俺魔獣士になります
三月はヤンデレかもしれない。
「そういえば、みんな職業ってなんなの?」
それは、俺がふと思ったことだった。俺にはステータスが書かれている紙があるが、他が持っているとは限らない。事実、グリスもステータスの紙を見せず、口頭のみのやり取りで剣士であることを知った。それならば、いくらでも騙す事ができる。
……グリスがそんなことをするとは思わないが。
「職業……強いて言うなら悪魔ですね。悪魔以外の何者でもありませんけどね」
アモンは、ふふっと微笑しながら答えた。なるほど、悪魔はやはり悪魔か。……何言ってんだ俺。しかし、アモンが悪魔なら、アレアルやバエルも悪魔だから職業は悪魔なのだろう。そう考えると三月は魔王だな。俺は一人で勝手に納得していたが。
「私は召喚士だよ! すごいでしょ~!」
胸を張る三月だが、俺は呆然としていた。召喚士――だと――!? どこのファイ○○ファン○○ーだよ!? 何なの、イフリートとかでちゃうの? あ、でも見てみたいイフリート。
「ご主人! ご主人の職業はなんですかぁ~?」
アレアルが聞いてくる。しかし、キャラ崩壊やばくない? 見た目が中性的な感じなので人型の時の性別はわからないが、目にハートが見える。これはやヴぁい……。
「俺は一応剣士だよ。剣士にしては体格があれだけど」
そう、年相応ではあるが鍛えているわけではない。剣士としては弱いと部類されてしまうような見た目なのだ。そして、剣士なのに剣を帯剣していない。これは、俺の神からもらった能力の武器創造による武器の創製と分解を体内で行ってしまうので帯剣する必要がないのだ。
「剣士にしては些か不可解な点が。これを言ってはあれですが……。獣の匂いが内側から匂います」
バエルが言うが。その一言が俺を傷つけた!! ひどい、ひどすぎる。確かに体は近くの川で水浴びだし、飯は肉が欲しいから狩にいくし、血は浴びるし。でも。それでも獣臭いはひどいぞ!!
「何と言うか、タツヤ殿には剣士よりも良い職業があると思います。なので、街に着かれたら職業を変えてみてはどうでしょうか?」
――数日後、ケリュサレム――
あの日は、あのままどんな職業につくのかを一晩中考えていたがなかなかいいものが思い浮かばない。数日間かけても出てこないのはどうしたものか。
ここで、俺はある重大なことに気づく。いや気づいてしまう。
「俺、この世界の職業について何にも知らねぇ……」
この一言が出てしまった。そう、俺はこの世界に着てから戦いと狩りとキャンプしかしてないのだ。どこぞのハンターと殆ど同じ生活である。
『何も知らないなら知ればいいんですよ』
頭に直接語りかける声。久々過ぎて反応に遅れてしまった。それは、俺をこの世界に送ったセイナの声である。
「どした。最近来なかったが」
『上に呼ばれて話をしてただけです。あなたも来ない間に随分ハーレムを形成してますね」
「ハーレムなんか作ってないわ! 彼女と性別不詳が二人、忍者が一人だ。ハーレムとか俺ににあわないだろうが……」
ため息が出る。それもそのはず、俺は常に三月一筋で生きている。三月を見て、俺は前世を思い出していた。
□ □ □
小さいころから離れることがなく一緒に行動してきた。お互いの両親も仲がよく、三月の親も俺のことをよく面倒を見てもらった。幼馴染というと、小学校高学年から疎遠になると言うが俺たちはそういったことも無く、一緒にいた。それは、中学に行っても、そして高校が違ったとしてもこの関係は崩れないと思っていた。しかし、幼馴染という関係は予想よりも早く終わってしまう。
中学卒業間近の登校日に俺はクラスメイトから告白された。当時、すでに三月のことを異性として意識していた俺はその場で断りを言った。本来それで終わればよかったものが三月にとっては辛いものであったのだろう。これは俺の推測であり、三月がどう思ってるのかはわからない。
話を戻そう。俺は告白に断りを入れてからすぐに帰路についた。勿論、家に帰りたいというのもあったがその日が三月の誕生日だったこともある。そのせいか、歩く足取りは早くなっていき遂には走っていた。その時の俺は何も知らなかった。三月が告白を聞いて泣いていたことも、追い詰められていたことも。
