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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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第三の戦場

 偵察兵からの報告を受け自分達の開戦が近い事を知り静かな闘志を燃やしていた。

 しかし、テオドールはどうしても兵士の温度差が日を追うごとに顕著になって来るのが感じられ危惧を抱いていた。

 フリートヘルムの兵は歴戦の兵士を中心にした精鋭といっていい部隊であった、テオドールと違い途中で自領において各部隊から精鋭と呼べる兵を選抜し同行させてきていたのである、これは我が子を心配してのオルトヴィーンの措置であったが、さすがに浮ついたところもなく、忍耐を要求される隠密任務においても適度な緊張感を維持しつつ平静を保っていた。

 対してテオドールの配下は全員初陣といってよかった、流石に皆狩猟経験があるゆえに町育ちの一般的な住民とは一線を画していたが、それでも対人間相手の戦争はまったく経験がなかった。テオドールの初陣の際はカイをはじめ経験豊富な村人達がおり、精神的にはかなり楽な側面があったが、引き連れた村人達は全員初陣の若者、どうしても不安は残る。村人達にしてもみな初陣では、頼りになるベテランがおらずどうしても不安の連鎖は増してしまっていた。


「あの~すいません、ヨナタンさんは従軍経験とか戦の経験はおありなんですか?」


 不安に駆られた村人の一人が、まとめ役をしていたヨナタンに話しかけた。


「従軍経験、盗賊討伐参加の経験はかなりあるぞ、なんとか認められて仕官の道が開ければと必死であったからな」


 少し自嘲気味に笑いながら話す、彼なりに皆をリラックスさせたいと思っての言動であった。

 結局いくら手柄を立てても少しの報酬でそれ以上の事はまったくなく、手柄は指揮官に行き、兵士など使い捨て程度にしか見てもらえないのが普通であった。

 それでも今の主に巡り合えたのはその時の働きが巡り巡ってヴァレンティンの耳に入っており、そこから推薦状が出た事に起因していた、極めて幸運なケースであり、現実主義者であったヨナタンでさえこの時ばかりは神に感謝した。


「何をやればいいのか心得みたいのはあるんですか?」


 「ふむ」と言うと、少し考えるようにした後で語り出した、


「戦いの熱に浮かされないことだな、いくら腕に自信があっても突出すれば集中攻撃を受ける、隊列を組み冷静であり続けることこそが肝要だと思っている」


 皆神妙な顔で聞いていた、気負い過ぎな傾向があるのではないか?そんな事を考えたヨナタンは最後に一つ付け加えておいた、


「ああ、中にはいくら集中攻撃を受けてもものともしない例外的な人間もいるが、参考にしない方がいいぞ、真似したら死ぬからな」


 一瞬誰の事を言っているのか分からなかったが、すぐに某女剣士を思い浮かべ、静かな笑いが起きた。




 テオドール達アルメ村の一行と分かれると若干の不安に駆られた、味方とした時いかに頼もしい存在であるのかを再確認させられてしまう。


「不安ですかな?」


 そんなフリートヘルムの不安を感じとった近従の者が声をかける、


「ふむ、不安がないといえば、嘘になるな、どうしても嫌な記憶がついて回るのでな」


 みな、一年目のフリートヘルムの失態は知っていた、敵が一枚上手であった、そんな事は言い訳にならない事であった、そして、ここでしっかりとした戦歴を残しておかなければ後々まで響きかねない事も皆理解していた。『多少無理をしてでも勝ちを付ける』それがフリートヘルムに付けられた側近たちの決意でもあった。


「ご案じ召さるな、死神の作戦にまず間違いなどありますまい」


 皆薄く笑うが、半信半疑でもあった、しかし上辺だけでも信じていなければ平静を保つのはやはり難しい事でもあった、敵地のど真ん中で隠密行動をとるという事はそれだけで、かなり精神を疲弊させていた。

 

「敵地の奥深くに潜入し攪乱させる、レギナント殿の逸話を聞いた時は、『ほ~』としか思わなかったが、似たような事を自分でやるとなると、ここまできついとはな、改めて狂気に近いものを感じるよ」


 皆頷くしかなかった、それぞれの部隊が不安を抱えつつも、第三の戦場における開戦の時は刻々と迫って来ていた。




 カディスからの救援要請を受けエンナ駐在軍の指揮官は我が耳を疑った、救援要請が来るとすればアラスであり、仮にアラスが陥落したのであれば、少なくとも陥落の報が来たうえで、さらに軍を進めたカディス

