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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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 鎖帷子を着込み細身の剣を帯剣したイゾルデは初めて着る戦装備に不謹慎ながらも若干の高揚感を感じていた。

 負傷者が避難してきて、負傷者が戦死者へと変わる状況を実際に体験し、浮ついた気分など皆無であったのだが、昔から憧れた物語のような格好をすると、どうしても若干の高揚感を感じてしまう。

 支度を整えるとユリアーヌス達が居室としている部屋に行き、口上を述べた、


「村が乱戦になっているようです、屋敷には一歩も入れませんので、ご安心を」


「う~ん、吟遊詩人騎士マリア・イゾルデ、ちょっと盛り過ぎじゃない?」


 ユリアーヌスの軽口にふふっと小さく笑い退出しようとすると、声がかかる、


「あたしもお供しますよ」


 アルマの母が同行を申し出たのだ、その申し出にアルマは驚き声を掛けようとするが、機先を制するように続ける、


「まだ臨月ってわけじゃないだろ?ちょっとしたことなら自分でおやり、私なんてバカ亭主の面倒まで見ながらギリギリまで家事からなにまで全部やらなきゃならなかったんだよ」


 彼女の言葉に、それでもすがるように手を握るアルマであったが、彼女は優しく続ける、


「子供を守るのは親の仕事だよ、姫様もそうだけど親になるんだろ?しっかりおしよ!」


 手をゆっくりと放すと、ユリアーヌスに一礼して退出しようとした、


「後でゆっくりと母としての心得を教えてくださいね」


 ユリアーヌスの言葉に「ええ」と笑顔で答えると、イゾルデと共に退出した。屋敷からでるまでの廊下でイゾルデが尋ねる、


「武術の心得は?」


「弓くらいなら害獣対策でこの村の者はみんな使えますが、それ以外だとバカ亭主の尻をこん棒で殴るくらいですね」


 笑いながら大ぶりのこん棒を振り回して見せる、「頼もしい」と笑いながら屋敷を出る二人には余裕すら感じられた。

 見通しはいいため、乱戦から抜け出して屋敷へ向かう敵がいればすぐ発見できたが、敵が来る以前に彼女たちの元には避難していた老人が集まって来ていた、


「最後の防波堤や時間稼ぎくらいはできますよ、これでも20年前の戦では現役だったんですからね」


 杖がないと歩行も困難な老人がそれでも戦力としての志願してくる、イゾルデが返答に迷っていると、アルマの母が威勢よく言い切る、


「棺桶に片足つっ込んでる爺さんがなにいってんだい、休んどき!」


 負けじと老人も言い返す、


「そうだよ、どうせ後50年くらいしか生きられやしないんだから好きにさせい!」


 あと50年も生きるつもりなのかと、笑いが起きる、殺伐とした空気が若干和やかになったが、乱戦を抜けて来る重武装の騎士を見て緊張が走る、


「私が動きを止める!そうしたら私ごとでいいから敵を倒せ!」


 抜刀しながら言い放つイゾルデに対し、老人達は首を振り言い返す、


「そいつは老人の仕事、若い娘さんには別にやることがあるさ」


 誰かが「それほど若くもなさそうだけど」とボソっと言った言葉に笑いが洩れるが、全力で走る3名の騎士達がいよいよ近づいてくると、目配せと共に分散してそれぞれ騎士の行く手を遮るように立ち塞がった。

 一人の騎士は舌打ちをすると、正面にいる老人をあっさりと斬り伏せたが、剣を振るう隙に3人の老人が胴体、両足にそれぞれ纏わり付き身動きが取れない状態となった、剣を持ち替え足に纏わり付く老人の背中を刺すがまったく離す気配を見せない、足に纏わり付く老人に気を取られている隙に頭部への激しい痛みを感じ意識を失った、兜をしていても鈍器によるフルスイングの攻撃を受けることによって脳震盪を起こし、あえなく気絶してしまったのだ。

 二名の騎士が鈍器によって無力化する中で、イゾルデは苦戦していた。動きの止まった騎士の背後から鎧の隙間である首筋めがけて剣を突き出したのだが、刃先が項に当たったが突き刺さらず、刃が滑り首に浅い傷を付けただけで致命的なダメージを与えられなかった、傷を負い同僚が倒される様を見てかえって冷静になった騎士は、長剣を地面に突き立てると腰の短剣を抜き、イゾルデや背後の気配に注意を払いつつ、胴体に絡みつく老人の喉を短剣で深く切り裂いた。

 老人の体を纏わりつく蔦を外すように取り除くと、足に纏わりつく老人も同様に除外しようと、片手で薄くなった老人の頭髪を掴むとその喉を切り裂くべく短剣を振るったが、同時にその騎士の頭に背後から横殴りのこん棒の一撃が襲った。

 たらればの話になるが、横殴りではなく縦に振り下ろすべきであったかもしれない、他の二名がこん棒で倒される様子を見ていたので、この一撃を予想しており命中直前に体を沈ませ一撃を回避した、フルスイングでの一撃であったため、彼女がバランスを崩している所に、騎士は地面に突き立てていた長剣を素早く抜くと、特に防具など着けていない彼女の腹部に深々と突き刺した。

 突き刺された剣を見て、彼女はそれが致命の一撃である事を悟り、全力で剣を掴みこんだ、騎士は剣を取られまいと引いたが、体に深く食い込み、指の喪失も厭わない握り込みに、思うように剣を引き戻す事が出来ずにいるうちに、首に熱い一撃を感じ喉の奥に血の味を感じながら事切れた。

 騎士の意識が剣の奪い合いに向いている時に、イゾルデは剣を構えなおし騎士の横の位置から体ごとぶつかるように首に剣を突き立てた、本来なら死角とは言い難い位置であったが、意識が剣の奪い合いに言っていた事が功を奏しこの奇襲は成功した。

 騎士が力なく倒れると、剣の奪い合いも終了し、彼女は仰向けに倒れた、腹部に突き立てられた剣をイゾルデがあわてて抜くが、致命傷である事は誰の目にも明らかであった、『自分が最初の一撃を外さなければ』そんな自責の念に駆られながらもイゾルデは彼女に声を掛けた、


「アルマになにか伝える事はないか?」


 口から血を垂らしながら、精いっぱい笑みを浮かべ彼女は言う、


「さっきすべて伝えましたよ」


 それが彼女の最後の言葉となった。

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