まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。㉓)
9/9:内容を少し訂正しました。
「ワインの良し悪しは兎も角・・・ギリア。」
「はい。」
「今回の事について、お前はどう思った?」
アドルフのその言葉にギリアは一気に現実に引き戻される。
先ほどまで和気藹々としていた雰囲気はそこになく、周りの人間も彼の言葉でスッと表情を変える。
騎士と君主が目の前に現れ、ギリアはグラスをテーブルへ置くとソファから立ち上がりそのままその場の床に腰を下げ片膝立ちをし右手は左胸へと添えギリアは頭を垂れた。
「発言を失礼します。今回の新しい料理、正直に申しますと完成された料理といっても過言ではないと断言できます。これらを私一人で出来たかと問われるのならそれは決してたどり着けないものだったと思っています。」
「・・・続けてくれ。」
「まず例を挙げるなら、スープを作るにあたってブイヨンというスープの深みを加える元になるものを作り出す発想。その中で肉ではなく骨の部分から抽出される旨味、料理の基本ともいえる野菜の皮を剥ぐのではなく皮部分の野菜の旨味や雑味までも利用する。しかもその際に出現するえぐみである灰汁の存在に除去する必要性の知識。」
そのままギリアは続ける。
「他に温泉源の熱を利用した蒸す調理法、その効果や特性。バターやマヨネーズといった新しいモノを開発する発想、食材に関しての処理下準備の正確な方法に全く迷いのない言動でした。加熱調理法でも低温調理といった私の知り得ない方法で見事あの肉料理が出来ました。今回私が出来たことは足りない食材の確保と聞いた調理法を正確に再現、実践しただけです。」
そこまで言って、頭を垂れていた頭を上げギリアはじっとアドルフを見つめた。
「旦那様正直言います。お嬢様の知識はとても3歳児とは思えない的確で詳細なものばかりです。まるで実体験したような知識、それこそこちらが問えば解決の糸口か正解を言い当ててしまう。お嬢様は一体どこであのように知識を高められたのでしょうか?」
シンッ・・・と彼の問いかけに一瞬静寂が生まれた。
彼の報告にアドルフは思案顔を見せ少し考え込んだ後、ギリアを見つめた。
「すまないがギリア、その質問の返答は出来かねる。だが間違えないでほしい、お前への信頼を疑った返答ではないことだけは心に留めていてほしい。」
アドルフはギリアの真剣な眼を逸らすことなく静かにそう言うと、ギリアはじっとその顔を見つめ何かを言おうとした口を閉じ、そしてふっと笑みを浮かべた。
「解ってますよ旦那様。だから俺をお嬢様の側に置いたんでしょう?」
「あの中で実力と信頼置ける人物はお前しかいないと思っていた。小さな子供の言葉に耳を傾けてくれる人材としてもだ。」
「光栄です、ですが最後の言葉は正直俺でも自信がありません。あのバターとマヨネーズという調味料を作られてなければ、ただの飯事として扱っていたかもしれません。旦那様もし出来れば、今後もお嬢様の発想を生かした料理を一緒に作っていきたい。その許可をどうかお願いします。」
彼はもう一度頭を下げようとしたところを止めるようにしてアドルフが右肩を掴んだ。
「頭など垂れなくて良いギリア。こちらからも頼みたい・・・どうかこれからも娘の側にいてほしい。そして―――――。」
アドルフは最期にギリアに質問をする、その言葉にギリアは特に驚きも何もなく静かに受け入れるようにその言葉を聞き入れた。
「承知しました。」
アドルフの言葉にしっかりとした声でギリアははっきり答えたのだった。
「アドルフ卿良いんですか?」
「何がだ?」
バタンっと静かに扉が閉まり、ギリアが部屋から退出して先に口を開いたのはラディンだった。
ラディンの言葉にアドルフは特に不快に思う事はなく質問に質問で返すとラディンは難しい顔をした。
「今回の事でティリエス嬢の知識を秘匿するつもりではなかったんですか?今回斜め上をいくものを彼女は作り出しました。幼い少女が作り出したという事実を他の人間が彼女を見ればどう思うか貴方だって分かっているはずです。変に注目を浴びれば彼女を利益のために欲しがる人間が出てくる・・・まだ幼い、今はまだ隠しておく必要があると私は思います。」
彼の言うことは最もだった。
バター、マヨネーズという調味料を紹介された時、その懸念が一番に思い浮かんだ。
誰も作ったことのない万人がこれを知れば、どう作ったのか誰が考えたのかこぞって聞いてくる。
そして、欲しいと思うだろう。
品だけではなく、これを作り出した彼女を。
「その為のギリアだ。彼は全部分かったうえで承知してくれた。」
娘の傍にいる・・・つまり、彼女の脅威を大人のお前がすべて被って貰えるか。
最期の言葉にギリアは何の迷いもなく受け入れた。
彼に最後に問うた内容は生易しいものではない、アドルフもそれは十分に分かっていた。少しでもギリア自身が迷えば、明日にでも娘にきちんと説明して秘匿するつもりだった。
娘は利口だ、説明すれば理解してくれるだろう。
だが、それは許さないとギリアの目の奥が物語っていた。
新たな料理の可能性を潰したくない発展させたいという彼の欲、そしてその想いはとても強いものだった。
職人としての欲望、その欲望にアドルフは娘を預けたのだ。
勿論信頼があるという大前提はあるが、それに加え欲望・・・そして欲望の上に大義名分があれば、彼は最大限に自分のして欲しいことをしてくれるだろうと確信があっての判断だった。
ただこれを正直に話せば、まだ純粋さを残す3人から抗議されるのは分かり切っているので言わないでおこう。
「アドルフ卿って、やっぱいい人だよねー。そんだけ人を信じられるのってなかなかいないってー。」
「・・・グリップ卿、買い被りですよ。」
先程思っていたことを誤魔化すように小さく笑ってアドルフはワインの入ったグラスを傾けた。
「私には勿体ない、信頼できる人達に懇意にしてもらえているだけですよ。」
いつも読んで頂きありがとうございます。