からの援軍要請となるのが常道であろうと考えたからだ。

 しかし、その疑問は救援要請の内容を見て理解できた、『アラスが襲撃を受け救援軍を差し向けるも、救援軍は壊滅、カディスに殺到した軍に対し指揮官不在の状況でなんとか耐えている、至急援軍求む』そういった内容であった。

 この時指揮官はアラスからの救援要請が来ない事をもっと真剣に考えるべきだったかもしれない、そうすればアラスからの救援要請は先行して隠密行動をとっている何者かによって葬り去られていた事に気付いたかもしれない、しかし指揮官はまったく別の結論に至ってしまった。

 アラスを救援要請を出す間もなく一瞬で呑み込むほどの大軍と判断してしまったのだ、たしかに乱戦や道中の事故などで、救援要請が届かなかったというケースもあり得たので、そこまで見抜くのはたしかに困難であったのも事実である。

 しかし、救援軍の編成は早かった、村に動員命令を出し、駐在軍と合わせ、数時間後には出発の運びとなった。 

 大軍勢とはいえ堅牢な城壁に守られたカディスが早々陥落するとは思えないが、もしカディスが陥落すれば、エンナなど陸の孤島と化し、一瞬で落とされてしまうだろう。

 そんな思いから一路カディスを目指した行軍だったがエンナを出発して半日、昼を少し過ぎた時間帯に前面に展開する軍と対峙する事となった。

 何故ここに軍が展開しているのか理解は追い付かなかったが、その紋章は幾度となく戦火を交えたメルボルト伯爵家の紋章であった。前面に展開する敵である、それだけで十分であった、しかも見たところ、歩兵のみで騎馬のない一団であることからも、自軍の有利を確信し、騎馬兵に突撃命令を出そうとしたその矢先に敵の歩兵が突撃を開始した。

 歩兵の装備はチェーンメイルである事が目視によって確認でき、軽装歩兵であれば騎馬による蹂躙が可能である、そういった判断から躊躇ためらうことなく騎兵による突撃を号令した。

 しかし騎馬の突撃が開始されると、そこから予期せぬ光景が展開されていった。突撃を開始した歩兵がピタリと立ち止まると背中に背負っていたクロスボウを構え一斉に発射した。

 元々馬上にいる騎士達は的にしやすい傾向があるうえに真正面から狙われた事によってかなりの命中率によって、次々と馬上から射落とされていった、連射ができないため撃ち終わった者は抜けるように下がりり、全弾射出が終わった時には20騎ほどいた騎馬兵は一人の敵も倒すことなく全滅していた。

 馬上にいた指揮官もそのなかに含まれており、あの程度の規模の軍が何故そこまで大量のクロスボウを保持しているのかを疑問に思いながら絶命した。

 指揮官は当然知らなかった、最初から攻略するつもりがまるでないために、アラス包囲軍がほとんどのクロスボウをフリートヘルムの部隊に回し、過剰なまでの物量が集中している事を。

 指揮官が失われると継戦か退却か指示を出す者がいなくなり混乱しかけたが、騎馬兵の大半が失われた事で継戦困難と判断した古参の駐在兵が独断ではあるが大声で撤退を叫びながら後方へと下がって行った。

 騎馬兵のいない前方の軍からの退却はそれなりに上手く行っていたが、1時間も退却しないうちに退路が断たれている事実が判明し愕然となった。

 退路には簡易的な柵が設けられ、射程距離に入った途端矢が雨のように降って来た。矢の雨と同時に降伏勧告もなされ、降伏後の生命、身柄の安全保障も叫ばれていた。

 戦場における甘い誘い文句ほど信用できないものはない事を古参の兵は知っていた。だからこそ、指揮官らしき者が声を出している方向へ、転がっていた死体を盾にして一か八かの突撃を試みた。その気迫と形相、矢を射かけても致命傷に至らない事に弓兵が恐怖している事が伝わったが、柵まであと一歩と言う所でその男の目に映る景色はまったく別のものとなった。

 世界が大きく回っているかのように見える。それが男が最後に見た景色であった、突撃をかける男の突撃に合わせるかのように振るったアストリッドの剣はその男の首を綺麗に宙に刎ね上げていた。

 本来刎ね上げるような無駄な事はしたくなかったのだが、突撃してくる男を見たテオドールは一言命じた、「派手に殺して」と、その命令を忠実に実行したにすぎなかった。

 頭部を失った首から吹き出す血、その返り血を浴びるアストリッド、そのインパクトは十分であった、武器を投げ出すと次々にしゃがみ込み命乞いを始めた。

 テオドールは村民の犠牲0で最初の一歩を踏み出せた事を確認し安堵のため息を漏らした。

 


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