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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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戦術談義・戦闘編

 偵察隊からの進軍の様子を聞いた時、何を考えているのか理解に苦しんだ、道なき道を行く山道の進軍で体力の温存が必要であるにもかかわらず、酷い時は明け方まで情事にふけっている、しかも数名の娼婦をだまして引き連れてきているならまだしも、武装した戦闘要員らしき少女にその役を一手に引き受けさせているという話を聞いた時は常識を疑った、報告する方も嫌そうな顔をしながらの報告となった。

 戦時中に綺麗ごとほど意味のない戯言はないと思っているが、これは倫理的問題ではなく、効率的な問題もしくは理論的な問題として問題外としか言えないだろう。そこまでされて逃げ出さないのはどういう素性の者なのだろうか?と、気になった事もあり、背後からの一斉射撃では、なるべく避けるように通達しておいた、最も先頭をひた走って行ったので、その心配は杞憂に終わったが、村からの狙撃の対象にならなかったのは完全に運が良かっただけだった。

 テオドールはそんな事を考えながら、いよいよ佳境に入る説明を行いだした、


「3日後には村に到着するという状況で本体70名を二手に分けました、狙撃隊10名、補助10名、本体50名です、そして本体はゆっくりと1日進軍した後散り散りになり敵の進軍ルートを避け潜伏、通り過ぎた後で追跡部隊30名と合流、80名で追跡を行って行く形となりました。」


 ひどく考え込むようにしていたフリートヘルムであるが、ポツリと疑問を口にした、


「ここまでくると、どのような戦術をとろうと詰んでいないか?」


 皆の考えを代表しての意見でもあった、テオドールは答える、


「動きを客観的に把握していればそういった結論にいたるでしょうけど、敵はこちらが籠城策をとるため、村さえ攻略すれば勝てると考えたのでしょう。」


「食料が尽きかけた200名ほどの軍勢が、300名の村人が武装して待ち構えている村をどう落とすのか?どうやったらそんな事ができるのか、それこそご教授いただきたいくらいだ。」


 彼の言葉に嫌味はない、純粋な呆れからであった、


「その通りだと思います、死ぬほど嫌いなレギナント、その子倅に降伏する、そんな選択肢は思い浮かばなかったんでしょうねぇ」


「無駄にすぎる・・・」


 吐き捨てるように言う彼の言葉を聞き、ゲルトラウデは『まぁ、まともな指揮官ならそう思うでしょうねぇ』としみじみと父のとち狂った対応にため息が漏れた。


「後は簡単でしたね、射程に入った所を狙撃して出鼻を挫き、その後は敵の出方次第でしたが、さきほどおっしゃられたように、どうやっても詰んでいるんですよ。」


 そこでゲルトラウデがふと思いついた疑問を口にする、


「よろしいでしょうか?内通者が誰なのかは村の狙撃手からは確認できなかったはずなのに、何故うまく外せたのですか?」


「ああ、指示してあったのですよ、目印に頭に赤い布をなんでもいいから巻けと、それが目印だったんです、注意深い者がいればみんな赤い布を巻いた者が村への別動隊に志願した事に違和感を感じたかもしれませんでしたが、バレても内通者を敵が処分してくれるだけですからねぇ。」


 疲れ切っていたとは言え、注意散漫であった、もし気付いていても何も変わらなかったかもしれないが、それでも不覚であったと思った。彼女がそんな事を考えていると、フリートヘルムが興味深そうに尋ねてきた、


「もし。脇道に別動隊を送るという選択肢を取らなかったらどうするつもりだったのだ?」


 その質問にはカイが答える、


「レギナント様の作戦計画書によれば、いくつか案が上るだろうとの事でした、強行突入、撤退、脇道からの突入、降伏、大きく分けてこれだけですが、撤退と降伏は兵士がいるうちはプライド的にないだろうと読んでおられました、狙撃の恐怖を味わった後で強硬突入もないと考えておられました、となると脇道ですが、そのような不確定な作戦は部下にやらせ、自分は後から正面突入に出るであろう、との読みでした。」


 以前にそこまで読まれていた事は知らされていたが、何度聞いても全て読まれていたと思うと、尊敬の念さえ生まれてくる。


「こちらの作戦で出たのもその案でした、読まれていたと思うと、もう言葉もありませんが。」


「あとは奇襲が成功したように見せかけおびき寄せた後で前後からの一斉攻撃で殲滅、残したエンゲルベルトは一騎討ちで討ち取ってお終いですね。」


「いや、ちょっと待ってくれ!そこで危険を冒して一騎討ちに出る必要などないであろう?」


「まぁ、基本的にはありませんな、ただ宣伝材料としてこの上ない材料であるという事です、武門の家にとって、武名は何物にも代え難いものがありますからな。もちろん勝算あっての事です、山道を疲労困憊でここまで来た人間とゆっくり休みながら待ち構えていた人間、山道を行く上で邪魔になるためプレートメイルを用意せずせいぜいチェーンメイルであろう敵とフルプレートメイルの味方、しかももし敗れそうになったら、クロスボウでの狙撃で仕留める手はずまで整っておりました。」


 カイの長い説明であったが、たしかによっぽどの力量差があるならまだしも、多少相手が強いくらいならここまでハンデがつけば逆転は難しそうであると思われた。勝つべくして勝つとはこういう事なのかと、しみじみと感じていた。

 この戦術談義においてフリートヘルムはレギナントの戦術に深く感銘を受け尊敬の念に近いものを抱いたが、テオドールに関しては、未知数という印象が強く残った、話の感じだと前回王都での盗賊団討伐も、歴戦の従士長であるカイが主導で行ったのではないかと思うと、テオドール本人の戦術的才覚は未知数と思えてしまった。

 フリートヘルムがこの考えを改めて、テオドールの戦術的才覚を認め、父以上のキルマイヤー信者となるのは数年先のお話であった。


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