大雨と読書
「空が真っ暗・・・。これは一雨降りそうですね。ほら、遠くで雷の光が見えますよ」
「ああ、時期にここにも来るだろうな。今日はみんな家にいた方がいい」
俺とマーガレットが危惧していた通り、すぐに水滴の跡が地面を濡らしていく。
俺達は手分けして立掛けていた農具やら、干していた魚を家にしまい込んでいると
ザーーーっと大粒の雨が空を埋め尽くした。
バタンっとドアを閉めてから頭からポタポタと落ちてくる水滴を腕で拭う。
マーガレットがすぐに大きめのタオルを奥の部屋から持ってきてくれたので、
ガシガシと雑に濡れた肌を拭きとった。
トトノエも自慢の毛皮が濡れてしまったのかブルブルと体を捩って水分を飛ばしている
「ふーーちょっと暖炉に火をくべよう。濡れたままだと風邪を引きそうだ」
「ありがとうございます」
暖炉の横にあった薪を用意し、火打石で干し草にカンカンっと火花を散らすと
ボウっと燃え上がりオレンジ色の光が部屋を照らす。
後ろを振り向くとすでにトトノエがリーシアと暖炉の前に陣取っていて
ちょっとクスリと笑ってしまった。
俺は一旦部屋に戻って着替える事にした。最後まで外に残っていたせいか
俺の濡れ具合はちと暖炉で乾せるようなレベルではない。
自室に戻ってから新しい服に袖を通していると、窓がピカっと光った。
その5秒後くらいにドーーン!!!ゴロゴロゴロと窓が振動したんじゃないか
と思うくらいの轟音が家中に響き渡った。
「キャーーーーーー!!!」っと女性たちの事件性のある悲鳴が聞こえてくる。
俺にはそっちの声の方がよほどドキリとした。
けど一番驚いたのはその悲鳴がシャルルの部屋の方からもした事だった。
勇ましい騎士様でも雷は怖いらしい。
俺は彼女の部屋の前に立ちコンコンとノックしたが、返事が無かったので
「おいシャルル大丈夫か?入るぞ」と言ってから扉を開けた。
彼女はベッドの上で何事も無かったかのような顔で澄まし顔をしているが
顔色はあまり良くないので、怖がっているのがバレバレだ。
「シャルル、顔色が悪いぞ。本当に大丈夫か?」
「何のことだ?わ、私は全然大丈夫だ。雷なんか怖くないぞ!全く問題ない!」
断言されてしまった。
まあ本人がそう言ってるんだから大丈夫なんだろう。
あまり追及しても藪蛇になりそうだしな。
「その・・・みんな暖炉の前にいるから、気が向いたらシャルルも来てくれ」
「ああ、怖くは無いが考えておこう」
リビングに戻ると皆勢ぞろいして、どこから持ってきたのかイスと毛布を
掛けて温まっていた
こんな時お茶かコーヒーでもあればいいのだが、贅沢は言えないか。
ん?植物図鑑で代わりになりそうなものが森に生えていないか
調べてみるのもありだな。
どうせこの雨なら何もする事はないしな。
「オスカー様も暖炉の前で温まりますか?今日は何だか冷えますし」
「ああ、いやちょっと部屋から本を持ってくることにするよ」
「なんの本ですか?」
「植物図鑑だよ。色々な植物が図解付きで載ってるしから食べられる植物とか
キノコなんかも載ってるから、お茶になる植物でも載ってたらと思ってね」
「へー!それはいいですね。読み終わったら私も読ませてもらっていいですか?」
「リーシアも読みたい!」
「うん、じゃあ皆で読もうか」
「はい!」「やったー!」
俺は部屋から持ってきた図鑑を開き、文字の読めないマーガレットとリーシアにも
わかるように、読んで聞かせて上げた。
外は相変らず真っ暗で、雷が鳴るたびに女性陣はキャーキャーと言っていたが
それでも二人は興味しんしんといった様子で図鑑を食い入るように見ている。
日本では子供でも文字の読み書きが当たり前に出来たけど、この世界では
識字率が低いらしい。学校でもあればいいがそんなもの期待できないしな。
今度時間がある時に読み書きを教えてあげるとするか。
──夜になっても雨は一日中降り続いていた。
俺とトトノエは一緒に窓をじっと見ていた。
雨は作物に取っては良い。充分な水分を取って晴れたらより一層育つだろう。
でもここまでスコールのように降ってしまうと心配だ。
もしかしたら畝も崩れてしまうかもしれない。
雨が長引けば根腐れの心配も出てくる。
この世界には雨除けのシートなんてものも当然ないから今できる事はないのだが
こうして眺めているだけってのはどうにももどかしいな。
「心配かい?孫六爺さん」
「当たり前だろ?」
「だよな・・・・」
俺達の気持ちとは裏腹に雨は一向に止む気配が無い。
今も遠くで雷鳴がなっている。
家の天井からはゴーーっと雨が叩きつける音と雨どいを伝って水が流れる音が
ひっきりなしに聞こえてくる。
翌日になっても少し勢いは弱まったが雨は降り続けた。
さらに翌日になると空は嘘のように晴れ上がり、雲一つない澄み切った空が広がっていた。
「良かった。ちょっと畝は崩れているけど作物は無事だな」
「ほっとしました、まだ降り続いていたらどうなっていたか」
「ああ、さあ崩れた畝に土を盛ってあげよう」
「はい!」
こうして不安な夜は過ぎ去った。でも悪い事ばかりじゃない。
ここの所晴れの日が続いていたから、毎日水やりに苦労していたがこれで
しばらくは大丈夫だろう。
それに植物図鑑に野生から採れるお湯に浸すとお茶のように飲める植物がある
事がわかった。畑仕事が落ち着いたら近くに無いか探しに行って見よう。




