まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。㉒)
9/3:少し加筆修正しましたが、内容に変わりはありません。ご了承ください。
そう言えば、男の人って前世でもえらいよく食べていたなぁ・・・。
自分の席で今回の料理のメインディッシュである鹿肉のローストをぱくりと口の中へ放り込んで口をもごもごと動かす。
見つめる先では騎士達が肉や料理の争奪戦を繰り広げていた。
ワインを飲んで時折おしゃべりもするが、食べる手を休めず我先にと皿を空っぽにしては次のおかわりを頼んでいる始末だ。
よしよし上々であると思うと同時に彼らの腹の許容量が底なしなのに結構驚いていた。
仕込んでいるときにそんなに沢山いるのかとギリアに質問していたが、ギリアの方が予想が当たっていたようだ。めっちゃすごい勢いで無くなっていく・・・男の胃袋って宇宙やな・・・。
ごくんと肉を飲み込み、そして自分もその食べた肉の味の余韻に浸る。
うん・・・うん・・・臭みがなくて食べやすい、何よりお肉が柔らかぁ・・・あぁ、私の知ってるジビエ料理だぁ。
感動していると、席を立っていたアイルが隣の席に座ったので私は彼を見る。
彼の手前そこには2度おかわりした鹿肉のワイン煮込みが置かれる。
どうやら自分でとってきたらしい。彼は嬉しそうにまた口に運び始めた。
アイルお兄様も本当大食漢だな・・・大人より小さな体のどこにあれだけの量をおさめているのか不思議だ。
天使はあれだけ食べてもお腹ぽんぽこりんにならないのか、すっとんとんじゃん・・・どこへいった食糧よ。
食べる前と全くお腹の膨れ具合が変わりがない彼をじっくり観察した後、既にお腹いっぱいになり自分のお腹がぽこんと膨らんでいる下腹部をじぃっと見つめて私は自分のお腹を擦る。
・・・・・可笑しい、私の方が食べた量が少ないのに・・・解せぬ。
「今日の料理は何もかも美味しい、鹿のローストも良いけど猪のステーキも鹿肉より脂身も歯ごたえがあって、あと玉ねぎのソースの甘みと肉の味が良くて・・・僕こんなに美味しすぎて少し食べ過ぎたの初めてだよ。」
少し?!・・・・少し・・・イヤ、私は何も聞かなかった・・・うん。
「ふ、ふふふ・・・お兄様が喜んで下さって私もとても嬉しいです。それに騎士の皆様やおじ様、お父様もとても楽しそうにお食事できて良かった。」
アイルの言ったことを気にしないよう、誤魔化すよう笑って自分の席から向こうに見えるお父様たちの席のテーブルを見る。
今回は大人の席と子供の席は離れているので話の内容までは分からないが、ほんのりと紅くなった顔で楽し気にお父様がおじ様を話しながら料理に舌鼓を打っているのが見える。普段忙しいお父様が今日だけは笑って息抜きが出来ている様子に私は内心ほっとした心持ちだ。
お父様たちのテーブルの隣ではお母様や助手の皆さんにアルーシャ達女性陣が楽し気に談笑しながら食事をしていた。あちらもお酒を飲んでいるのかいつもより楽し気な笑い声がここまで聞こえていた。
楽しんでいる両親に微笑んでいたが、ふと女性陣の方を見てあることに気が付き私は表情を少し曇らせた。
ポテトサラダ、蒸し野菜・・・ビシソワーズに硬いパン・・・か。
女性陣のテーブルの周りにはお肉より野菜料理が多めに置かれているのがそこからでも確認できた私はそのメニューに予想通りと思った刹那、あることに対して思い至り静かに落胆する。
ここにお菓子という物があれば、きっと女性陣・・・お母様ももっと楽しめたんだろうなぁ。
現在砂糖の代理になるものが今回見つけることが出来なかったのでデザートは作れないから仕方ない・・・仕方がないのだが、やはりちょっと残念な気持ちにもなる。
「ティリー?どうしたの?お腹痛い?」
アイルの声にはっとして私は顔を上げる。
私が変に考え込んだせいか、急に俯いて黙った事にアイルは心配な顔で私の顔を覗き込むように私を見つめていた。
「・・・いいえ。お兄様大丈夫です。」
その表情に私は彼の問いかけと自分の残念な気持ちを振り払うように首を横に振った。
今は、この宴が大成功したことを喜ぶべきだ、心配をかけるべきではない。
「いつもよりお時間遅いしお腹いっぱいになったので、ちょっと眠くなりました。」
「・・・そう、ならいいんだ。」
私言葉にアイルはほっとしたように笑って、私の頭を優しく撫でたのだった。
