まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう⑧)
作中に不快な表現があります。ご了承ください。
抱っこされたまま書斎にやって来ると聞いた通り母が既にソファに座り私達が来るのを待っていた。
私を母の隣に座らせた父は私達の向かいのソファにゆったりと腰を下ろした。
いつもの家族団らんとした様子とは違う事に何となく肌で感じ取った私は伺うように2人を見ていたが、母のリリスが何時ものようにおっとりと穏やかに笑い、ティリエスの右手を優しく握る。
何時もとは違うが緊急な事ではないと判断したティリエスはへらりと母に笑いかけ、ギュッと手を握り返し今度は連れてきた父のアドルフを見つめた。
その様子を見ていたアドルフは2人に口を開く。
「リリス、それにティリー。2人に少しお願いしたいことがあるんだ。」
「?お願い事ですか?お父様。」
優しい口調で言う父にティリエスは首を傾げる。
生れて初めて父に改まったお願い事をされるのは初めての事、一体どういったお願い事なのか。
「王都へ出向いて少し報告することが出来たのでな、その間ラディン達、メドイド家の騎士を数名警護派遣をお願いして手配もしているが念のため私がいない1か月程遠出の外出を控えてほしいのだ。」
「報告?」
「アドルフ様もしかして、西の―――。」
西?
思ったより硬い声色で口にした母の言葉をティリエスの耳に入る。
母は何かを察してなのかその続きを言う事はなく、変に言葉を止めた母から父の顔を見れば父が少しだけ困った表情になっていた。
どうやら母の言おうとした言葉の続きを私に聞かせたくないらしい。
「・・・・・・・・・。」
正直に言えば気になるが私は大人しく黙っている事にした。
「私の留守中にもしもの事があればと考えると心配なんだ。分かってくれるね?」
「それならアドルフ様、私達は御祖父様へお邪魔させていただきましょうか?それなら王都からも近いですし。」
「それも考えてたが、リリス・・・君が折角採ってきた解毒薬の材料の処理があるだろ?干せば沢山の解毒剤が作れるといってとても張り切っていたじゃないか。」
確か、この前採ってきた薬草は乾燥させて煮詰めることで解毒効果が強まるからと母が天候を気にしながら話していたのを思い出す。そして、自生場所が少なく採取できる日数も少ないから貴重な材料という事も。
あんなに目を輝かせ嬉しそうに話していた母をがっかりさせたくはないという父の配慮なんだろうな・・・ヤバイ、やっぱり私の父イケメン!
「でも・・・。」
それでも母は遠慮して渋る姿を見て私はふむ・・・と徐に口を開いた。
「お父様、じゃぁ私達は屋敷でお留守番していたらいいんですね?」
「っ!ティリーでもそれだと貴女が窮屈な思いをしてしまうわ。最近お外に行きたそうにしていたし・・・。」
そんな風に言う母に大きく首を横に振ってにぱっと笑う。
「いいえお母様!私、お屋敷の読んだことがない本も読みたいしギリアと一緒に料理を考えたり色々したいことがありますから大丈夫ですっ!」
確かにお目当ての物を見つけたくて毎日のように母やメイド達に無理言って外に行っていたけどまぁ・・・結局成果はなかったけど元々私はインドア派だから問題なし!
心の中で親指を立てながら母に元気よくそう言うと、母のリリスは小さく笑った。
2人の表情を見て父もにっこりと微笑む。
「では決まりだ。リリスとティリーは屋敷でお留守番を頼む、それとだ。」
そういって父は何かを机の引き出しから取り出す。
黒いしっかりしした箱を2つ取り出したアドルフは2人の机の前に其々を置いた。
その内の1つの箱を開けると黒い石と深い緑の色の雫の形をした石が連なったペンダントがそこに納まっていた。
研磨された石が光に当たってつるりと光沢を放って2人を魅了した。
「王都にいるディオス叔父上が魔法錬金術で作ったペンダントだ。お守りの付与をしてあると言っていたからこれをつけておいてほしい。」
「綺麗ですね・・・。」
そっとそれに触れながら私は呟く。
・・・確かに何か付与がしてあるな。位置がわかるような・・・これはGPSか?
