『たぶん異世界?』なので、
第 1話
『たぶん異世界?』なので、
山間にある美しい湖の畔に人口50人程の村がある。年間を通して温暖な気候の為、農作物はよく育ち、山草、木の実や果実、獣の山の恵みと、淡水魚、貝類や水草が捕れる湖が在るため村民の生活は豊かだ。
村の名前は、ラダ村。父親のゼス26歳、妻ホム23歳、一人息子の俺セト。生後半年位で、突然意識が目覚めた。母の腹の中じゃなくて良かった。産道を通って出てくる記憶なんかあったらトラウマになりそうだ。
半年位と言ったが、この世界では一年500日が10ヶ月。1月が50日。1週間10日×5週と、前世よりながい。各月の名前はそれぞれ、
ワ、トウ、スリ、フウ、フイ、シス、セン、エト、ナイ、ネトの月と呼ばれる10カ月。
前世で言う、週の曜日に名前は無い。
我が家の生活水準は悪くはないと思う。食べ物に困った事はなく、生活の事で喧嘩をしているのを見たことがない。夜、俺が寝ていると思った父母が夜の営みで、父が母からもっと頑張ってと言われている位か……俺も将来の為に夜の勉強勉強、頑張れ父!
文化的には……中世?っぽい。
食事は硬い黒パンとスープが基本。調理法は焼く煮るだけ。ガラス製品は無く食器類は基本木製、ナイフやフォークの金属製品もあるが雑な作りが多い。
衣服は前人生の爺さんが好きだったゲームのようだ。無駄に格好良かったり、過度のセクシーさや露骨に可愛い物が多い。父母も何かの主人公みたいだ……母がセクシー過ぎて子供の俺から見ても少し困る。でも、あの綺麗な脚は見飽きないなぁ。
ちなみに当然簡素な服もあるが、我が家には無いようだ……。
しかし、両親ともに美男美女には驚いたが、それよりも驚いたのは髪の毛だ。父は真っ赤、母にあってはピンクだ。
俺の髪は、母が「艶のある黒が綺麗ね。少し癖毛だけど、それも格好いいわね。」って言ってくれていた。……黒髪か。
ゲームと言ったが、魔法が普通にあって少し驚いたが、ゲーム中毒の爺さんにさんざん付き合わされた多種多様のゲームをやっておいて良かったよ。少し感動した。
但し、誰もが魔法を使える訳ではないようだ。母は使えるが父は使えない。
魔法の種類は、火・水・土・風‐光・闇・空の7種類で、光と闇は希少、空は更に希少らしい。魔法を使える者は大抵どれか1種類らしい。母は火魔法を使う。この村で光・闇・空を使える者は居ないらしい。
この村の御意見番的な身長の低い可愛いらしいリルお婆ちゃんが、子供の頭位の水晶を抱えてきて、俺に魔法使いの素質が有るか視てくれたが、無かったみたいだ。
「巨大な城は有るが、誰も住んでいない。」んだそうだ。よくわからないなぁ。
父は残念がる母を慰めつつ、少し寂しい笑顔を俺に向けて「お前もか……でも、剣で頑張ろうな〜」と囁いてきた。勿論、頑張ります!少し自信も有るし!
