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灰冠のアーカイブ  作者: 深町 ネル
第一章『墓底のオルゴール』

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第2話 封じられた出口

墓地は広かった。


予想外に広かった。地下に何層も続いていて、各層に数十の区画がある。石棺は全部で何千個あるか数えたくない。


歩きながら、俺は気づいていた。


足音の刻み方を知っている——足裏の重心の置き方で音を最小化する歩き方。這い回った経験の痕跡みたいなものが、体の中にある。どこで覚えた?俺の記憶にはない。


でもそれは確かに「使える」。


気になったが後で考えることにした。今は出口が先だ。


三層目の下り階段を見つけて降りようとしたとき、上から音が聞こえた。


足音。複数。


重い靴底。等間隔の歩調。


訓練された人間の動き方だ、と俺はまた「どこかで覚えた知識」で判断した。


「……逃げる」


考えるより先に体が動いた。三層目の奥へ。石棺の陰に滑り込む。


松明の明かりが階段を照らした。三人、四人——五人か。全員が鎧を着ている。白い鎧だ。胸のところに環が刻まれている。


(白環教の兵士か)


この情報がどこから来たのかも分からない。でも合っている気がした。


「いた形跡はあります」と一人が言う。「最近まで人がいた。暖かさが残っている」


「追え。逃げるとしたらこの方向だ」


こっちに来る。


石棺の陰で、俺は息を潜めた。


心臓が速くなる。でも恐怖というより——緊張、とでも言うべき何かだった。勝負事の前の感覚に近い。


(俺は怖くないのか?)


不思議に思いながら、俺は周囲の残滓を感じた。


この区画の死者たちの記憶が、ざわめいた。


——そこの棺の蓋、重心が偏っている。叩けば音が跳ね返る。


——三歩先の床石が緩んでいる。踏めば沈む。


——抜け道は向かって左の壁、第三列の棺の後ろにある。


全部、この区画で死んだ誰かの記憶だ。生前にここを歩いたことがある誰かの、足の記憶。


俺はそれを、使った。


緩んだ床石を意図的に踏んだ。ゴン、と鈍い音が響いた。


兵士たちの注意がそっちへ向いた隙に、棺の後ろへ移動。壁に手をつく。


——こっから先は引き押しじゃなく上だ。


記憶が言った。俺は壁の特定の石を「上に押した」。


かちり、と音がして、石が動いた。狭い通路が現れた。


体を滑り込ませる。石を引き戻す。


真っ暗。


兵士たちの声が、壁越しに聞こえる。「逃げた?」「どこへ」「落ち着け、出口は封じてある」


封じてある。


俺は暗がりの中で、それを聞いて、少し考えた。


封じてあるということは、俺がここにいると知っていて来た。何日も前から計画して来た。


(俺を捕まえに来たのか)


なんのために?


答えは分からない。記憶がない。


でも分かることがある。


捕まったら、ろくなことにならない。


それだけで十分だ。


暗い通路を、奥へ進んだ。

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― 新着の感想 ―
こういうダークな雰囲気で、主人公目線で鬱々とした雰囲気のダンジョンを歩いて模索していく感じ凄く好きです…
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