帰途にて
帰りの道中は行きほど急を要するものではなかったが、すれ違う旅人や商人のあからさまな嫌悪感の混じった視線が痛かった、それもそのはず、賊を撃ち取った証拠である、死体を担ぎながらの行軍となれば誰でも、関わりたくないといった視線を向けてくるのも当然のように思われる。
荷物が増えた事もあり、休憩もしばしば挟まれたが、その際にいくつか疑問に感じていた事をヴェルナーはテオドールに尋ねてみた、
「見事なご手腕と感服いたしたのですが、ここまで急を要する必要はあったのでしょうか?」
「う~ん、個人的な見解だったのですが、時間をかけているとまた逃げられると思ったのですよ」
さらに続ける
「まず、騎士団の失敗の原因は準備などを派手にやって、堂々と出発した事にあると思ったのですよ。王都に見張りを忍び込ませておき、討伐出発前にそれを察知して報告する、そういう連携をとっていたのではないかと予想したのです」
ヴェルナーも騎士団員もその点は気づいていた、だからこそその点は反論した
「いえ、その点も踏まえ箝口令を敷き出発も大々的には行わないようにして、かなり密やかに行われました」
「まぁそうなんでしょうね、ただ70名からなる人員の携帯食の準備、馬車、騎馬を使用するとなると馬の飼葉の積み込み、参加人員の準備でかなりあわただしくなったと思うんですよ。そうなると、市場や雑貨を扱うう商店などのどこかに間諜を潜り込ませておけば動向が見えてくるのでは?などと考えてみたのです」
ヴェルナーとしても準備となると携帯食など家人に用意させ、馬の糧秣の準備など、思い当たる点は多々あり、討伐に向かうとは一言も言っていなくても『何かしようとしている』という事は周囲に容易に察せられていただろうことは想像に難くなかった。
思い当たることがあり、沈黙しているヴェルナーを見ながらテオはさらに続ける、
「準備内容から察せられるって点だけではなく行軍の問題もあったと思うんですよ、フルプレートを着て乗馬し、しかも馬の糧秣を大量に乗せた馬車を引き連れて行くと、どうしても行軍速度が遅くなり、それなら手持ちの食料と武器のみの歩兵で編成した方が早くなります、多少無茶をすれば、軍の行軍を先回りする事も可能だったのではないかと考えられたのですよ」
「うーん・・・そうこまで用心深い賊の割に見張りは手薄だったのにも理由はあるのでしょうか?」
「憶測になりますが用心深いからこそでしょう『もし討伐隊がくるなら事前に連絡役からの連絡があるはず』との思い込みが油断を生んだのではないでしょうか?まぁそれでも2人ほど見張りに立っておりましたが、こちらのベテランがあっさり仕留めてくれましたからね」
「信頼されておられるのですね」
「そりゃもう、みな幼い頃から子守歌代わりに武勇伝を自慢げに語り聞かせていましたからね、ここで披露していただこうかと」
そこまで聞くとこの奇襲が行き当たりばったりのようでいて、かなり理にかなったものであり、個々の武勇は相当なものだと、感心するとともに空恐ろしさを感じずにはおれなかった、
「レイヴン卿はこれが初陣とお聞きしていましたが、本当なんですか?」
「まぁ一応、狩る対象が人間って点では初めてですねぇ」
「え?」
「いえね、うちの村は山中にあって作物もそれほど豊富にとれるわけでもなく、開墾するにしても開墾可能な場所がそもそもほとんどないんですよ。だから半猟半農のような形でわりとギリギリなんです、今回のも勢子と猟師に分かれて巻き狩りをする応用に過ぎないんですよね」
「なるほど・・・」
ヴェルナーとしても納得のいく解答であった、山中で狩りを生業としている集団であれば連携もお手の物であり、動物の活動時間である夜間対応も問題なくこなせていた事にも納得がいった。
「貴殿の父君の武勇伝が垣間見れた気がいたしました」
感服するヴェルナーに対してテオは軽く軽く返す、
「う~ん・・・正規の軍団相手には、こううまくはいかないんじゃないですかねぇ・・・」
その答えに対し、夜間に急襲を受け壊滅させられる騎士団はイメージできたが、返り討ちにするイメージは全くできなかった、奇しくも彼もまた伯爵がレギナントに抱いたのと同じ感想を持つに至った『絶対に敵にはしたくない』と。




