まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(独りの人に恩返ししましょう。たとえ世界を敵にまわしたとしても。)
「あ。」
そうそうもう1つ気になることがあったとティリエスはある疑問を口にするため口を開いた。
「あのさシナウス魔力量の上限以上に魔力が蓄積されるってことはあるのかな?あと、魔力が多いとやっぱり体調を壊しやすいとかは?」
「そのような事例はありませんね。それに身体自体そこまで魔力が蓄積出来るという事だけなので、魔力が多いから少ないからで身体が崩しやすいとか、精神を病むとか身体機能が平均の人間より弱く産まれるとかそういうわけではありません。強いて言えば親からの遺伝で元々身体が弱く生まれ落ち魔力が多い人間の場合は魔法を発動した際その反動が体で支えられないことで体調を崩すという例はありましたが、それぐらいでしょうか?」
と、いうことは無限大な魔力を蓄積したとしても私にとっては身体にも精神作用も影響しないって事か。
無限に魔力蓄積し続けて中身から破裂なんてことが起これば正直シャレにならんし。
シナウスの話しを聞いてほっと胸を撫でおろすと、ティリエスは小さく欠伸が出る。
あれだけ昼寝をしていたというに夜中だとどうも眠気が・・・。
前世で徹夜をしても問題なかったっていう記憶で忘れてた、3歳児の身体では夜更かしはどうやら難しいようだ。
「そろそろ、お眠りになられますか?」
「う~ん・・・でも、折角こうして再会できたからもう少し話ししたいけどな。」
「でも、貴女は3歳の身体ですから夜更かしは本来厳禁ですよ?」
目を擦る私の身体をひょいっと抱きかかえそのままベッドへ寝かしつけるシナウスを見上げる。
シナウスはチラリと壁にかかった時計に目を向けた後、私を見つめた。
「・・・・・。」
「・・・ん?」
と、彼は何故か先ほどまで微笑んでいたのに急にふと真顔になって私をじぃっと見つめてきた。
あれ?そんなに容認できないほど時間経ってたのかな?
でも、急に凄みをきかせて言い聞かせったってこちとら全くきかないぜ?ふふふん。
等と思っていたらシナウスは何を思ったのか私の頭をゆっくりと撫でる、優しい手つきだった。
「姉様、僕も質問よろしいでしょうか?」
「・・・ん?いいよー。」
「姉様は今、この世界に来て良かったと思われますか?」
ん?どういうこと?
「この世界は以前にいた世界に比べて姉様にとって不便で、娯楽もなくお食事だって箱庭の食事にも劣る味です。加えて貴女は誰よりも魔力も知力もよっぽど上だ。貴女の目から見て全てが劣る世界で貴女は苦痛ではないですか?」
シナウスはそう言ってじっと私を見つめたままそう率直に言われた。
「う~ん、そうだなぁ。」
撫でられる手に少しずつ眠気が誘われふわふわする頭で考えながら、けれど答えなければと素直に口を開く。
「確かに前世に比べて不便で私の力や知識で色々周りに気を付けないといけないことばかりだと思うけど・・・私、今の両親や周りの人達好きだからさ、そんな人達と一緒にここで生きて生を全うしたいなぁって思ってさ。」
ほら、私って結構可哀そうな死に方したしと、へへへと苦笑いを浮かべながら彼に告げると、彼は困った顔で私を見つめた。
とろりと、眠くてあまり目を開けられない私はそんな彼の表情に気づかず次の言葉を続ける。
「それに・・・これでも楽しく過ごせているから、大丈夫だよ。」
「不便でも?」
「不便でも。」
「皆と違っても?」
「うん、上手く隠して生きていくから大丈夫。」
「そう・・・ですか。」
「あ。」
「!っなんですか?」
「そういえば、この世界、甘い物高級でなかなか食べられないから、どうやって見つけるか・・・大変だなぁ。・・・お父様たちに、・・・前世で食べたものと同じくらい甘くて美味しいモノ食べて欲しいのに・・・。」
