女性騎士と農夫の矜持
「うっ・・・・ここ・・は?私は一体・・・・!?」「目が覚めましたか?」
女性兵士を家で保護してから三日ほどしてようやく目覚めたと聞いて
俺は彼女の寝ている寝室をノックをした。
彼女はこの三日でさらに少し痩せ顔色も青く、出会った頃のマーガレット達を
思い出させるほど目に見えて弱っていて目の焦点が合っていないみたいだった。
彼女が寝ているベットの横にはマーガレットが寄り添ってくれている。
俺の姿を確認すると彼女は顔を顰めながらじっと見つめてから口を開いた。
「君は・・・・農夫か?」
「ああしがない百姓だよ。俺はオスカー・イシャウッドだ。体の加減はどうだ?」
「・・・あまり良くない。イシャウッド・・・どこかで聞いた気もするが・・・」
「君はうちの畑の直ぐそばで血まみれで倒れていたんだ。一体何があった?」
「助けてくれた事には感謝する。だがそれは言いたくないんだ」
そう言うと彼女はフイっ俺から顔を背け窓の方を見てそれきり何も
話さなくなってしまった。何か事情があるんだろうか?
せめて名前だけでも聞いておきたかったのだが仕方ないか。
血塗れで倒れていたんだ。よほど辛い事が彼女にあったのかも知れないしな。
今はそっとしておいてやる事にし、マーガレットに目で合図して
彼女を託した。マーガレットも何も言わずにコクリと頷いてくれた。
俺はそのまま畑に出てジャガイモの生育状況を確認する。
ジャガイモはあれから小さな若葉が生えてきており順調に育っている。
穢れの事もあったから無事に芽が出てくれて正直ほっとした。
もう少し育ってくれば芽かきが必要な時期になってくるだろう。
焼き畑をしたとはいえやはりジャガイモは過酷な環境でも育つ優秀な作物だな。
ほうれん草もほぼ同時に芽が出ていた。
芽出しをしていたからとは言え予想よりも早く芽が出てくれて良かった。
ほうれん草は種まきから収穫まで30~40日ほどで収穫できるので
あと一か月ちょっとで食べられるようになる。
「・・・という事でまずは汲み取り式の便所を作るとしますか」
汲み取り式の便所は堆肥を作る上で重要な設備だ。
水洗のトイレに比べて匂いがするのが難点だが、匂いが籠らないように
完全な密室ではなく小屋の上部に隙間を開けて作るつもりだ。
まずは深めの穴を掘りそこに丈夫な木で作っておいた桶を設置する。
この桶を作るのが中々に苦労した。
俺は大工じゃないから丸い桶なんか作れない。あれにはそれなりの道具と
技術や知識がないと作れないからな。日曜大工で出来るレベルじゃない。
だから今は簡素な四角い桶だ。
今度マーヴィンのところに行って腕利きの大工を紹介してもらおうかな?
何はともあれこうして俺は1日がかりで簡易汲み取り便所を完成させた。
こうして大工仕事を出来るのも最近食料事情が少しだけ安定しているからだ。
川魚は仕掛けのおかげで毎日安定して獲れるので今では干し魚にしてある。
山菜やキノコ類も今時期近くの雑木林に行けば、かなりの量採れるし
それ以外にも食べられる木の実なんかもある。
この辺は辺境なので人の手もあまり入ってないから取り放題なのだ。
・・・と言ってもこの地が栄えていた頃の人口がいた場合、
とても賄えるほどでは無いのだが。
夕方、俺が一仕事終えて家に戻ると、夕餉の良い香りがしてきた。
今日は魚と山菜の色どり鍋だ。
最近食事はマーガレットとリーシアが積極的にやってくれている。
実家にいた時に母親に料理の手伝いはやらされていたみたいで味も悪くない。
「私は彼女にご飯を持っていきますね。先に召し上がっていてください」
「ああ・・・悪いなマーガレット」
うん、料理は塩味が薄く少々味気ない気がするが実家にいた時の
料理よりは全然美味しい。今度持って行ってあげよう。
そんな事を俺が思っていると突然”ガシャーン”という食器が割れる音が
”例の彼女”の寝室の方からしたので、俺は何かあったのかと急いで向かった。
ガチャリとドアを開けるとマーガレットが持ってきた食事が無残に床に
散らかり、それをマーガレットが片付けている所だった。
「い・・・一体何があったんだ?」
「腐っても私は騎士だ!貴様ら農夫などに施しなど受けん!」
彼女は吐き捨てるようにそう言うと肩でゼェゼェと息をして興奮している。
兵士だと思ったら騎士だったのか・・・いや
今はそんな事はどうでもいいな。
俺は床に散乱した食器と食べ物の残骸ををマーガレットと一緒にかたずけ
「彼女と大事な話があるから少し席を外してもらえるかい?」と
耳打ちするとマーガレットは黙ってコクリと頷いてから部屋を後にした。
さて・・・俺には一つだけどんな理由があろうとも許せない事がある。
これは農夫である矜持でもあるし、日本人として生まれた精神性でもある。
だから俺はベッドの横にある椅子に座り彼女の目を見て問いかけた。
「あんたが何者なのかは知らん。お偉い騎士様なのかも知れない。
俺は農家の生まれだから騎士道とかその辺の難しい事はよーわからん。
けどな、これだけはわかる事がある」
「・・・・なんだ?貴様!何が言いたい!」
「こんの馬鹿垂れが!!!食べ物を粗末にするような奴はなあ!
騎士だろうが王様だろうが大馬鹿野郎って事だよ!!憶えておけ!!」
「なっ!?!?き・・・貴様・・・」
やってしまった。。。
前世でもそうだったのだが俺はどうしても食べ物を粗末にする奴がいると
言いたい事を全部言ってしまう。
短気なのはよくないと頭ではわかっているんだが、若い頃食べる事も
ままならないのを何度も味わってきたからそういう奴は許せん質なんだよな。