宴で食べて飲んで騒いで時間が流れ、宴も終わり次第に多くの人間が疲れて眠り始めた頃――――。
アドルフは宴も終わったところで談話室で数人声をかけて集まって酒を愉しんでいた。
メンバーは身内のラディン、グリップ、ヴォルともう1人。
いつもなら家へとっくに帰宅しているはずのギリアの姿があった。
屋敷からそんなに離れていないので彼は家から仕事へ向かい仕事が済めば家へ帰る。
だが今回は大勢の人のもてなす料理を作らねばならない。
そのため昨日から宿舎へ厄介になっていたのだ。勿論、これは毎年の事でなので特に何も思う事もなく何時ものように過ごしていた。
明日の朝の支度も早い。
なので今夜も屋敷に泊まり込み、家へ帰らず使用人の宿舎で明日の段取りを考えていた。と、そこへアドルフがふらりとやってきて自分へ声をかけてきたのだ。
珍しいと思ったと同時にギリアは心の中のどこかで今夜声をかけられるだろうと感じていたので、別段驚きはしなかった。
談話室へ即され中へ入ると自分以外の人物が数人いた為ギリアは少し緊張した面持ちでその場に立ち尽くしていたが彼らは別段気にすることなく、緊張した空気など皆無な空間の中にいる彼らは、ギリアにソファへ座るように促す。
貴族の人間が一般人にソファへ座るように言うのは本来ありえないのだが、断れない雰囲気だったので戸惑いながらもギリアはそこへゆっくりと腰をかけた。
アドルフは宴で飲み明かした安めのワインではなく、見るからに数年寝かせた上等なワインを持ちグラスへ注ぐと目の前の人物へとグラスをそのまま手渡しをした。
「今日はご苦労だったギリア。」
「光栄です、旦那様。」
短い謝辞を受け止める。
その短い一言にある彼の感謝の気持ちを感じ、ギリアは素直に嬉しくなりじわりじわり高揚していく気持ちを感じつつ受け取ったワインを見る。
ギリアは鼻をワインへ近づかせ香りを嗅いだ後グラスを傾けてひと口、深紅のワインを口に含むとギリアは驚いで咽そうになった。
「旦那様っ!これ10年物、しかも当たり年の宝石ワインじゃないですか!」
10年前、この年はワインの当たり年で有名でこの年のワインは全体的に品質が優れている。
更により品質の良いブドウで作ったワインは、香りも味もバランスが良くより長い時間ワインを寝かせれば渋みは消え逆に深みとまろやかさが増す特徴のあるワインが作られたのだ。
特に一番注目された種類は赤ワインで、その上質の証として空気を含ませながらグラスへ注がれたワインの色がガーネットの様に濃い鮮やかな色へ変化したことから世間では宝石ワインと謂われていた。
宝石ワインと謂われることになった由来が見た目だけではなく実はもう一つある。
実はこの年のワイン、宝石ワインと呼ばれるものは1本だけでも数十倍値の張る代物で購入額が宝石並みの値段なのだ。
そんな貴重なワインを自分に分け与えるなんて・・・・!!
自分みたいな市井のものが一生かけたところで飲めないものを、こともあろうに自分が仕える旦那様はほいほいと開けて自分へ差し出したのだ。
伝手で聞いていた通りとても、とても美味しい・・・しかし、自分になんで希少価値の高い物を!
歓喜を思う気持ちが薄れ、逆に自分の手に持つ代物の正体が解った途端に恐ろしくて身体が震える・・・と、そんな面持ちの自分とは逆にそれを聞いたグリップは納得したようにからから上機嫌に笑った。
「そーなんだー!どおりで嫌な渋みがないしすげぇ美味いって思ってたー。」
そう言ってグリップは自分の持つグラスを見、まだ十分味わって飲める量の残っているワインをぐいっと飲み干した。
「っ?!!!」
なんと罰当たりなっ!!!もっと余韻に味わって飲むべきだろ!!!
彼のその所業にギリアは思わず意識が遠のきそうになった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
裏設定:楽しそうに談笑していた女性陣。年齢で言えば助手さん達50代前後旦那子供持ち、主人公ママン21歳 アルーシャが18歳という年齢。お酒がはいり助手兼夫婦歴が長い女性達からのあれやこれやそれを赤面しつつ聞いて思わず男女とは・・・と勉強になった2人。(因みにこの世界のお酒年齢は成人が15歳という設定なので15歳としています。)そして恋バナ、旦那のろけ大会へと発展していきます。