表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
96/154

決着

 リンブルクの首都であるハスラッハへの敵軍襲来の報は、アラスに敵軍襲来、カディスからの救援軍壊滅、カディスに敵軍迫る、と矢継ぎ早に届けられた。

 この報から、アラスはすでに陥落し、カディスに大軍が迫っていると判断され至急救援軍が編成された、ヴァレンティンの策が功を奏し、大規模な軍を起こす気配を極力隠す事に成功していたため、侵攻を全く予期しておらず後手後手に回ってしまった感があった。

 救援軍の壊滅により極めて状況が悪いのは理解できたが、それでも城塞都市カディスがそう簡単に陥落する事はないであろうという想いを皆が共有していた、それでも援軍の編成は急がれた。

 籠城戦の援軍であれば重装備はあまり必要とせず、飛び道具を中心とした武器による遠距離からの撃ち合い、城壁を登ろうとする敵兵を長物で突き落とす、城壁や門を崩そうという衝車や丸太での突撃に対しては投石、飛び道具などのセオリーはほぼ定石化しており、多くの兵力で交代で休みを取りながら、間断なき攻撃にて攻め寄せる敵を疲弊させ撤退まで粘れるかどうか、それに尽きた。

 極力急がせた結果最初の報から13日後には1万の軍勢がカディス間近まで迫っていた。


 救援軍の将軍は物見の報告により違和感を感じないわけではなかった、城壁や都市周辺にまったく戦闘の跡が見られなかった事、敵の軍勢は城壁からの攻撃に備えるためか射程外に布陣したまま動く気配をしめしていない事。

 それらの報告から敵の意図が全く読めなかった。落とすつもりがあるのなら遮二無二攻めるはずであろうし、撤退するつもりなら、援軍が来る前に撤退する方が犠牲も出ずに済むであろうし、何がしたいのかさっぱり分からなかった。


 さらに救援軍の接近を察知したのか挟み撃ちを避けるためなのだろうか、都市の西側へと移動を開始した。

 救援軍の存在がはっきり目視できる距離まで近づくと城壁からは大歓声が沸き興っていた。

 いよいよ援軍を率いてきた将軍は理解に苦しんだ、攻めていたが攻めきれなかったという感じにも見えない、城壁を前にマゴマゴしているうちに大軍が来て困ってしまって急いで退却の準備を始めた。そんな印象だった、だとしたら相手の指揮官はよほど無能な人物、はっきり言って愚将としか言いようがない。そんな事を考えてから物見に尋ねた、


「敵の指揮官は誰だ?個人紋から判明しておるか?」


「はっ!紋章官に確認を取った所、国王フェルディナントのものと思われます」


 話が全て繋がった気がした、国王は結婚式の最中であるという報告は受けていた、初陣を済ませていない国王が結婚式に紛れて兵をかき集め侵攻を開始した、結婚式の情報に紛れたせいで兵を集めている動きが掴めず後手に回ってしまった、その集めた大兵力による力押しでアラスを陥落させ、救援軍も壊滅させたものの城塞都市には手出しできず右往左往していた。そんな経緯が見えた気がした。

 そして同時に疑問も生じていた、まともな側近はいないのであろうか?ヴァレンティンは主に西部戦線が主戦場であったから直接対決したことはなかったが、戦歴からしてここまで無策な事をやってくるとは思えない、オルトヴィーンにしろ堅実な戦略で考えなしに軍を動かすような事はしないであろう。

 本来の侵攻目的はアラスまでであったのだが、大勝に気をよくして周りが止めるのも聞かずさらなる戦果を求めて進軍した、しかし攻城兵器も持たずに堅牢な城塞都市に挑むこともできず、周りの反対を押し切ってまで進軍したことから、引くこともできず、グダグダの状態になってしまった。そう考えればすべての辻褄は合い、初陣の若造のやる事としてはなくもないように感じられた。

 しかし罠めいたものがあるのではないか?そんな事を考えていたが地形的にも大量の兵を伏せるような場所もなく、罠を仕掛ける方法、自分達の軍を壊滅させる方法、この援軍を利用して都市を陥落させる方法、など皆無であるとしか思えなかった。

 イヤな予感はしたが立ち止まるわけにもいかず、慎重に前進して行き城塞の門まであと少しという地点で城壁の上から矢の雨が降って来た、投石器によるものか大小の石礫もこれまた雨のように降って来た。周りには注意を巡らせていたが上にはほとんど注意を向けていなかったため、軍は甚大な被害を受けた。

