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部活探し編・14

高校生らしからぬ小さな少女は勧誘の鬼と称される水泳部顧問の見回りを、

スパイ(キッズ)のような身のこなしで上手く死角を利用し

治雄とは反対に明るすぎる道を通り抜け、

本来の目的地に着いていた。


重苦しい分厚いガラス張りのドアを開けると、

一たびむせ返るような熱気と臭気が広がってくる。


靴を脱ぎ、ひんやりした廊下の感覚を踏みしめながら

開けた空間には両端に綺麗に正座で並ぶ道着姿の生徒たち。


そして中央部には背を向けた女が一人。


その者も純白に包まれているが、

ただならぬオーラを漂わせているように感じられた。


そんな凄みは一旦振り返ると取り払われ、

屈託のない笑みを浮かべた吉沢千夏が顔を見せた


「やっぱり来てくれたんだ。 待ってたよ」


何かおかしい、と薫は思った。

しかしハッキリとはその原因は彼女には分からなかった。


「そ、そうだ。

 来てやったぞ」


胸を張って言っては見せたが、

物言えぬ不安感があった。

その理由はすぐに薫は分かった。


いつもくっついて側を離れないようにしている存在が今に近くにいないためだ。

実際治雄に学校生活に引きずり出されてから、

別々の行動を取ることはトイレくらいしか無かった。


故に今、見知らぬ空間で見覚えのない者達に囲まれていることが

尚更孤独感を生んだ。

待ち構えられていたこの状況に威圧感を覚え、

そしてやっと原因が鮮明になった。


いつか来るとは答えたが、

今日に堂々と見学しに来ることは全く伝えていない。


その事について問いただそうと口を開こうとすると、

制すように手が上げられた。


「あの子に道着の準備を。

 先輩方、着付けをお願いします」


ささっと一番近くにいた両端の二人の女子生徒が薫に近づき、

更衣室に半ば強引に連れて行かれる。


抗議の声を上げようとするも、

抵抗も虚しい己の無力さを痛感すると

唸ることしか出来なかった。


視界には誰か一人が入り口に向かって行き、

鍵を閉めるような音が聞こえた。


使いの者達の助けも借りられなくなったことに

緊迫感が強まるも、

やはり声は出なかった。


着替えに入ると遂にはされるがままを許し、

気付けば薫の体格には大きめな

ぶかぶかな道着姿が完成していた。


与えられた命令を終えると扉を開いて、

吉沢が待つ場所へ行くように促された。


それまでもずっと二人は無言だった


「お、お前達はアイツの言いなりで良いのか?」


か細くも精一杯の問いかけだった。

自分と同級生のはずで奴の発言に嫌味などなければ、

目の前にいるのは上級生のはずだ。


それが従順に指令を下されるがままの立場に甘んじていることを

疑問に思わないわけにはいかなかった。


複雑な事情があり、お互いに軋轢があるならば

もしかすると自分の味方になってくれるかもしれない。



そんな目算が崩れ去るほど

返ってきた答えは至極単純だった。


「今だけは彼女が上よ」


そう唱える片方の女子生徒の目に光は無かったが、

心の底から納得しているどうしようもない現実を確かに語っているようだった。

それはもう一人も同じだった

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