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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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死兵

 夜明けの光と共に再攻撃は始まった、昨夜の攻撃の際は暗闇で見えなかったが、門を越えたところに簡易的な沼地を作り機動力を殺し、矢の雨で仕留めた配置は門を突破された時の切り札として村を作る時から構想に組み込まれているかのようであった、しかもそこから先へ進むためには大きく左折する必要があり、直線的な攻撃しかできない投石器も役は立たず、力押し以外で攻略する術はないように思われた。


「ここからじゃ見えないけど、あの先にも門があって手こずってるらしいな」


 30に手が届くかどうかという年齢の体躯のよい騎士が指揮官の男に声を掛ける、


「だろうな、この地形ならまず間違いなくあそこに第二門を設けるだろう」


 指揮官の男も似たような年齢だろう、行軍や続く戦で汚れも目立つが、それ以上に育ちの良さを感じさせた、


「う~ん、第二門の方が突破しづらくないか?あの地形だと」


「そうとも言えんだろうが、厄介な事にはかわらんだろうな」


「う~ん、俺にはよく分からんが、なぜ正門に固執したんだ?放棄して早期に第二門に撤退した方が守りやすく被害は少なくて済んだんじゃないのか?」


 ゆっくりとした動作で周りを見渡すと、正門の方を指さし次いで第二門を示しながら言った、


「まず正門をあの位置に置かないと寄せて来る敵の実態が分かりずらい、次に第二門は攻めずらい位置にあるのは確かだが出血を覚悟するなら両脇から攻撃をしかける事も可能な配置だ、しかもあそこでは大きな門は構造的に作れんしな、だからあそこを最初から最後の関門とするのはリスクが高すぎる」


「落とせるか?」


「半数以上は犠牲になるだろうが、突破は可能だろう」


 考え込むようにして一息置くと重ねた尋ねた、


「どう決着つけるつもりなんだ?」


 その質問にほぼノータイムで答える、


「ここまで減らされると、村の維持は困難かもしれんが、王姉ユリアーヌスを人質に取れれば身代金とこの村の領有も交渉しだいだろう、もし維持困難であるならば、隙をついてリンブルク領へ逃走しそこで商売でも始めるかな」


 長い付き合いである彼にはその言葉に嘘を感じていたが、乗る事とした、


「商売に向いてるとは思えないがなぁ」


 笑いながら言うその言葉に笑いながら返す、


「そうだな、私は帳簿付けでもやり、店主は君に任せた方が繁盛しそうだな」


 その言葉に剣を振りながら答える、


「いや、俺はこっちでいくよ、そうなったら傭兵でもやるさ」


 そんな少し温かみのある会話も、伝令の報告で中断された、


「第二門あと少しで抜けそうです!」


 その言葉を受け、


「じゃあ行ってくる、領主の屋敷は間違いなく制圧してくるさ」


兜をかぶりながら、指揮官にむかって言うと振り向きもせず進んで行った、指揮官はその背中を無言で見送っり小声で呟いた。


「すぐ追いつくさ」




 攻撃はいよいよ激しさを増していた、死を恐れず死兵と化して第二門に殺到する敵に対処しきれなくなってきていた。

 それでも希望はあった、昨夜間道から大挙して攻め寄せてきた軍は、いくら弓を射かけても倒れず不気味がらせていたが、撤退後に理由が判明した、老兵が棒に布切れを垂らし、一人で数人いるように見せかけていたのだった、偶々ダミーではなく本体に当たり倒れた老兵の死骸からそのカラクリが判明したのだ。

 この事は皆に伝え、敵兵力の枯渇、老兵を使っての水増し、敵恐れるに足りずと士気を揚げる宣伝材料とした。しかしバレる事も覚悟でその戦術を使ったという事は昨夜決着をつけるつもりであり、それが叶わなかったとなると、今日は遮二無二攻撃を仕掛けて来る事が予想でき、実際に夜明けと共に始まった攻撃は熾烈を極めた。

 昨夜のうちに正門は制圧され、第二門でかろうじて防いでいるが、押されているのが誰の目にも明らかであった、主力が遠征で村を留守にした上での3日間の戦いは、極めて激しい兵力の損耗を招いた。

