27,5ぺーじめ
1ヶ月ちょい待たせました、読者の皆さん申し訳ありません。
今回はあの命の恩人なシーフが出てきます。
勇者に思いっきり(珍しくパーティーでもないのに)振り回される人間が2人いた。
樹木に人間が吹き飛ばされる、という凄まじい光景を見ながら、法魔はため息をついた。
「うわああああああ!?」
『30回目ですよ?』
空間魔法を使って優しく吹き飛ばされた人間――ダイアド――を受け止め、彼は言う。
「詠唱しないで魔法を使うのは難しいんだよ!!」
いつから言うようになったのか、完全なタメ口でダイアドは法魔に吠える。――20回目辺りからキレ始めたからかもしれない。そのまま、彼はヤケクソ気味に叫ぶ。
「ああっ、もう一回!!」
『次こそは5発、無詠唱で魔法を当てて下さいよ』
(御主人様以外を受け止めるのは嫌だから)
心の中で付け足しながら、法魔が応援(?)をする。…………………また、吹き飛ばされた。
『はあ』
ため息をついて、法魔はまた空間魔法を使った。まだまだ無詠唱で魔法を使うのは長そうだ。
『止まれば出来るのに、何故動くと出来ないのです?』
ダイアドを受け止め、皮肉交じりに法魔が尋ねる。すると、ダイアドはキレ気味でこう答えた。
「止まってれば思いっきり集中出来るでしょ!!」
ああもうもう一回、と、ダイアドはヤケクソ特攻を繰り返す。結果の解った特攻に、法魔は何度目ともつかないため息をついた。
そして、もう一人の振り回されている人間――ソブキ――はというと、
「ソブキさーん?」
「チッ」
眠りを浅くする生活を送っていた。というのも、話しは数日前に遡る。
ソブキが、カイトに「少女2人を助けてやってくれ」と依頼した日のことだ。
―――カイトが去った(逃げたとも言う)後、ソブキは振り返り、二人の少女に笑いかけた。
「大丈夫か?あ~、嫌じゃなけりゃ、俺が護衛しようか?」
ソブキがそう訊くと、少女2人は顔を強張らせた。まあ、そうだよな。俺達は迫害される側だ。そう、諦めの心境で目を閉じたソブキの耳に、大量の音が聞こえた。
「ッ、マズイっ!」
今まで幾度も自分を助けてきた自分の耳を信じ、ソブキは少女達を小脇に抱えてその場を飛び退いた。
「ちょ―――」「きゃぁッ!?」
爆発。
少女達が言葉を言い終わる前に、一瞬前まで自分達が立っていた場所が消し飛ぶ。それに驚く暇もなく、ゴブリンが顔を出した。
「何よ!!ゴブリンぐらい―――」
そんなフラグじみた言葉を回収するかのように、またゴブリンが姿を見せる。2匹、4匹、16匹、32匹、まるで、1秒毎に二乗しています、とでも言わんばかりにゴブリンが増える、増える、増える。
「あっの馬鹿!!」
ソブキは脚に力を込めて爆発的な加速でゴブリンの軍団を引き離そうと試みた。しかし、理性を失うことで知能が低くなってしまっているゴブリンシャーマンの、魔法が邪魔だ。狙いが粗く、回避した方向に魔法が飛んでいる、なんて地獄のようなことが起きかねない。とはいえ、獣人特有の凄まじい五感があるから、そこまで速くなく、連携もとれていない魔法の弾幕掃射などを避けるのは簡単だ。しかし、いかんせん数が多い。回避に時間をとられ、力を溜める一瞬がとれない。
「なんで見捨てないのよ!?」
それを見た騎士の少女が叫ぶが、ソブキの回答は、舌を噛むから黙れ、だった。ソブキは、自分の手が届く場所で人の命がこぼれ落ちるのを見捨てられない。それは主義であり、家訓でもあり、教えであり、性分でもある。結局、彼はお人好しなのだ。だから、見捨てられない。
(どうする?俺じゃあの数のゴブリンを相手するのは骨だ。囲まれたら削り殺される)
一瞬の時間があれば振り切れるのに―――、その心をよそに、じわじわと距離が詰まる。死の気配が近づく。焦りが、積もっていく。
(クソ―――、マズイな)
いよいよ1人でこの大軍を足止めするしかないか、と考えたソブキの耳に、呪文の詠唱が聞こえた。
「ファイアボール!!」
数体のゴブリン吹き飛んだ事を、五感全てが教えてくる。何故、などと考える暇は無い。彼は反射で魔法使いの少女に指示を出す。
「1秒でいい、遠距離攻撃を防いでくれ!!」
結界が張られる。それを感覚で感じ取ったソブキは、脚にぐっと力を込める。
ボッ。
比喩ではなく、そんな音が聞こえた。地面が凹む程の力が、爆発的な推進力を産む。背中は結界が守ってくれる。ならば、見えなくなるまで引き離すのみだ。
