表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
9/154

討伐戦

 ヴェルナーはかなり前から完全に思考停止していた、テオドールは軍議が終わると「じゃあ、行きましょうか」と、まるで食事にでも行くかのような気軽さで盗賊退治に出発すると言い出したのだ、せめて、馬と鎧の準備だけでもさせてくれるように頼むも、馬は使わず全員徒歩で行くと言い、伯爵邸で待機していてくれればいいとまで言い出す、それでは寄騎の意味がないと、同行を申し出てついていくが、途中何度も待期していた方が良かったかもしれないという誘惑に駆られた、その思いを通り過ぎると完全に思考停止状態でただ、背中を追い走るのみとなっていた。


「このあたりかな?」


周囲を見渡しながらテオがカイに言うと、カイも地図を見ながら応じる


「この先に目印となる川もあるし、ほぼ目標点と見ていいかと」


「うん、じゃあ全体休憩で」


その声にしたがい全員思い思いの姿勢で休息へ入った、ヴェルナーは立ち上がる気力もないほど憔悴していたが、他のメンバーにも若干の疲れはでてきていた、なにしろ、かなりの速度で丸一日移動していたのだから。


「ヴェルナーさん、そろそろ行きますよ」


 疲れ果てて意識を失うように草村で熟睡していたヴェルナーだったが、テオに揺り動かされて目を覚ました、目を覚ますと猛烈な空腹を覚えた、なにしろ移動中ほとんど食事を口に入れる事ができなかったのだから、他のメンバーは走りながら器用に食事をとっているのを見たが、とても真似できそうになかった、走りながらの給水でさえかなり困難を要したのに固形物など試すまでもなく無理だと感じた。ヴェルナーの空腹をテオは察っし干し肉と固く焼き締められたパンを渡しながら言った、


「ゆっくり歩きながらの移動ですから食べながら移動できると思います、暗いですから足元とはぐれないように注意してくださいね」


「ああ」


 渡されたパンと干し肉を頬張ると彼は感じた、今までの人生で一番うまい食事だと。食べながら暗い原野を月と星の明かりのみを頼りに歩いていくが腹が満ちると疲れもかなりとれており、かなり冷静に周りを見渡す余裕がでてきた、最初テオドールの手勢を見た時は軽装な上に一本の長物も持っていない集団で、少年時代に輝かしい武勲を立てた一団の英雄譚に胸を熱くしたヴェルナーとしては失望感を禁じ得なかった、ただ、一緒に行軍してみるとその体力には驚嘆を禁じえず、奇襲攻撃をかけるのであれば、長物よりむしろ遠距離から矢を射かけ勝負を一気に決着させるのは理に適っている、常勝には理由があるものだと感心することしきりであった。

 しばらく進むと先頭から伝令が来た、あじとに人の気配ありとの報告であった、テオはチラりと空を眺め月の位置を確認すると、ヴェルナーに尋ねた


「白兵戦は自信のある方ですか?」


その問いに対してここまでいいところのなかったヴェルナーは勇んで答えた


「その点でしたら、いささか自信があります!」


「では、簡単な作戦を説明します、二手に分かれて挟み撃ちにします、少数部隊がまず鋳掛け、奇襲にあわてて逃げ出すところを本体の一斉射撃で殲滅します、撃ち洩らしを、撃ち獲ってください」


「はっ!」


「では、移動しましょう」


 結果的に勝敗はあっけなくついた、碌に見張りも立てず眠りこけているところに火矢を射かけていぶりだし、ほうほうの体で逃げてきたところに一斉射撃を受け戦意はほぼ消失していた、それでもなお逃げようとしたり、討伐部隊に一矢報いようとして向かってくる賊はヴェルナーによってあっさりと撃ち獲られた、ヴェルナーにすれば、手負いの賊をわざとまわし手柄の機会を与えられているような気さえしたが満更悪い気もしなかった。完勝に終わり帰りの行軍の足は軽いものとなり、またの機会があれば是非また共に戦ってみたいと思いながら、意気揚々と帰途に就いた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