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1話

「おかえりー」

「ただいま」

 母さんに素っ気無い返事を返し、軽く手洗いを済ませると、俺はすぐに自室へ向かうために早足に階段を駆け上がっていった。

 自室の扉を勢いよく開き、俺はカーテンの締め切られた薄暗くホコリっぽい部屋へと逃げ込んだ。部屋へ入ると、体を向けずに、後ろに伸ばした手で扉を閉じる。

 そして制服に皴がつくかもしれないと、頭の端で考える自分を視界の外へと追いやり、ベッドに飛び込んだ。

 僅かに沈む体をマットレスが押し返してくる。この瞬間ようやく俺は自分が自由になったと心が落ち着く。

 小さなため息がこぼれた。

「はぁ」

 ベッドに飛び込んだ衝撃で頭の中の小さな俺たちが零れ落ちてしまったのか、脱力感だけが俺の体を包んでいる。そんな状態の中エアコンをしっかりと起動している辺り、なかなか俺の無意識は有能なのかもしれない。

 五分ほどだろうか、そうしてベッドの上に倒れこんでいると、ベッドに飛び込んだ際にあちらこちらへと飛び散っていた小さな俺たちが次々に頭の中へと帰還を果たしていた。

「うぐぅ、宿題やんねぇと」

 訴える脳内の小さな俺を、もう一度視界の外へと追いやって部屋着へと着替えていく。着替える最中軽く部屋を見たが、我ながら汚い。そんな部屋を見ていると、宿題をやれと訴える小人を蹴散らしながら掃除をしようと小人が訴えてくる。

 学校から持ち帰って机の上に散乱しているプリント類。中学時代に使っていた教科書やノートがいくつか足元に放置され、最近買った漫画は途中まで読んで十巻分も積まれている。

 掃除に取り掛かろうと床に放置された漫画に手を伸ばしかけ、まずは給油を、との肉体の訴えに俺とその他小人達はすぐさま全ての案を一度廃棄処分とした。

 飯を食い、風呂に入り、テレビを見て、時計を見ると九時丁度である。

 そして俺の手が伸びる先は散らかった部屋ではなく、パソコンの電源ボタンだった。廃棄された案を掘り起こす気力が今の俺には無かったんだ。

「ニートレベル診断機」

 数分彷徨った挙句、そんな風に書かれたサイトへのURLをクリック。

 少しして表示されたサイトは手抜き間が滲み出しており、思わず詐欺的なサイトなどではと疑ってしまうレベルだ。

 何せ画面に表示されているのは、『スタート』ボタンと、『あなたのニートレベルを診断します』と書かれた文章だけ。他には一切何も無い。例えば別のページへのリンクや、せめて小奇麗に見せるためのレイアウト的なものない。真っ白な背景である。

「スタート……」

 声に出しながら、不気味なボタンをクリックする。すると画面には突然『2110』という数列が表示された。咄嗟に時計を確認すると二十一時十分。そしてついでに言えば、

「に、い、と」

 である。

 俺は唖然とする以外になかった。正直に言ってだから? って感じだ。レベルが表示されるのではなく、現在の時刻を表示するだけ、たまたまそれが『にいと』であるだけ。これはある意味詐欺だ。

「うん、掃除しよ」

 大分前に一度廃棄処分された案を掘り起こし、俺はパソコンの電源を切ろうとしたとき、

「ふぁー、あぁ」

 聞き覚えの無い声で大きなあくびが聞こえた。音源は背後。そして背後は扉である。客人が間違えて入ってきたのだろうと決め付け、俺は振り向いた。

「あの――」

 良くあることで、我が家は結構人を招く。そして酔ったおじ様、おば様方が俺の部屋にやってくるなどなれたもので、こういったときの所作は心得ているつもりだった。だから緊張などせずに自然体でいつものように、

「部屋、間違えてませんか?」

 直後絶句である。

 美少女がそこには立っていた。

 艶のある黒髪が胸の辺りまで伸びていて、程よく盛り上がる胸部に掛かっている。めんどくさそうな目で俺を見て、口元に添えられた白い手はついさっきまであくびをしていたことを俺に伝えている。

 そして開けられた扉から入ってくる光が、後光のように彼女を背後から照らしていた。

「いーや、わたしは間違えてないよ」

 嫌に悪戯な笑みを浮かべ、

「今日からここが、わたしのお勤め先だからね」

 はっきりと口にした。

「はぁ?」

 無意識のうちに口からこぼれた言葉はそんなものだった。

 脳内ではさっきまでくだらない案を次々に運んできていた小人達も、きっとたいそう混乱しながら脳内の情報伝達をいそいそとこなしている頃合であろう。

「わたしは」

「はあ」

「今日から」

「はあ」

「ここで」

「ん?」

「生活します」

「か」

 久々に大声を上げて、リビングでくつろいでいるであろう母を呼ぶつもりで発した第一声以降は、一切音にならなかった。

 なぜかって? 美少女が勢いよく俺の口を塞いでいるからですよ。それも結構力が強く、顎が外れてしまいそうだ。

「君のご両親は明日から海外出張だから、しかも無期限の」

 俺の口を塞いだまま美少女が口にしたのはそんな理解不能な、分けの分からない戯言だった。

「もうお風呂は行った?」

 俺は頷く。

「ご飯も?」

 頷く。

「じゃあ、お休み」

 次の瞬間世界は本日の営業を終了させていた。

というわけで、1話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

なにか意見等ございましたらコメントお願いします。

本作に反映できるかどうかは、作者の時間しだいですが、次回作を書く際に参考にさせていただきます。

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