まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。⑯)
いつも読んでいただきありがとうございます。次回は用事の為土曜日投稿予定です。ご了承お願います。
・・・気持ち悪いな。
ヴォルは険しい顔のまま第1番に思ったのはその言葉だった。彼の言葉に気温の寒さとは違う寒気で鳥肌が立つ。
グリップという男を言葉で表すなら楽観主義で怖いもの知らず、謂わば純真無垢な子供がそのまま大人になったような男だ。
なのでその場の事柄に対し良いも悪いも率直な意見を言う、それでいて騎士以外に関わるもの以外は基本無頓着である。
例え話しであげるなら、公爵令嬢であるティリエスが眩い光に包まれて生まれたという大きな話題に世間は「神の祝福。」だの「女神の愛し子。」と騒ぎ立てた時でさえ、こいつの反応は「へー、光って生まれるなんてレアじゃん。」ぐらいの反応だった。
普段そんな彼が今の様に唯の疑問、なんてことはない憶測の話しを突然言う事がある。
勿論彼が思っていることを他の人間が思っていないという事はない。
先程の言ったことだってこの地と王都を行き来している者ならこの疑問を思って口にする人間だっているだろう。自分もその疑問は考えたことだって、ある仮説を立てたことだってある。
でもそうじゃない、世間話という枠ではないのだとヴォルは今まで彼とつるんでの経験上を元に小さく首を振る。
こいつが言葉にしたことが重要なのだ。
いつも無頓着であったにも関わらず彼がふと思い出したように言う事柄には・・・。
【何かしらが起こる前触れ】【虫の知らせ】
しかも、この男が呟く内容は大体は良くない方へ傾くことが多い。
幼い頃からずっとそれを間近で見てきたヴォルだからこそ感じ取ることが出来る、彼の何でもない一言のようで嵐の前触れの宣言。ここにもしラディンがいれば、彼も自分と同じようにそう思ったに違いないと断言できる。
今、それをこいつは呟いたのだとヴォルは直感したのだ。
「・・・そうだな。俺も思ったことはあるし、ここに来たことのあるやつらはそう思うだろうさ。」
「ヴォルもやっぱりそう思うだろ?やっぱり王都とか、異種族の領地とか何かあるんじゃね?」
「まぁ、憶測で言っていても仕方ないからここだけの話しにしとけよ。」
「ンな事分かってんじゃん。流石にそんなこと言いふらさねえよ。」
王都にハディア領にルーンシー領か、・・・ラディンには言っておくか。王都はハーティス卿の直属の部下と魔法師団が目を光らせているけれど、あの紅き魔女事件から数年が経つし、そろそろ何かしら行動を起こす可能性もある。
言った本人は何にも思ってないのに・・・こいつの直感は、楽観視できないから嫌なんだよ。
だがら、よく一緒にペアを組まされよく一緒に行動しているのだ。
上司の命令だから仕方ない、仕方ないが・・・・。
「俺、結婚できっかなぁ・・・。」
「え、何急に?俺と殆どべったり一緒にいるくせにいい人見つけたのか?」
「そんな訳ないだろう・・・・だがら俺の将来が不安なんだって。」
ヴォルは顔を手で覆い天を仰いだのだった。
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彼らのそんなやりとりがあった2日後の朝―――。
コンコンとティリエスの部屋の扉を小さくノックしたアンがいつものようにゆっくりと静かに部屋に入ってくると、私のベッドの右側へいつものように小さい背でちょこんとけれど優雅に立つ。
「・・・お嬢様、お嬢様。朝でございます、起きて下さいまし。」
アンのゆったりとした声に私はモゾモゾと布団の中で動く。
「・・・お嬢様、お嬢様。既に起きていることはこのアン、分かっておりますよ。」
「・・・えへ。おはようアン。今日は良い晴れの日で良かったね。」
彼女にバレバレなのが分かり、私は布団から顔を出すと笑ってごまかした。
「良くお眠りできましたか?」
「よく眠れたよ、ただ今日の事を考えると早く起きちゃったの。」
そう言って、ベッドから降りるとアンが大きな窓のカーテンをゆっくり開ける。
そこには銀世界が広がり、朝日に照らされた雪原がキラキラと光を反射させて輝いていた。
「朝食の用意が出来ましてございます。」
「騎士様達は?」
「無事下山を始めているそうです。恐らく朝食後にはここへ到着しましょう。」
アンは私に顔を洗うガラス製の桶を用意しながら教えてくれた。
「お嬢様とギリア達が考えたお料理のお披露目が成功できるように、アンも出来る限りお手伝いしますぞ。」
「うん、ありがとう。皆で作ったものが大好評で終われば嬉しいね。」
小さく拳を作って言うアンに、私はにこりと笑う。
裏設定:天才肌グリップ氏。今回の作中でも彼は幼い頃から自分が興味持った話題で悪いことが起きる、という事に実は何も思っていないという事はなく昔は怖くなって何も考えないように思った時期があり、いつしか癖でその場の率直な感想しか言わないようになっていきました。けれどある時、たまたま幼馴染2人に話題をいってしまうことがありました。恐怖した彼ですが、話しを聞いた2人が真剣な表情でどうすれば回避できるのか知恵を出し合い最悪の事態を回避してもらえた事からグリップはラディンとヴォルをとても信用しています。(当時住民たちにとって行き来のパイプである大きな橋がなんかおかしいという話し。→後日頑丈だと思っていた橋が劣化しており倒壊する件へ発展した話し。)なので彼らの前でしかそう言った話しはしません。