1-1 入学式の朝
「レイー!準備できたのー!?」
貴族らしからぬ声量で下の階から叫んでるのは僕の母さん。
「んー、、、あとちょっとー」
「早くしないと遅刻するわよ!初日から遅刻なんてどこの不良かと思われるでしょ!」
「不良なんて貴族学校にいないよ〜」
「まぁ!わからないわよ。幼い頃からそれはそれは大きなプレッシャー受けてるんだから、みんな捻くれててもおかしくないわ」
「アーッハッハ!まったく、うちの奥さんときたら、今日も今日とて面白いね」
愛おしそうに声の大きな淑女を見つめるのが僕の父さん。当時には珍しい貴族と平民の恋愛結婚で、騎士だった父さんが大怪我をした際に母さんに治療してもらって恋に落ちたらしい。今じゃ、子どもの前でも関係なくラブラブな、この国きってのおしどり夫婦だ。
「うーん、難しいな。」
今日はシルベリア王国立ラルフレーベ貴族学校の入学式。この国の貴族は全員15歳で入学を義務付けられていて、末端貴族の僕のうちも、もちろん例外じゃない。学ぶ内容は主に、この国の歴史、政治、領地運営、戦術、産業など、貴族が貴族であるために修めなければならないものばかり。しかし、必要であるが故に既に学び終わっているケースも少なくはない。そうした”優等生”にとってはこの学生生活が友達作り兼人生最後の夏休みというわけだ。日本の高校と大学が一緒になったみたいな場所である。
「こう、かな?」
「もう、何してるの!ご飯冷めちゃうわよ。」
人生初のリボンネクタイに苦戦していると待ちきれなくなった両親が部屋に襲来してきた。
「わーごめんごめん。ネクタイって難しいんだね。」
「どれ父さんに貸してみなさい。
、、、よし、できた。なかなか似合ってるじゃないか。」
「ありがとう父さん」
鏡には茶色の瞳、焦茶の髪をした自分が見慣れない姿で映っていた。
「あはは、、、服に着られてる感、、、」
「そお?そのうち見慣れて、休日でも制服を着るようになるわよ!」
「そういうものかな?
とりあえず、行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
バタン。
「、、、ついにこの時が来てしまったのね。」
「あぁ。でもきっとあの子なら大丈夫さ」
扉の向こうで、不安げに眉を下げる母さんの手を父さんの傷だらけの手が包み込んで慰めていたことを僕は知る由もない。




