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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
97/154

詰め

 カディスの行政を司る代官屋敷の執務室にてフェルディナントはヴァレンティンは今回の結果報告の書類を見て言葉を失っていた。

 一言で表現するなら『軽微』そんな言葉しか出てこなかった、未だアラスの包囲は続いていたが、ここまでの損害は、戦果に比べ微々たるものでしかなかった。


本隊        1500→1200

オルトヴィーン隊   500→480戦闘継続中

フリートヘルム隊   200→120

テオドール隊      30→30


アラス村       人口 300 駐在兵 50

エンナ村       人口 500 駐在兵 50

城塞都市カディス   人口1500 駐在兵300


ハスラッハ救援軍   10000


 並べられた数字を見ると無謀としか思えなかった、総兵力と総人口+駐在兵がほぼイコールの状態で完勝ともいえる戦果を叩き出してしまったのだから、しかも救援軍の大軍に大打撃を与えて撤退に追い込んでもいた。


「大勝利ですな」


 ヴァレンティンの言葉は喜びに満ち溢れたものではなかった、なんとか絞り出した、そのような感想を聞くものにもたらす、そんなイメージであった。


「作戦立案から全て予が行ったなら手放しで喜べたんだがな」


 本心からであった、ここまで鮮やかな勝利など滅多にあるものではない、だからこそその作戦を立案した主従が恐ろしく感じられた、歴戦の将軍であるヴァレンティンが練った作戦であるというなら流石と素直に言えたが、軍歴がそこまであるとは思えない20前後の二人、しかも一人はその愛妾?得体のしれない不気味さすら感じられた。

 村二つに関しては相当の犠牲を覚悟した力押しで陥落させることはできたかもしれない、しかし堅牢な城塞都市をこれだけの損害で陥落させたのは奇跡的とさえ言えた。


「後の問題は論功行賞ですな」


 ヴァレンティンの言葉に頷くが難しいとも考えてしまう、第一の功をカディスを陥落させたフリートヘルムとするのはいいのだが、それでさえ、功績を立てさせるようにテオドール達が影から誘導したようで気味が悪く感じる、なにしろ作戦を立てたのはテオドールの軍師なのだから。


「直接会った事はなく、話で聞くしかないのだが、如何な人物なのだレイヴン卿の軍師というのは?」


「見た目は可愛らしい女性ですな、愛妾ではないと否定しておりましたが、事実までは分かりかねますな」


 フェルディナント少し考え込むようにすると、尋ねた。


「カディスで大功を立てたアストリッドもレイヴン卿旗下の者であったと聞く、女性関連で機嫌をとれば飼いならすのは容易なのか?」


 この発言を聞きヴァレンティンは、テオドールの苦笑いする顔が見えた気がした、しかし、目立つところに女性を配置しているのだからそう思われるのも自業自得な気もしないでもなかった。

 実情を知りうる限り話してみたが、どこまで納得しているのかは微妙であった。たしかにテオドールの行動には変わった所も多々見受けられた、ユリアーヌスを受け入れた後もかなりの愛情を以って接していたという。そこそこ大切にされて粗略にあつかわれなければ若い愛人でも作ってよろしくやっていても仕方のないことであろう、そう思っていたヴァレンティンの予想は完全に裏切られた、しかしそれについてはユリアーヌス自身でさえあそこまで愛されるとは予想していなかっただけにヴァレンティンの予想が外れた事を責められる者など皆無であろう。『王族や貴族の常識からは測れない人物』それが現状におけるヴァレンティンのテオドール評価でもあった。


「引き離した方が良いのではないだろうか?」


 テオドールやその軍師、剣豪について話しているうちに興味でも持ったのか、そのような事を言い出した。波乱の元にならなければいいが、そんな事を考えながら、前後策の協議を続けていった。


 


 エンナ村門前に一団の兵士団が集結していた、その中のリーダー格らしき男が高らかに宣言する。


「王都オレンボーより増援に参った、近衛騎士団のヴァルナー・フィン・マテウスである、開門願いたい!」


 門からの返答はなく、しばらく経過した後、物見櫓から声が聞こえる、


「兜をとられよ!」


 少し考えた様子を見せると、素直に兜を外し顔を見せると、ほどなくして門は開き兵士団は中へと向かい入れられた。


「いや、失礼いたしました、偽装工作で味方のふりされて中で暴れられたら厳しいものがありましたからね」 


「いえいえ、細心の注意を払ってこそ作戦行動は完成する、心がけからして感服いたしております」


 出迎えるテオドールの言葉にヴェルナーも笑顔で返す、増援軍の指揮官は顔を見知った人物にしてもらえるよう要請したのはテオドールであった。フリートヘルムに実行させた策を自分が逆にやられたらたまったものではない、そんな考えからの用心であった。


「捕虜、村人への略奪、暴行は避ける方針でお願いしますね、一応約束してしまったので、指揮官として破ると処罰の対象にせざるを得ないんですよ」


「了解いたしました!徹底させます、破った者は遠慮なく処分してください!」


 話が早くて助かる、そう思っているテオドールにヴェルナーはおもむろに話しかけてきた。


「此度の作戦もお見事と感じたのですが、どうしても腑に落ちぬ点があり、その点お聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」


 その表情には疑念ではなく、戦術の意図を知りたいという好奇心のようなものがうかがえた、「いいですよ」と軽く応じると、ヴェルナーは質問を開始した。


「戦力の逐次投入は定法からすると下策と思われるのですが、なぜ最初から参加ではなく、タイミングを遅らせて増援に行くという作戦だったのかがどうしても気になったのです」


「隠密行動がバレるとまったく意味がなくなる戦略だったものですから、目立たないようにギリギリまで人数を絞る必要性があったんですよ、敵地の真ん中にこっそり潜行するっていう作戦ですからね」


 説明を聞けば理解できた確かに近衛騎士の者達でそういった任務を得意とする者はそうはおらず、自分も確かに得意とは言い難いことからすんなりと納得いった。


「しかし、これだけの大功を立てますと、報奨が楽しみなのではないですか?」


 ヴェルナーは全く悪気はなく、大きい報奨は誉であるはずなのだが、テオドールにとっては微妙に厄介な問題でもあった。


「広大な領地なんて貰っても管理が大変ですので、現金で貰って村でゆっくりやっていきたいとこなんですよね」


 冗談と受け止め、「欲がありませんな」と笑っていたが、それがテオドールの偽らざる真意であった。


この約一か月後、和平交渉が成立した、アラス・アンナ・カディス、の正式な移譲。新境界線としてブルノ川を設定する。1年間の停戦による双方の攻撃の禁止。捕虜を解放するその見返り銀貨10万枚を支払う。

 和平交渉締結の報がエンナ村に届くと、死傷者0で帰還できる喜びにテオドール達は胸を撫で下ろした。



 

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