まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(考えよう、探してみよう、作ってみよう④)
すみません、今日も短いです。(ひぇ・・・)
杖を持ってゆっくりよたよた歩く村長を背に私達は一緒になって続く。
ゆっくりゆっくり、それこそ蟻んこが歩くぐらいの速さでゆっくり歩くのでティリエスは景色を眺めながら前を歩く村長に声を掛ける。
「村長さん、村長さんの倅さんは何をやっているんですか?」
「儂の倅はー・・・木の実を育てておりましてんなー。自慢の倅ですんだ」
木の実・・・もしかして息子さん果物農家ということか。確かにこれだけ水が豊富だと作物は育てやすいだろうし。
村長の言葉を自分なりに解釈しつつ納得したティリエスはふと前をみやる。と、傍にいたシェリーも何かに気が付いたようで顔を潜めた。
「あそこだけ変わった景色ですね、なんですか?あれは?」
前を見たままシェリーが指を指しながら声を掛ける。
至る所では若葉が生い茂り緑の景色を作り出していた景色から一変、見るからに葉の一枚もない白く寒々しい木々が其処彼処で見られ、この緑豊かな土地にとって逆に目立つ。
「あそこに倅がおるんでん。」
そう言って村長は何か浮足立った様子で若干先ほどより早歩きし始め、私達はそのまま彼の後をついていった。
近くで見ると広大な土地で遠くにはいくつか小屋が経っているのが見える。
村長は迷うことなくある小屋へノックなしに入っていき、バンが先導して私達も入っていく。
小屋の中は簡素な作りで机とイス、その上には何か実験具と何かが書かれた薄汚れた紙が散らばっている。その中で若葉の色の短髪の男がおり私達を背にしているせいか人が来たことに気が付かず何かに没頭しているようだった。
「あれが倅じゃ・・・おーい、倅~。」
ふるふると小さく手を掲げて村長は声を掛けるが、呼ばれた本人は全く気が付くことなくじっと何かを覗き込んでいる。
「すまんなぁ・・・倅は耳が悪いんでなぁ。」
「・・・そうなんですか、彼は難聴者なので聞こえにくいんですね。」
村長の言葉にシェリーが気の毒そうにつぶやく。
と、さらによろよろと村長が前に進み目の前の男のほぼ真後ろに立つとゆっくりと両手を上げて―――。
「ぐぇっっ!!!」
村長は何を思ったのか彼の両脇に人差し指で思いっきり突いた。
くすぐったい衝動を通り越して最早痛みでしかなかったであろうそれにティリエスは思わず顔を顰めた。
案の定痛みでわき腹を抑え蹲る彼に、村長がゆったりと近づく。
「倅~お客人でん。挨拶せなんと。」
「・・・このっ、クソ親父っあれだけ脇はやめろって・・・客?」
彼はぱっと顔を上げると私達と目が合う・・・途端、目を見開いた。
「こ、公爵令嬢様!!!」
「・・・すみません、後ろ向きだったとはいえ気が付かず礼儀知らずな態度を見せてしまって・・・本当に申し訳ありませんでした。」
あの後驚いた彼が取り乱してひと悶着あったあと、ようやく落ち着いてきた彼が小さくなって私に謝る。
因みに彼は難聴者ではなく、ただ単に集中していて呼ばれたという意識がそちらに向かなかったらしい。
ちらりとシェリーが村長を少し冷めた目で見つめていたのが見えた。
「いえ、お仕事中に驚かせてしまってごめんなさい。頭は大丈夫ですか?」
「あ、はい。少したんこぶが出来てますが問題ないようです・・・ありがとうございます。ティリエス様はお優しいのですね。」
「あ、私の名前をなぜ?」
「そりゃ、この領地の者なら誰でも貴女様のことは皆存じていますよ。何せ我らの領主のご令嬢なのですから。初めまして、この村の村長を担っていますムペと言います。」
「・・・え?」
思わず、私ももう1人の村長と言っていた人物を見つめる。
私の反応にムペは何か理解したようで焦った様子で口を開いた。
「す、すみません。父はこのように忘れがちになりもう村長ではなく引き継ぐ形で今現在村長は私へと決まったんですが。元気がなくなった父を見て皆元気づけるように父に親しみを込めてまだ村長と言ってくれるんです。それもあって本人もまだ現役村長の気持ちで接してしまったんでしょう。どうか許して下さい。」
「いえ、大丈夫ですよ。私は謝罪して頂ければ問題ありません。」
私の返答にほっとしたムペは改めて私と向き合う。
「ようこそ、私達の村へ。公爵夫人がこちらへ来られることは存じていたので妻と母を家に残したんですが、どうやらすれ違いが起こってしまったようで。」
「いえ、丁度麦の刈りいれ時で大変な時期ですし、自然は待ってはくれないと父様も母様からも良く話しを聞いています。ところでムペさんはここで何をされていたんですか?」
「私の仕事ですか?私は他とは違ってこれを育てているんです。」
そう言って彼は立ち上がって戸棚から何かを取り出す。
私の前に差し出してきたそれは細身の瓶で中に何か液体が入っていた。
私はその瓶の形でピンときた。
「もしかしてシロップですか?」
「正解です、私達の村では公爵様からシロップを育成することを命ぜられており私の一族がその管理などを行っています。ここは謂わばシロップの畑なんです。」
そう言ってことりと瓶を机に置くと、彼は続けて話しをする。
「シロップの管理を行い、より良いものを作るため研究する。それが私達一族の義務、けれどなかなか思うようにいかないのが現状です。父の代でシロップの木が立ち枯れを起こさないように品種改良は出来たんですが、まだまだ甘露水の向上は難しい。私の代でなんとか良いものが生まれるよう・・・あぁ、すみません、少し熱が入ってしまいました。」
「いいえ。このように取り組んで頂けているということに私も誇りに思います。」
彼の熱意にあてられてそう言いきった私に彼は嬉しそうに笑う。
と、何か閃いたのか彼はポンと手を叩く。
「ティリエス様、ここから少し歩きますがシロップの実をご覧になりますか?ちょっと変わった物も置いているので退屈はしないと思います。」
ほほぅ・・・変わった物とな?
しかも退屈しないという言葉に私は考える間もなく二つ返事をして立ち上がったのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。