さて、俺の生活といえば昼は母の背で言葉や生活を学び、夜は父の頑張りを見て勉強する毎日。
赤ん坊なのに泣かない俺に母は凄く心配していたが、俺と目が合う度に笑ってあげていたら「流石私たちの子ね。世話をかけない良い子だわ。」と、何だか納得してくれた。まあ、とりあえず良かった。
そういえば、父の仕事だが朝は畑で作物を育て、昼は狩りに出かけ、夜は書斎にこもる。畑は広く多種多様の作物を作っているようだ。狩りでは、長さ2メートル幅30センチもある両刃の大剣を背負い出かける。獲物は3メートルはある猪みたいな物や2メートル近い鶏みたいな物が主で、たまに魚を担いで帰ってくる。怪我ひとつ負わないで満面の笑みの父。大物を狩った日の夜は、書斎に行かず母を姫だっこしてベッドに。それがまた一段と凄い。……弟か妹が出来るのも近いだろう。
時は過ぎ、俺は4歳になった。
一人歩きが出来るようになって分かったが、父はこの村の村長だった。前村長は母の母、つまり俺のお婆様で、俺が産まれる前に村が野党に襲われた時に亡くなったそうだ。優れた火の魔法使いだったが多勢に無勢。野党30人を道連れに村を守ったそうだ。その時に村にたまたま居た冒険者の父は、まだ若かった為に村の防衛に専念。お婆さんとは別行動をとっていたが、空が焼ける爆炎と轟音は今でも忘れられないし弱かった自分が許せないと、父が寝物語の英雄談として聞かせてくれた。
母は、「あの日、ゼスは出来る限りの事をやってくれたわ。それに、私はあなたと知り合えて、こうして家族になれたのだから、とても幸せよ。」と、父の頭を抱き寄せる。
はい、ごちそうさま。
そんな我が家には、亡くなった前村長のお婆様が集めたこの世界では高価な本が沢山ある。10畳位の書庫部屋に本棚びっしりに整然と種類毎に並んでいる。俺は早くこの世界を知りたくて、母に絵本で文字を習った後は片っ端から読み漁った。表紙は革製で中は薄い動物の皮を鞣した物を使い、印刷ではなく手書きの文字がビッシリ並んでいる。童話・歴史書・兵法書・魔法書・雑学書、母様が村の婆様から借りた色々な分厚い専門書など。ちなみに【夜の二人の為に】何てのもあった。裏表紙にホムと、書いてあった……見なかったことにしよう。
両親が「手間が係らなくて助かるけど、甘えてくれなくて寂しい。」と嘆いていた為、それからは両親に甘える事を増やしたが、父より母の方が割合が多いのは仕方ない。そんな寂しい顔をしないでくれ、父。
さて、我が家の書蔵を4歳になって全て読み終えた俺は、早朝から起きて畑に行く父に付いてまわるようになった。
畑に行くときも愛用のあの剣と鍬を背負いご機嫌に出かける父。護身用ならもう少し小さい剣で良くないか?とも思ったが、畑に着いて疑問は解消した。
まず畑の隣の樹が乱立する荒れ地の直径1メートルはある木々を愛用の剣で一閃、歩きながらサクサク切り倒していく。切ったら枝を落として丸太にし、畑の横に積んでいき2時間程で荒れ地は見晴らしが良くなった。
次に愛用の剣を右手で垂直に構え、左腕を地面に平行になるように伸ばし、掌を上に向けて顔はその掌の方へ。脚は肩幅より少し広く開く。腰を軽く落として、ゆっくり息を吐いていく。
「……ふっ」
ドンッッ!
一瞬後、父を基点にして扇型に前方10メートル位の地面が爆発した。岩や切り株なんかも粉々だ。凄いな父……。
その後、数回繰り返し瞬く間に荒れ地を耕してしまった。 しかし理屈が解らない。何故扇型になるんだ?斬撃を飛ばしているなら線になるはずなのに。もしくは剣を中心に円形になると思うのだけど……魔法の類いかな。爺さんから教え込まれた物とは違うみたいだ。
「ふぅ、こんなものか。セト、一緒に邪魔な石とか拾って綺麗にしよう。」
「あい。」
まだ発音が拙い俺が返事をすると、父はニッコリ微笑み俺の頭をガシガシ撫でた。
二人で夕方まで畑を作って種をまき家路に着くのだが、種まきの途中で樹の棒を拾って父の真似をして振ってみたが父の様には出来ず、ヒュッと小さな音がしただけだった。その様子を見た父が目を見開いていたが、どうした父?
3歳になって、両親の部屋の隣に個室を与えられてから独り寝するようになったが、その晩の両親の部屋からは両親の興奮した会話が遅くまで聞こえていた。何かあったのか?特に父の興奮が只事ではない。
本当にどうした?父。