そして―――。
「つ゛か゛れ゛た゛」
ソブキ達は城門に着いた。
少女達を下ろしなから、ソブキがへたりこむ。まさに、見た目通りのおじさんが全力疾走した後のような光景だ。
「ギルドまで――運ぶか?」
行きも絶え絶えに、ソブキが質問する。ソブキのそんな姿を見て、騎士の少女が爆発する。
「なんで!!なんで私達を助けたの!?あんなの、私達だったら―――」
「勝てる、とか、言わないよな?」
底冷えするような声だった。彼の見立てでは、彼女達は戦力差も考えられないような実力では無い。そんな冒険者が、軽々しくも勝てない相手を勝てるなどと言おうとしたのが、ソブキの額に青筋を浮かべさせた。
「そんな、自分と相手の戦力差ぐらい、判断出来ない実力じゃないはずだ」
しかし、ソブキは怒りで怒鳴る、などということはしなかった。ただ、怒りを胸の中に押し込め、穏やかに言葉を発する。そんなソブキのまるで親のような雰囲気に、少女達は言葉が出なかった。
「俺は見ての通りおじさんだがよ、だからこそ、若い奴らが死ぬのは見たくないんだ………。理由は、そんなモンで充分だろ?立てるか?」
そう言ってソブキは立ち上がり、騎士の少女に手を差し出す。これ以上無様な姿は見せられない、とでも思ったのか、騎士の少女はその手を無視して立ち上がろうとする、が、やはり【狂化】スキルのを使いすぎた反動の痛みで、身体に力が入れられない。
「全く、万一のために、転移石ぐらい持っておかないと………。【狂化】を使いすぎるよりはいい」
少なくとも、転移石はギルドが貸し出ししてる。そう言って、ソブキは騎士の少女を背負った。
「な、何をするのよ!!」
叫びながら騎士の少女がソブキを叩こうとするが、体中に走る痛みに呻く。
「その元気を分けて欲しいよ。ほら、魔法使いの嬢ちゃんも。ギルドに行くぞ」
道中、ソブキの背中から呻き声がずっと聞こえていた。
ギルドに着くと、ソブキが連れている2人を見て、受付嬢が露骨に嫌そうな顔をした。
「ソブキさん、その【ほっとけない病】、なんとかしませんか?」
「無理だな。彼女は【狂化】を使いすぎたみたいだ。ツボ押ししてやってくれ」
ため息をついて、受付嬢が騎士の少女を奥に連れ込む。数秒後、悲鳴が聞こえてきた。
「あれ、痛ぇんだよな…………、あ、代金どうぞ」
「あ、あの………、なんで、助けてく、くれたんですか?」
少し震えながら、今まで静かだった魔法使いの少女が質問した。それに、ソブキではなく受付嬢が答える。
「本当に病気なのよ。助けるって意志に侵されてんの」
「…………仮にも受付嬢が言うか、おい」
「一応、受付嬢兼副ギルマスよ」
「そーだったな」
そんな、人間と亜人が仲良く気軽に話す光景を見て、魔法使いの少女の常識が崩れる。そして、気付いた。
(私は、全く周りを見てなかった。ギルドは、こんなに、種族なんて気にしていない―――)
周りを見れば、獣人と人間の冒険者が報酬の分け方で喧嘩し、それを鬼人が宥めて、その隣ではクエストを失敗したらしい獣人とドワーフと人間のパーティーがやけ酒をしており、さらに見れば、ドワーフとエルフが扉を潜りながら拳を打ち付けている。
「ソブキ、さん」
「ん?どうした」
「どうすれば、恩返し出来るか解らないけれど…………私を、パーティーに入れて……………役立て下さい。せめてもの罪滅ぼしに……………」
「いや、罪滅ぼしなんていい」
その言葉で、少女の表情がさらに曇る、が、
「でも、パーティーに入ってくれんなら大歓迎だ。流石にこの歳でソロはキツくなってくる」
続くソブキの言葉で表情をパッとほころばせた。
「うぇ!?ミノちゃん!?なら、私も入れて!!」
ここから、様々なことで好感度を上げすぎたのか、ソブキは貞操を狙われ続けるのだが、その苦労で溜まったヘイトは全てカイトに向くことになる。実際に、カイトが勝手なことをしなければこんな事にはならなかったのだから、正当な理由だ。
彼は今日も女の子から逃げるというウラヤマシイ行為を続け、叫ぶ。
「あんのクソ馬鹿ぁ!!」
増えるゴブリンが出てきた時、ソブキさんがあの馬鹿って言った理由は、『カイトが爆発音で引き寄せた』からです。
ちなみに、イグジットストーンの貸し出し方は、
申請して石をもらう→帰ってくる→返すor使ったら報酬から天引き
ソブキさんは買ってるから天引きはされてない。
尚、天引きされるとはいえ、借りるほうが実際はお得。