 どうしたものかと考えている所に村人の一団がやってきたが、一目見てエレーナは言い放った、


「負傷兵は屋敷に下がっていろと言ったはずだ!」


 みな殺気立った顔だったが、そのうちの一人が上着をはだけ、腹部に血のにじむ包帯を見せながら言った、


「もうしわけありません、致命傷です、敵兵と刺し違える覚悟で戦線復帰をお願いにあがりました」


 しばらく言葉を発することができなかったが、意を決して命令を伝えた、


「戦線への復帰を命じる!家族の事は心配するな」


 「はっ!」っと返事をすると、槍を杖代わりにして気力で歩いているような状態ではあったが、意気揚々と広場を後にして前線へとむかって行った。

 そんな彼らは前線と屋敷との中間地点に配置された、前線だと足手まといになる可能性もあるため、ここが突破されると本当に困る場所の最後の盾としての役割を割り振られていた。

 彼らが予定のポイントに着いたのは第二門に敵が殺到し陥落も時間の問題と思われていたタイミングであった、負傷者の戦線復帰を見てひとりの男が彼らに声を掛けた、


「いいのか?」


 みな笑みすら浮かべながら肯定の意を示す中、一人が声を掛けた、


「お前こそいいのか?初孫だろ?」


 その問い掛けに対し、他の村人からも同様の質問を受けていた事もあり、慣れた調子で返す、


「だからこそ、死守しなきゃな」


「違えねぇ、あの時俺の娘もいたんだよ、借り返さねぇとなぁ」


 足を引きずり、ここまで来た負傷者の一人が言った言葉に、『気にすんな』と言おうとしたした時、前線から大声が響いた、


「突破!」

 

 なだれ込んで来た兵士に対し、動ける者達が中心となり必死の抵抗が始まる、第二門の突破にかなり人員を減らした攻撃側が劣勢な状態となり、村の遮蔽物を利用して効率的に迎撃に出た村人有利に展開している状態となったが、敵も多少の傷にひるむことなくむかって行き一進一退の乱戦となった、そんな中完全武装の一団が他には目もくれず奥まった所にある領主屋敷を目指して疾走を開始した。

 先頭を行く騎士はフルプレートメイルで武装しており、弓の攻撃を全く寄せ付けず、白兵戦を挑んだ者も簡単に切り伏せられていた、装備の質、腕前共に選び抜かれた切り札ともいうべき集団であった。

 負傷者達は目で合図を交わすと、その一団へと飛びかかっていた、動きの若干鈍った負傷者集団ながら、重装備のプレートメイルで身を堅め、しかも兜のせいでかなり視野が狭くなっている事も幸いし、彼らの思惑通りに接近する事が出来た。

 配置に着くまでの間に、どう戦うかについては打ち合わせが済んでいた、3人一組になり、一人が飛びかかる、その隙に一人が下半身にタックルを行う、転ばせたところを最後の一人が鎧の隙間に槍を突き立てる。という単純なものであったが、最初に飛びかかる者は完全に捨て駒としての覚悟を決めていたため、この戦術は単純ではあったが、確実な効果を上げた。

 先頭を走っていたリーダー格の騎士も最初に飛びかかった来た者を反射的に最速で仕留めるべく、剣による突きを放ったがこれが悪手となった、剣を胸に突き立てられながらさらに前進し、抱き着くように動きを封じてきた、さらに下半身にタックルをくらい仰向けに倒れるとその眼前には槍の穂先が迫っていた、『ここまでか』そう思うと同時に槍は喉から胸にかけての辺りを抉り絶命させていた。

 槍を突き立てた男はまだ碌にケガを負っていたわけでもないのに、皆の総意で比較的安全な場所へ配置され後ろめたい感情を抱いていた、彼の娘が産む初孫は村にとっても待望の跡取りになるかもしれない、それゆえに彼を優遇していた、まだ40を少し過ぎたばかりで戦闘の主力とならなくてはいけない年齢であるにもかかわらず、比較的安全な場所に配置され続け、仲間が死傷していく様を見せ続けられる事は苦痛であった、だからこそ敵の騎士を仕留めた事に満足感と高揚感を感じていた。

 『やった』そう思った瞬間に背中に痛みを通り越した熱さを感じ、俯せに倒れ込んだ、頭で色々と考えが巡る中でポツリと言葉がもれた、


「アルマ・・・」


 隊長を仕留めた男を斬り、屋敷へ向かおうとした騎士は走り出そうとした瞬間に足を取られて転倒した、さきほど隊長にタックルを決めた男が、自分に覆いかぶさるように倒れてきた死体から這い出し背を向けた騎士の足にしがみついたのだ、騎士は俯せに倒れると同時に迫り来る死の気配の察知した、救いがあったとすればその目に乱戦を抜け屋敷を目指す僚友の背中が映っていた事であろう、僚友の背を見ながらその項に槍が突き立てられ、その目は何も映さなくなった。



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