まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。⑰)
アンのやる気に満ちた言葉を貰い、身支度を整え食堂へ向かうと既に父のアドルフとアイルがそこにそれぞれ座っていた。
朝の挨拶をそこそこに自分の席へ座る。
「?・・・お父様、お母様は?」
いつもならいるはずの母の姿が見られないので父に尋ねる。
「お母様は帰ってきた騎士達を診る為早くから朝食をとって、すでに準備を始めているんだよ。」
そういえば、アイルお兄様から以前そんな事を聞いたなと父に頷きながら思い出す。
確か薬酒を飲んでもらい、騎士1人1人にどこか異変がないか母が診察をするのだ。
「私も何かお手伝いは出来ないのでしょうか?」
「そうだね・・・確かに、大変だと思うけれど医術や薬の内容が分からない私やティリーが手伝ってかえって危ない場合もあるから。ここはお母様とお母様から教わった村の女性達にお願いしておこう。」
ちぇー・・・まぁでも、3歳児に危ない薬草を扱っている場所にほいほい行かせるわけないかぁ。
正しく正論ですお父様。
・・・あ、村の女性達というのはきっと時々お母様の薬草園に出入りしている人達のことだね・・・いいなぁ。
父に言われ、私は仕方なく頷きながら父の言葉に数人の見知った女性達を思い出す。
屋敷の一角にある薬草園と薬草小屋を出入りしている彼女達は母が嫁いでから今まで母から医学を教わっている人達だ。勿論この世界も難易度も分かれるが資格を国家試験を受け合格しないと治癒・医療・薬剤行為は出来ないので彼女たちは謂わば薬剤・看護師見習い、又は看護助手のようなの立ち位置である。
どうして彼女達がこうして日々勉学しているかというと、領地にいる医者や薬剤師、看護師と呼べるのは母であるリリスか村に置かれている診療所の老人男性のお医者様ぐらい。
人口が少ないとはいえ高齢者が多く次の隣の治癒師がいる領地まで行くのに馬を走らせて3時間もかかり、しかも道路整備もなかなかしてない山道なので何かあった時に重傷者を運ぶのは無謀だ。
何かあれば、領地で対処しなければいけない。
するべきことを理解した母は、ここへ嫁いですぐ読み書きのできる村人に呼び掛け、その中から数人医療知識に興味のある村の女性を助手という形で雇って時間を作っては教えていた。
そして、昨年から大方の事を教わった女性たちは、週に1、2程度母の元で薬草の扱いを教わり実際起こった事例の相談しながら母の助手として働き、その他は当番制で村医者の先生の手伝いを行っているのだ。
もっと時間に余裕があれば村人達の読み書きを教えるところから始め字があまり読めない人達でも興味とやる気を持っていれば少しでも多くの人が医療の心得を覚えてもらうようにするが、嫁いだ先のここでは医療を扱える人が母を含めたったの2人だけだった為、消去法で今回は急務で元々教養があった人達だけに呼び掛けたのだ。
きっと母の事だから今教えている人達のある程度の区切りが出来たらゆくゆくはもっと医療に心得を持つ人数を増やす腹積もりだろうなぁ。
と、今後の近い未来を思いながらパンをスープへ浸しながらもぐもぐと食べ始めた。
「ティリーは今日もギリアの所に行くのかい?」
「もぐ・・・・んっ。・・・はいお父様、そのつもりです。」
「そうか・・・ギリアの指示をちゃんと聞くように。危ない場所にはいかないようにしなさい。」
今日はアイルは私と一緒にいるから必ずギリアの言う事は聞くようにと更に念を押される。
私は思わず前で優雅に紅茶を飲んでいる彼に目がいった。
「お兄様、今日は一緒じゃないのですか?」
「うん、ごめんねティリー。今日はアドルフおじ様と相談しながら決めたい事があるから、今日は一緒に居られないんだ。」
ごめんねともう一度謝りながら目尻を下げ申し訳なさそうにするアイルに、私はぶんぶんと大きく首を振る。
「大丈夫ですアイルお兄様!私、ちゃんとギリアと一緒にいますから!だから、お父様とその相談事?頑張ってください!」
こんな小さい子をずっと相手にするとか優しいお兄様でもたまに辟易するだろうし、息抜きやしたいことは大切だ。
私、理解ある3歳児なんでお気になさらず!
