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月下奇譚  作者: 土斑猫
終夜の話
52/59

終夜の話・壱

 気づいた時、あたしは見た事もない場所に倒れていた。


 何か、妙に暗い。まだ、午前中の筈なのに。

 いや。暗いと言うのは、語弊があるかも知れない。光は、あった。辺りは、確かに光に満たされている。ただ、それが太陽や炎のギラギラとした光じゃない。仄暗く、透き通った光だ。


 フラフラする頭。吐き気を堪えながら、身を起こす。

 大きく息をつくと、冷たく澄んだ空気が胸を満たす。吸い慣れたスモッグで濁った空気じゃない。それだけで、ここが今まで暮らしていた場所じゃない事が知れた。


 空を仰ぐと、そこには夜空が広がっていた。ただ、それもまた、あたしが見知る排煙に覆われた空じゃない。煙どころか、雲も星もない。どこまでも遠い。遠い空。その中心に大きな。大きくて真っ青な満月が座していた。



 「何……ここ……?」



 呟いて周りを見回した瞬間、あたしと同じ様に倒れているシェミーや皆の姿が目に入った。



 「シ、シェミー!?」



 慌てて、シェミーを抱き起こす。その身体に、温もりと呼吸がある事にホッとしていると、背後から声が飛んできた。



 「心配いらんよ。皆、気絶しているだけさ」



 振り返ると、そこには黒衣を揺らす魔女の姉弟。サヤとコウヤが立っていた。



 「あんた達……」



 あたしはシェミーを抱いたまま、彼女達に食ってかかる。



 「一体、何をしたの!?ここは何処!?あたし達を、どうするつもり!?」



 けれど、そんなあたしにサヤは相変わらずの薄笑みを浮かべた顔で言う。



 「何を怒っている?君達はもう私の所有物(もの)だ。それをどう扱おうと、私の自由だろう?」

 「何を……」

 「だから、そうやって気に入りを虐めるのはやめろって」



 頭に上りかけた血を、コウヤの平々担とした声がストンと下げた。



 「君も、こうなったからには慣れておくれ。この(ひと)はこう言うノリなんだから」



 言いながら、隣りのサヤの帽子をトントンとつつく。



 「おや?随分とトゲのある言い方をしてくれるじゃないか。煌夜」

 「後を取り繕うのは、いつも僕なんだ。トゲの一つも生えるだろうさ」

 「女性に贈る花のトゲは抜くものだぞ?」

 「それで傷つく玉じゃないだろ。姉さんは」

 「ほほう。言ってくれるじゃないか」



 カヤカヤと言い合う二人。その様子に、あたしはすっかり毒気を抜かれてしまう。



 「ああ、もういいわ」



 そう言うと、二人は揃ってこっちを見た。


 「おや、大分物分りは良くなったらしいね」

 「そう言ってくれると、助かるよ」



 しゃあしゃあとそんな事を言う二人。

 そんな彼女達に、改めて訊く。



 「とにかく、知らなきゃいけない事は教えてよ。ここは何処?あたし達は、どうなるの?」

 「ああ、それなら心配いらんよ。皆が目を覚ましたら、まとめて話をしよう。その方が、話は早いだろうさ」

 「それまで休んでおいで。まだ、次元転送の負荷が残っているだろう。それに……」



 あたしの問いにそう答えると、コウヤは背後の暗闇を振り返る。



 「もうじき、迎えが来る」



 黒い視線が見通す闇の向こう。そこで、微かな光が揺れた様な気がした。

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