 城攻めを行うのであれば上方からの攻撃に注意し、盾を構え矢による攻撃に対しての備えを行いながらの攻撃となる、しかし今回の場合まったくの無防備の状態で不意打ち的に矢の雨を浴びせられたからたまったものではなく甚大な被害が発生した、指揮官である将軍は大軍の中ほどにおり、射程外にいたことも幸いし無事であった。

 城塞がすでに陥落済みであり、中には敵が待ち構えていた事を察して一時撤退命令を出し、射程外まで退いた。そこで被害状況を確認し唖然としてしまった、先の一瞬で500名ほどが死傷していることが判明したからだ、城門から中に入るべく、縦長になっていたことが幸いしたがそれでも約5%の損傷を一瞬で出してしまった事は驚異的であった。

 一連の流れで何が失敗だったかと言えば、罠の臭いまでは感知していたのだが、カディスがすでに陥落し敵の手に墜ちている、その状況を完全に想定外としていたことだろう、たしかに戦闘の形跡もないのにすでに陥落しているなど、普通では予想できなくてもしかたなかったと言える。

 何故無傷で陥落させる事ができたのであろうか?それは時間を少し遡って見る必要性が出てくる。




 カディス守備部隊の目下の責任者は困惑していた。目視できる距離まで迫ったエルザス軍は城壁からの攻撃が届かぬ射程外でピタリと止まり大きく迂回するように本国へと通じる街道上に陣を張ると攻撃をするわけでもなく沈黙を続けていた。本国からの援軍を遮断して兵糧攻めにでもするつもりなのであろうか?だとしたらあまりにも愚かである、兵糧なら数年保つだけの貯蔵があり、その戦略は完全に破綻していると言ってよかった。


 そんな膠着状態が発生したが、長くは続かなかった、エルザス軍のに動きがあることを城壁上の見張りが確認すると西側からの援軍の到着も同時に確認された、エンナからの援軍と思わしき一団に対し都市への合流を阻止すべく軍が動こうとしているのが見て取れた。

 援軍を見殺しにはできないが討って出るだけの兵力もなかったため、城壁からの援護射撃により、援軍に近づけないようするのが精いっぱいであったが、それでも射程距離内に援軍が入る事に成功し、目視した限りでは犠牲も出る事無く振り切るように城門まで援軍は近づいてきた、見張りからの報告でエンナ駐在軍が使用している軍旗の確認は取れていたため、モタモタしていてはエルザス軍からの攻撃の隙を与えてしまうため援軍は速やかに迎え入れられた。


 フリートヘルムの緊張はこの時ピークに達していた、味方からの矢じりのついていない矢による攻撃を受け追撃を振り切るように城門まで辿り着いたはいいが、そこで門は開くのであろうか?もしバレていてここで一斉に攻撃を受けたら間違いなく全滅するであろう事が予想された、祈るような思いで城門まで到達するかどうかというタイミングで門は開き出していた。

 壊滅させたエンナからの救援軍の死体や捕虜から軍旗、装備、馬などを没収し、救援軍に偽装、内部から攻略すれば、堅牢な城壁もなんの意味も持たなくなる、その作戦がまさに成就せんとする瞬間でもあった。

 門を駆け抜けるように侵入してからも自分でも分かるほどの心音を感じていた。門を潜ったすぐの場所で包囲殲滅そんな状況もありえる、そう考えると気が気ではなかった、しかし門を潜った時に耳に入ったのは中にいる者達による救援軍を歓迎する大歓声であった。

 援軍の到着を喜ぶ大歓声はフリートヘルムにとってまさに策の成功を告げるファンファーレでもあり、少し後ろを振り返り、全員の侵入を確認すると軽く手を挙げた、その合図を元に旗下の兵士は無言で守備兵へと襲い掛かっていた、間の悪い事に救援軍を出迎えるべく先頭に立って歓迎の意を示しに来た守備部隊の隊長もフリートヘルムの傍に控えていたアストリッドによって瞬殺されてしまい、指揮官不在という状況で防衛戦は開始された。


 異変に気付いた各兵が個々で戦うも、不意を突かれた不利を覆す事はできず、門周囲の制圧に時間は掛からなかった、門の制圧が完了した後は門を開け放ち、城壁上の制圧に入った、そこでは遮蔽物のあまりない空間でのクロスボウの撃ち合いから始まり、白兵戦による力押しで勝負は決した、城壁上の空間は横幅3メートルほどであり、兵数差があまりものを言わない空間であったが白兵戦になった時先頭に立って戦ったアストリッドの剣技の冴えは特筆すべきものであった。