ニコーっと彼に笑いかけると、アイルは何故か苦笑いを浮かべた。
それから他愛のない話しをしつついつものように朝食を食べ終えてから約1時間後、騎士の皆様が帰ってきたという知らせが耳に入った。
「あ!ティリエスちゃーん!!ただいまぁぁ!!」
遠くで微かに拾えたグリップの声に私は小さく手を振って、まだ近くとは言えない距離にいる帰還した騎士達の列を見る。
辛い訓練だというに綺麗に列を崩すことなく進む騎士達流石である・・・おや?
「~~~~~!っ~~~~~!!」
と急に、グリップに他の騎士が何か言ったり足蹴りしている姿が見える。
途端段々と列が乱れ、あちこちで雪の中を転げまわっていた。
・・・成程。
訓練という緊張感の中でようやく解放された反動だろう、皆子供の様にはしゃいでいるように見えなくもない。
特に一番転げまわっているのはグリップと周りにいる騎士達だった。
何を言っているのか分からないが、一番戯れているのが見てすぐにわかる程雪が舞い、楽しそうに雪合戦をしている。
好かれているなグリップ氏、皆から愛されているようだ。
私は、そんな彼らを微笑ましく見つめていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
裏設定:グリップがティリエスを見つけ叫んだ後のやり取り。(当事者たちは必死でした編。)↓
「え?!待って待って!ティリエスちゃん手ぇ振ってくれた!まじ可愛い!天使!後で一緒に風呂入ろ!!」
『はぁ?!』
クリップの言葉に参列していたメンバーはギョっとして彼を見る。
そして瞬時に青筋を立てる。
「ふっざけんなっ!グリップ!お前いつもいつも許可なくお嬢様に話しかけるなんて図が高いわ!問題児!」
「騎士の見本になれっ!クソが!あんな可愛い素直な子!俺も癒されてぇえよ!」
「俺もお嬢様とお話ししたい!」
不眠不休の極限状態の騎士達は理性があまり働かないのか本音を隠すことなくグリップに罵声を浴びせるが当の本人はどこ吹く風だ。
・・・・・・ゾクゥッ!!・・・・。
と、彼らは遠くの殺気を感じバッと前を見る。
流石騎士殺気には敏感である。全員がその殺気の出所を突き止めると一斉に顔を青くさせる。
見れば、彼女の父親アドルフがジィっとこちらを見据えているのが見え、右手には刀身がキラリと太陽の光で反射していた。勿論彼女には全く見えない後方でだ。
それを見て彼らは慌てた。
「バカっ!お前が変なことを言うからアドルフ卿が凄い怒っているだろうが!」
「謝れ!土下座しろ!」
「え~なんでだよ?別にいいじゃん本音だし。」
「それがまずいんだよ!!お前!一緒に風呂入るとか・・・ひぃ!」
聞こえているのだろう、アドルフは先ほどより鬼の形相でこちらを見ているのだ見え騎士達は更に顔を白くさせそして脊髄反射並みの行動を起こす。
『とりあえずお前公爵様に土下座しろ!!(俺たちの生存のために!!)』
グリップ以外の騎士達の心は一つなった。そんな必死な彼らを鼻で笑いグリップは言い放つ。
「やだよ。俺ティリエスちゃん大好きだもん。てか俺より弱いのにぴっぴら文句言うんじゃありません。俺がイライラすんじゃん、辞めてくれる?(いつもはこんなこと言いませんが本人もかなり疲れていて本能が独り歩きしています。)」
ブチっと大きな糸が切れる音が聞こえた、堪忍袋の緒が切れるである。
『はぁ?!!!!』
そして、騎士達は隊列を乱した大乱闘を繰り広げるのであった。(決して楽しい雪合戦ではありません、魔法で鋼球並みに硬くされた雪玉の投げ合いをしてます。勿論この後騒ぎを聞きつけたラディンに説教されることになります。)




