まさかこんなことになるなんて誰が想像できますか?(大好きな皆に恩返ししよう、そうしよう。⑭)
遡ること小1時間前―――。
それはギリアに温泉の蒸気が出る場所へ連れて行ってもらった時の事。
『この穴で蒸気の熱を上手く利用すればうまく蒸し料理が出来るはずですが・・・ギリア。ガラスでもない鍋でもない程よい通気性の良い籠のようなものはないですか?』
温泉特有の熱を感じとりながら辺りを見回していると、丁度少し大きめのザルがあれば落ちずに済むポイントを見つけたので私はギリアに聞いてみた。
鍋やガラス製では蒸気の水が逃げないし器自体が割れる可能性がある。なので程よく熱が集まり蒸気の水が逃げることが出来るザルが適任なのだが、網目が細かくしなやかに金属で作り上げるのはまだまだ技術が追い付いていないのかそんなものを調理場で見たことがない。
急にそんな道具はあるかって聞かれて都合の良いものがそんなコロコロ転がっているわけないか・・・。
正直半ば諦めに近いお願いなので期待せずにギリアの返事を待つ。
『恐らく、ございます。』
『そうですか・・・えあっ?』
あるんかい!
思わず声に出しそうになり言葉を飲み込む。『少々このままでお待ちください。』ギリアはそう言って、その場を離れ1人ぽつんとその場で待つことになった。
『お待たせしました、お嬢様。これらはどうでしょうか?』
『・・・・ギリア、それは・・・。』
彼が持ってきた大小それぞれの籠が目の前に置かれ、私は思わずそれらを凝視する。
籠だ・・・しかも、これ竹籠じゃん。
前世でみたものに比べれば編み込みにむらっ気があり少し歪な形だが、確かにそこには籠があった。
これをどこで見つけたのかギリアを見る為見上げれば、彼は顔を真っ赤にして俯いていた。
どうしたんだいきなり。
『じ、実は・・・私の妻が趣味で作っているものでして・・・あまり出来が良くなく・・・。』
口をもごもごさせて聞こえてきた内容に私は驚く。
ギリア、結婚してるん・・・だ。・・・以外だ。
確かに顔も良く頼りがいのある様子の彼はモテないことはないだろうが、仕事一筋というオーラだったのでてっきり独身だと思っていた。
一緒に移住してきたのは彼のご両親と思っていたから、妻という言葉にびっくりだ。
ともあれ、何故か恥ずかし気にしている彼に何か伝えなければと私は口を開く。
『いえ、とても良くできていると思いますよ。こういう道具もあるんですね。』
『こ、これは。妻が見様見真似で作り出したものでして・・・とても人にあげられるものでは。』
そこで何かに引っ掛かった私は、ん?っと首を傾げる。
すると彼の口からとんでもない事実を耳にした。
『実は昔恋仲であった旦那様と奥様が悪者から逃げる際に妖精に助けられた逸話を偶然に耳にした妻が、奥様から話しを聞きその時に妖精の贈り物の1つである籠を見せて頂いた妻がいたく気に入って自分で作り出したのが始まりでして・・・・。』
ん゛?!
『素材から家に生えている竹という事が分かりようやく最近になって形が出来始めたところでして・・・あの、お嬢様?』
目を見開いて固まっている私に異変を感じたのかギリアが心配げにこちらを伺っていることに気が付き表情には出さなかったが慌てて私は取り繕う。
『ギリア、見様見真似でもこれはとても良いものですから恥ずかしがることはないです。ご家族の方に礼を申します。』
『い、いえ!・・・そう言っていただけると妻も喜びます。』
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まっさか、あの時の籠を作ってくれる人がいるとは思わなかったなー。
ギリアとのやり取りを思い出し、私は何とも言えない気持ちでブロッコリーをもさもさ食べる。
私が妖精と言われている時に贈った装飾品ならともかく、感覚を掴むために適当に作った品物が保管されているなんて夢にも思わなかったのだ。
・・・・しかも、竹籠。
日本や中国にしか生息してない竹がここいらでもあった事実に、やはり、前世からみてここは異世界なんだと改めて感じる。
見たことない異文化の代物を教える事になっていたことに対して、どっかから怒られないだろうか?
・・・まぁでも、それで温泉熱で美味しい蒸し野菜という調理法も出来たんだから・・・いいか。
気にしては後で疲れる。私は考えることをやめたのだった。
昼食という名の腹ごしらえも休息も十分した私とアイルお兄様は、本日3度目の厨房にひょっこり顔を出すと既にギリアがそこにいた。
「お嬢様アイル様お待ちしておりました。準備は出来ています。」
「ねぇ、ティリー。今度は一体何をするの?漬け込んだ肉は焼けば終わりじゃないの?」
アイルはあれで終わりだと思っていたので、不思議そうに尋ねる。
そういえば、彼が手紙を書くために席を外した後の話しを詳しくしていなかったことを私は思い出した。
「いいえ、お兄様。折角ですから違うものを作りたくなりまして。ギリア、ではそろそろ漬け込んだ肉を取り出して水で洗ってください。それと、内ももと外モモそれぞれ部位で料理してもらうので分かるように分けて置いてください。」
「かしこまりました。」
ギリアは早速取り掛かる。
数時間漬け込んでいた肉は液体の方は変色を起こし肉も最初に比べて少し茶色を帯びた色へと変化していた。
しっかり洗ってそれそれ器に入れる。作業を終えたギリアに私は次の指示を出す。
「では、まず外モモ肉を使いスープ料理を作りましょう。」
その言葉を聞いた2人は何故か驚いた顔でお互い顔を見合わせていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
裏設定:ギリアの奥様は3つ年下。ここに来るまでは王宮で下級メイドの仕事を務めており、ギリアとの出会いも王宮という仕事先でした。食べることが好きな奥様はギリアの賄いに胃袋を掴まれ、対して何でも美味しく食べてくれる奥様にギリアも食べっぷりに心が掴まれ次第に惹かれた2人は恋仲になり結婚しました。現在2か月後に出産を控えた我が子と会える日を楽しみにしています。