えたこともあった。だが、どうにもあのニャァニャァ喋るキャラと雅緋が一致するとは思えない。そして、思いたくもなかった。
「そう……でしょうか」
「このまま修行を続けるといいわ。きっとあなたならもっと強くなれるわ」
「雅緋さんのほうはどうなんですか?」
「さっぱりね。ああ、そうだわ。これ返しておいてくれる? また新しいのをお願いするわ。出来ればもっとちゃんとしたものにしてもらえると嬉しいわ」
雅緋はそう言ってカバンの中から古びた書物を3冊取り出して瑠樺へ渡した。
あの日以来、瑠樺は矢塚の屋敷に行くたびに古い資料を持ち帰って雅緋へ渡すようになっていた。
矢塚に蔵の書物をいつでも読んでいいと言われたはずなのだが、雅緋は一切、矢塚の屋敷に行こうとはしなかった。
「何がちゃんとしている物なのか私にはわかりません。雅緋さん自身が行かれたほうがいいんじゃないですか? そのほうが早いと思いますけど」
少しだけ皮肉をこめて瑠樺は言った。
「いやよ。私、本当はあまりあの屋敷に行きたくないのよ。あの墓守にもあまり会いたくないしね」
「墓守って矢塚さんのことですか?」
「そうよ。他に誰がいるのよ。あの家の人間は昔から何を考えてるか、ホントわからないのよ」
「昔から?」
その言葉に違和感があった。「雅緋さん、矢塚さんのこと知っているんですか?」
「え? どうして?」
「今、昔からって……言いましたよね?」
雅緋は一瞬、考えてから――
「そうね……ただの言い間違いよ。気にしないで。じゃあ、よろしくね」
珍しく言葉につまりながら答えると、雅緋はスタスタと足早に去っていった。
雅緋はいったい何を隠しているのだろう?