 クロスボウによる攻撃の直後装填の隙を突くように一言「続け!」と叫ぶと一気に躍り出ていた、もし仮にもう数発装填済みのクロスボウがあったとしても彼女には躱す自信があり、いつまでも遠距離による撃ち合いでは埒が明かない事も熟知していた。

 相手も軽装備であったが、それでもチェーンメイルの金属に覆われていない部分を確実に攻撃し、一撃の下で戦闘不能にしていった、致命傷を与えられない場合も直接的な戦闘力をほぼ奪ってしまえば後は後続の者が止めを刺すため向かう所敵なしと言わんばかりの進撃を見せた。

 彼女の強さの秘訣は敵の攻撃を躱しながら敵の弱点を見抜く目とそこを確実に突く事が出来る技量にあった、敵兵からすれば攻撃か苦も無く躱しながら次々に一撃で仕留めて次に移動する彼女は、さながら悪鬼のように見えていた。

 指揮官の戦死による統率の乱れ、アストリッドの活躍により、フリートヘルムの部隊の被害は軽微なものがあり、解放された門からの本隊の侵入によって制圧は完了した。

 なんとかこの事実を本国に報らせようと他の門から脱出を試みた兵もいたが、南、東の門にも外で待機していた本隊から封鎖の兵がいち早く派遣され、数人での脱出に対しては撃ち漏らす事無く脱出防止に成功していた。

 制圧が完了した後は、陥落の事実を隠すためにフリートヘルムの部隊は守備兵に扮し、本体をフェルディナントとヴァレンティンをはじめとした300程を歳防衛に残しつつ、再度退去した後、都市の北側に布陣させ、ハスラッハからの救援軍に備えた。

 こうして、救援軍を次の獲物と定め、仕掛けた罠にまんまと嵌ってしまった形になったのだった。しかし、その策にはまだ続きがあった。




 救援軍に来たつもりであったので、攻城兵器など持ち合わせてもおらず、このままでは城攻めもままならぬ状態であった、しかし外に配置されている兵は1000程にしか見えず、兵力差では圧倒していた、それ故に先ほど城壁からの奇襲を受けた際も、格好の攻撃チャンスであったにもかかわらず目立った動きはしてこなかった。

 兵糧も心許ないため、状況報告を行いさらなる救援を要請すれば奪還できるのではないだろうか?今奪還しないと、敵も防備を固めてしまいかなり陥落が困難になるのではないだろうか?そんな考えから、ハスラッハへの状況報告、救援要請をしたためていると、伝令が飛び込んで来た。


「大変です!橋が落とされています!」


 その報告を受けると、書きかけの手紙を破り捨て、即座に全軍撤退を指示した。

 追撃に最大限の注意を払いながら、リンブルクの旗が下ろされエルザスの旗がなびいている城塞を後にする際は、その景色に忸怩たるものを感じたが、どうする事もできずさらに唇を噛み締めた。

 橋は報告どおり落とされており、しかも上流、下流の橋も同様に落とされていたため、橋を使ってのと渡河を諦め、泳ぎの上手い物が先にわたり、縄を張りその縄をわたる事によって渡河を行った。

 渡河中に追撃の兵が現れ、殿しんがり部隊が決死の防戦に勤めようとしたが、遠巻きに見守るのみで、攻撃を仕掛ける気配はなかった。あと少しで全員の渡河が終了するというタイミングで降伏勧告を行いだし、殿部隊も数の不利を悟り、本隊の渡河成功という目的を果たしていたこともありあっさりと降伏勧告に応じた。

 これは味方の兵の大半を逃がした後は降伏するよう将軍から命じられていた事にも起因していた、味方大半の渡河が終了した時点で敵に襲われたら無理せず降伏せよ、あとで国が責任を持って解放するよう交渉する、そのような命令が出されていたのだった。兵数では追撃部隊の方がかなり少ないため、大軍が残っているうちに攻撃をしかければ猛反撃に合い逆に壊滅させられる可能性が高いこともあり、多くの兵の渡河が終了し兵力差が縮まるまでは手出しをしてこないだろうとの計算もあった。

 救援に行くために輜重部隊は極力少なくしていたために、なんとか無事帰り着いたのは8000名ほどであり、ろくな戦闘もなく2000名ほどの被害が出てしまった。しかも渡河の際に馬、武器、防具などの放棄を余儀なくされ、その損害だけでもかなりのものとなった。


 殿しんがり部隊を捕虜とした追撃部隊が帰還すると、カディスにおける戦闘は完全に終了し、フェルディナントの勝利宣言に沸く兵士達の大歓声を以ってカディス攻略戦は幕を下ろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