まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。⑱)
「――――以上を持って今回の訓練は終わる。各自不調を感じる者はリリス夫人に症状を伝え、夫人の言う事を聞くように。」
ようやく屋敷についた彼らはラディンの言葉に誰もがほっと胸を撫でおろし、今まで動作1つの音もさせないように振舞っていたせいか彼らからどっとざわつきが生まれる。
長い極限の寒さと眠気から解放され殆どの騎士が締まらない顔で解放感を満喫していた。
中には涙さえ浮かべている人もいる。
そんなに過酷なんか騎士って・・・女の子に産まれて助かったーー。私は絶対無理だわー。
彼らを一部始終見ていた私は騎士の過酷さを痛感し彼らにお疲れさまと心の中で呟く。
ただ・・・・はて?
おじ様の話しを聞く前に全員が到着した途端、見えない速さですべり込むように彼の前で正座をしていたのだろうか?
確か夢でハーティス大叔父様率いていた騎士達は立ったまま話しを聞いていたはずなのに・・・?
ここは別世界。もしかしたら、目上の人を聞くときは可能の限り正座で聞くのが礼儀なのだろうか?
ん?前回は緊急だったから略式の挨拶だったのだろうか?
のろのろふらふらと立ち上がる彼らを見つめティリエスは首を傾げていたが、後ろで作業をしている母に呼ばれて私は踵を返して母の元へ向かう。母の元へ行けば母の目の前にちろちろととろ火の火にかけられた、私にとっては十分と大きい窯が乗せられていた。うっすらと湯気が立ち込め何種類か薬草、ハーブの匂いとほんのり甘いお酒の香りがし、初めて嗅いたが別段嫌な気持ちにはならなかった。
「騎士様達にここからお薬のお酒を渡していくから、ティリーも一緒に渡してもらえるかしら?」
「お母様勿論です。私もお手伝いします!」
元気よく私は返事をして母の助手を務める女性からそれが入った木のコップを受け取ったのだった。
騎士様達が配られた薬酒を飲み干し診察を受け始めた頃、私は母の手伝いを終えたのでギリアのいる厨房へ足を運ぶ。
20人の大の大人をもてなすのには沢山量が必要になる。
せっせと次から次へと野菜の皮むきやにパン生地をこねるといった様々な下ごしらえを慌ただしく準備しせわしなく働く彼らの邪魔をしないように私はギリアの元へと向かっていった。
「刻んだ玉ねぎそれは2番倉庫へ持っていけ。あと芋がもっと多くいる、あと1籠分皮をむいてくれ。っ!青物の色どりが欲しいな・・・・お嬢様おはようございます!」
「ギリア。忙しいなかご苦労様です、騎士様達が持ってきたお肉はいかがですか?」
一早く私の存在に気が付いたギリアは私に挨拶をしながら的確に指示を出す。
流石料理長、やるな。
仕事が的確な彼に私はニコニコと笑うとギリアもニッと笑う。
「いい鹿肉と猪肉が十分にあります。アイル坊ちゃまが手紙を送ってくれたおかげで、お嬢様が教えて下さった臭み処理も早くしていただいたおかげで状態もとても良いです。」
自分の位置から見えないが、彼の表情と言葉から見て質の良いものだと理解する。
何より目が爛々だ。正しくそれは早く目の前の食材を調理したいという目である。
・・・・・・・・・・。
自分の極めたい分野で新しい方法や手段が見つかれば、試してみたいのは人・・・職人魂の性かもしれない。
自分のその系統だから否定はしない。しないが・・・。
だが正直小さな子供の前で見せる顔でもないと思う。
「本当に良いお食事が出来そうです。では料理長、手筈通りに頑張りましょうか!」
その事に触れず私は彼に努めて明るく言うのだった。
まぁ、そんなことを偉そうに言った私ではあるが、殆どはギリアがしてくれるので私はちょこんと座って他人任せである。
お父様の言いつけ通り、火に近寄らない・危ない事をしない・刃物を使用しないを忠実に守っている。
ただ、たった2日で考え出した料理なので料理人やギリアが時折作っている過程で私の前に持ってきてどうか確認を行うのでちょっとは貢献していると思う。
でも、ちょっと言っただけで希望通りの事が出来るなんて凄いなぁと彼らの流れる作業を見ながらしみじみ思っていると。
良く見知った人が私の側へやってきた。
「お嬢様、お身体を冷やしてはいけません。さぁ、ホットミルクですよ。」
やってきたのはアンだった。寒さとは違う何時ものようにフルフル震える身体でこちらへよたよた歩きながらお盆にのせたホットミルクを私に差し出した。
これだけ震えているのに、何故か1滴もミルクが零れることはない・・・何故だ。
「ありがとう、アン。」
そんな疑問は取り敢えずおいてアンからホットミルクを受け取り、一口飲む。魔力を循環していくら寒さ対策をしてはいてもやはり飲み物を口にするとほっとする。
「何を見ておいででしたか?」
「料理人達を見てたの、皆確かに経験者ですけど手際が良くて凄いなって。たった2日という短い期間で言われたことが何度もしたことがあるようにしていくんですもの。皆さん凄いです。」
「それは・・・皆それぞれ持っている技量のお陰でしょう。」
私の話しをうん、うんと頷きながら彼女は私の体調や身だしなみなど確認しながら整え私の言葉を返す。
「技量のお陰?」
私はその言葉を呟きアンを見つめたのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
裏設定:彼女の手から薬酒を貰った騎士様達。可愛い女の子の手から貰ったという事実に歓喜のあまり天に祈りを捧げているところを助手の女性達に見られ、一時気まずくなり静かに飲んでいたそう。(因みに特に女性陣は何も思ってません。)ほんのり甘いのはシロップの甘露水が入っているからで甘いものが好きなヴォルが一心不乱に飲みほしてしまう勢いだったので、ラディンに気絶のという名の強制終了させられています。因みに意外と普通に飲んで普通に診察受けたのはグリップです。(早く寝たかったからです。)