ペンダントから感じ取る付与に大まかに調べて手を放す。
いまだ、忙しく出会ったことのない大叔父様が1人ディオス大叔父様。
魔法、錬金術関係で右に出る者はいないと言われているだけあり高度な付与がされているようだ。
でも、惜しい・・・これだけうまく作られているならあと、2つ3つ付与が出来るほど精巧なペンダントの作りなのに・・・もったいないな、こっそり改良しよっと。
あ、兎に角お礼を言わなければ!
「ありがとうございますお父様!私、このペンダント気に入りました!」
ティリエスはそういって大事そうにその箱を抱えたのだった。
はしゃいで部屋を出ていった娘を見送ったリリスは小さなため息を零した後、何かを考えている様子の我が夫の元へと足を運んだ。
「何か、分かったのですね。」
リリスの言葉にじっとしていたアドルフはゆるゆると顔を上げる。
そこには笑った顔でも困った顔でもない、表情を無くした彼の顔がそこにあった。
彼の怒りを押し殺した顔だ。リリスは久しく見ていなかった表情に胸が痛くなるのを感じた。
「西の村で倒れていた女性の遺体は・・・エルフだった。」
「エルフ・・・エルフってあの何百年も他国と殆ど交易していないあの・・・森の民というのですか?」
殆ど、もしかしたら一生見られないかもしれない閉鎖された領域エルフの領域に住む住人が亡骸となって発見されたことにリリスは驚きを隠せないでいた。
何よりここからルーンシーまでかなりの距離がある、それこそ王都の倍は日数がかかる場所だ。それなのにどうしてこんな山奥で発見されたのか不思議だった。
「それは分からない・・・だが村医者の者にその女性の身体を調べて貰ったのだが・・・。」
そこまで言って一度気を落ち着かせるように深く静かに息を吐いたアドルフは重い口を開いた。
「詳細は君は女性だから省くが・・・エルフの女性は性奴隷として身を置いていた様子があった。」
「まさかそんなっ・・・。」
その言葉にリリスは小さく息を呑んだ。
大昔争いが絶えなかった時代は確かにこの国には奴隷制度という制度が確かに存在していた。
だが今現在、1つの国として機能していき争いも徐々に減っていった時代の流れとともにその制度は撤廃され奴隷として身を落とされた者は解放された。
勿論その後奴隷商売をする者がいれば大罪とされ即死刑に処されるほどの重罪とされ、現在は表向き奴隷商人は居なくなったとされている。
「身体全体酷い暴力の痕があったが特に下腹部はひどい暴行の痕が残されていた。・・・私も文献でしか知り得ないが性奴隷としての証明とされた左耳の一部を故意に刃物で切断されていた。」
「・・・その女性は随分とやせ細っていたと伺っていますわ。」
「そうとう劣悪な環境に居たのだろう。やっとの想いで逃げてきたのだろうが発見されたのは冬の季節だった、元々のギリギリの身体に冬の寒さもあって・・・そこで力尽きたんだろう。」
容易に想像できるその女性の結末に2人は何も言葉にできず一時重い沈黙が生まれた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
裏設定:全く登場していない名前だけの叔父上ディオス様。年がら年中忙しくて王都から出られない。(ティリエスに会いたいので会えなくて最近は口がハーティスさん以上に口が悪くなっている。)炎と雷の魔法が大得意だがあまりの威力に皆から止められている。最近は呪いや闇属性の魔法について調べている様子。大概の人に魔術師は不健康という印象と思われがちだがこの方はきっちり3食食べしっかり寝ているので健康そのもの。肌艶も良く更に母親似なので童顔。その為男に年下とみられるとキレる。(けど女性には敢えて年齢を言わず反応を愉しんでいる。)現在54歳の独身貴族。