誕生日は両親が帰ってこれず俺だけが祝うことになったが三月は喜んでくれた。しかし、意識はどうやら別のことを気にしているようで心配であった。そんな時、三月が言ったのだ。
「今日、クラスメイトに告白されてたね」
俺は気づいた。意識というより、三月の心が壊れかけていることに。それは三月全体から感じ取れることだった。
「あの子、かわいいもんね。私とは大違いだよ。辰弥君は付き合うんでしょ?」
それを聞いたとき俺は自分に対する怒りと同時に、三月に対する申し訳なさがのしかかった。
「俺は告白を断った」
「嘘、辰弥君この前好きな人いるって私に言ったじゃん」
そう、俺は何故か告白をするのでなく三月に好きな人がいると言ったのだ。それに対して俺は悔やんでしまう。
「私は、応援するよ。幼馴染の初カノだもん。ちゃんと、祝福す――」
「だから! 告白は断ったって言っただろ!」
「じゃあ! 辰弥君は誰が好きなの……?」
その一言に俺は迷ってしまう。今言うべきなのか、改めてちゃんと伝えるべきなのか。俺の中では一瞬の迷いが浮き上がったのだ。しかし、ここで迷っていたら元も子もない。だからこそ、俺は両方を選ぶ。
「俺が好きなのは……。三月、お前だよ」
「嘘、嘘だよそんなの! 私可愛くないしすぐ怒るし! 勉強も普通だし特にできる事なんてないし! 幼馴染とはずっと一緒にいられるって慢心しちゃうし! それに……それに、好きな人にちゃんと好きって言えない!」
三月は途中から泣いていた。俺は背中をさすろうとして、跳ね除けられた。
「やめて! 私に優しくしないで! これ以上勘違いさせないで!」
震えていた。それは、俺も三月もだ。しかし、三月の震えはひどかった。
目には生気が見られず、手で肩をつかみ自分を物理的にも精神的にも守るように縮こまり、心の中で助けてと叫びたがっているのを抑えるように。それは、とても弱々しく触れたら居なくなってしまいそうなくらい繊細であった。
「三月、もう一回言うぞ。俺はお前が好きだ。ずっと前から!!」
「嘘つか――」
「嘘じゃない!!」
俺は、叫んでいた。この気持ちが届かぬなら、せめていつもの三月に戻ることを願い、この言の葉にのせて。
「三月が自分を否定しようと、蔑もうと! 俺は、一夜 三月の総てが好きなんだ! その気持ちを――俺の気持ちを否定するな! お前が嘘だと思うなら、何度でもお前にこの気持ちを伝えてやる!」
三月が顔を上げて、泣きながらでも確かな声で反応する。
「ほんとに……? 私のことが好きなの? あの子じゃなくて?」
「本当だ。ずっと前から三月しか見てなかった。他の女子に見移りなんてしなかった」
三月はそのまま、俺に抱きつき顔を沈めていく。
「私も――です」
「すまん……沈みすぎて聞こえない」
「ん〜! 私も! 日溜 辰弥君が大好きです。私とこれからも一緒に居てください!」
それが、幼馴染の関係が終わり恋人関係なった瞬間だった。
◇ ◇ ◇
『頭の中を覗くのやめようかしら』
「おい、何勝手に見てやがる」
『あなた、以外にも純情で一途なのね』
「当たり前だ、そーゆうセイナはビッチだな。絶対」
『なっ……!?神に向かって失礼です!』
「はいはい、ビッチダメ神様」
セイナは怒っているだろう。転生させた人間に舐められてるのだから。
※ ※ ※
職業を変えに○ーマ神殿ならぬケリュサレム神殿についた。ここで祭司に頼み、職業を変えることができる。……システムまで一緒じゃないか。
「次の方、どうぞ」
し枯れた声であったがはっきりとした声だった。
「あの、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。あなたはどのような職業になられたいのですか?」
「それが――イマイチ決まってないんです。なんかこう、おまかせとかないですかね?」
「では、あなたの内なる力を最大限に引き出す職業にしましょう……ってこれは!?」
祭司の顔が驚愕に染まる。
「人間では、あり得ない! しかし……」
「あの〜、教えてもらえませんかね?」
「あなたの職業は……魔獣士です」
変なもん来やがったァァァァァァァァァ!!!
To be continued
第一部 完
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次回、エピソードゼロ、僕達は……。
こうご期待ください!