「・・・姉様?」
返事のしなくなったティリエスにシナウスが声を掛けるが、既に彼女は夢の中で小さな寝息が聞こえるだけだった。
シナウスは彼女の布団をしっかりかけ直して立ち上がる。
そして、その場からじっと彼女を見下ろした。
姉様。
僕はまだ貴女に伝えてないことがあるんです。
帰ろうと思えば帰れるようになった時、既に僕達は箱庭に居ることを選択していたんです。
僕達がもし帰ってこられないSOSを発した時、装置を発動することによって元の世界に戻れる装置を4つに分けて星に残した他種族たちにそれを託した。
けれど、発動したのは4つ中たった1つだけ。僕達はあの時代の人間達に見捨てられたんです。
僕達は絶望したんですよ、その人達に。だから、もう帰ろうとは思わなかった。
それなのに何の因果か姉様は僕達の星、僕達の時代から数百年先の未来へと時空を繋ぎ帰ってくることになった。いつかあの箱庭は姉様の魔力を通して自分達の国の地へ定着していくだろう。
「本当は、貴女がこちらへ来れるようになったら眠っている間に攫ってしまおうと思っていたんですけどね。」
でも、貴女はまるでタイミングを見計らった様に出迎えてくれた。
すっかり計画が狂ってしまった。
「あーあ、皆にはどう言おうかなぁ。」
シナウスは何かを諦めたようにぽつりとそう漏らして小さくため息を吐いた。
姉様がここが不満なら連れて行こうと思ったのに、そんな嬉し気に言われると攫えないではありませんか。
「今は攫いません。でも、貴女に危機が訪れた時僕達は貴女の意思関係なく箱庭へ連れていきます。どうか・・・僕達を悪者にさせないでくださいね。」
それに・・・。
遠い昔、友人だったある男を思い出す。
「唯一君は僕達の約束を守ってくれたね。君だけあの装置に祈りを捧げて道しるべを作ってくれていたことは知っていたよ。・・・アルベルタ、君は戦えない僕達の一族を匿い、今でもこの地で護ってくれていた。もう、僕達の子孫たちは僕達の同じ能力はなく廃れてしまったようだけど、それでも子々孫々護ってくれたことに感謝と敬意を。・・・もう一度再会する約束を反故にしてしまった僕達を許せとは言わない、その代わり今度は君たち子孫を支えるよ。」
そう言って、彼女の傍に懐から取り出した懐中時計と手紙を添える。
「これがあれば、僕達は気にせず時空を超えてこちらへ行けます。だから大切にしてくださいね。」
そう言ってシナウスはやって来た扉へ進み、静かに扉を開けて眠る彼女を見つめながらゆっくりとその扉を閉めたのだった。
シナウスが居なくなった部屋で彼女は夢を見る。
それは、暖かい春の日差し両親や領民達とシナウス達が喜び合い楽しく笑い合っている光景だった。
好きな皆が笑い合っている姿に彼女は特別幸せを感じて、いつの間にか自分の傍にあった懐中時計をそっと抱きしめる。
そこからは今のこの時をしっかりと刻む音が止まることなく規則正しく聞こえていた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今回で予告通り、第2部終了です。次回から第3部になります。
裏設定:作中にあったとおり・・・シナウスは彼女を攫うためにここへやってきました。理由はこの世界への恨みも勿論、彼女がずっと泣いているのを見ていたためです。(いや、君たちが幽霊だと思って怖くて泣いてたんだけどね。)自分達の箱庭に連れて行こうと考えていた彼らでした(つまり神隠し)が、結局叶えませんでした。眠っている間に連れて行かなければ、彼女とこの世界は繋がったままとなり戻ることが出来る為です。起きていた上にしかも存在を認識されたことによりできなくなりました(箱庭メンバーおっかねー)。ただシナウスは彼女の意思なく連れていくのは嫌だったので正直起きていたことにほっとしていました(なのでそれ含めて涙腺が崩壊してしまったのです)。