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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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戦術談義・準備編

 会議室は今まさに戦場と化そうとしていた。

 オルトヴィーンの提案で今回の戦の経緯や戦術を巡っての忌憚なき意見交換、戦術議論をする事となった。広げられた地図の上にチェスの駒がいくつか置かれており、議論の開始を待っているかのようであった。テオドールの言葉により、戦術討論会は開始された。


「ここにいるゲルトラウデは敵軍として参加した者ですが、エンゲルベルトの死まで奮戦し、捕らわれた後忠誠を誓った者です、元々は騎士家の者なのでその点ご配慮ください。」


 いくつか嘘も入っているが、ヒルデガルドやエレーナとも相談し、彼女の身分や経緯をフリートヘルムには若干ごまかして伝えた方が話がスムーズに行くだろうとの配慮からであった。


「了解した」


 テオドールによるゲルトラウデの紹介をフリートヘルムが了承すると、ゲルトラウデは軽く一礼し、敵サイドからの進軍、補給、作戦についての説明を開始した。

 事の顛末の説明を受けると、フリートヘルムは怪訝な顔をしながら質問を開始した、


「卿の示した作戦だが兵法の観点から見て、どうしても理に適っているように思えん。まず補給ポイントを作り、そこに補給物資を搬入する、それから進軍を開始するとなると、手間も時間も数倍になるだろう、潤沢な資金や人手があるわけでもないのに、これは兵法としておかしいと思われる、『兵は拙速を貴ぶ』というのは基本ではないのだろうか?」


 フリートヘルムの指摘を受けて彼女は、ある種の呆れたような顔をしつつ、自嘲気味に答える、


「ご指摘ごもっともです、こんな作戦、無駄も多く成功率を下げるだけの下策だと立案した当の本人である自分も気づいておりました。」


 では、何故なのだ?と言わんばかりのフリートヘルムの様子を察し、彼女は続ける。


「仮に少数の兵力によって、この村を陥落させんとするなら、片道のみの兵糧を持った背水の陣にて、計画から実行まで間をおかず事を成すが肝要かと思われます。しかし、その方法は実行には移されませんでした、喉元どころか足元までも到達しえなかったのです。」


 その説明に、さらに怪訝な顔をして問い返す、


「前回から18年の間この村は攻められた事はないと聞いていたが、攻めた事があったのか?」


「正確にはございません、矛盾するような発言になりますが、一度だけ約6年前にあったそうです、記録を読み解くと、攻める以前に軍が瓦解するとい大失態が発生したようです。」


「なんだそれは!」


 軍が敵と戦う前に崩壊するなど、どれだけ脆弱な烏合の衆であろうかと呆れもした、


「食い詰めたり、お家再興を願う騎士やその郎党、雇った傭兵、氏素性の怪しいものなど、200名前後で各々食料を持ち一気に急襲するという計画だったそうです、ところが蓋を開けてみると、支度金を持ち逃げして消える者、食料を用意しても道中無計画に食べ途中で兵糧を切らすもの、そもそも食料準備を怠る者などいて進軍して山の麓に到着するころには100名前後で、食料も山越えを行うのには到底足りない量しか残っていなかった、と記録にありました、さすがに継続を断念して撤退したそうです。」


 フリートヘルムは眉間に皺をよせながら、呟くように尋ねた、


「バカしかいないのか?」


「反論の余地もございません」


 そこまで、無言で様子を見ていたオルトヴィーンがそこで口を挟んできた、


「バカバカしく聞こえるかもしれんが、末端の騎士やゴロツキなど字も読めず、計算もまるでできない輩が大半だ、だから軍需物質、軍資金管理、兵糧管理などは、一元的に行わないと、そのような目に合う。察するにエンゲルベルトの周りにはもはやそれなりに使える人材が残っておらなんだろうな。」


「ご明察のとおりです。結局この失敗により蓄えもほぼなくなり、その後の再起にかなりの年月をかけることとなってしまった次第です。」


 まだ幼かったゲルトラウデはこの頃までは、単に無視されるか使用人のように扱われていたが、この時期を境に八つ当たりの対象になり、挙句は都合のいい道具として扱われるようになって行ったものだと、言いながら思い出していた。


 こんな寄せ集めでよく戦う気になるものだ、と思いながら、フリートヘルムは確認をとるかのように話始める、


「管理体制の確立と、輜重部隊等を別に用意する事よって生じる行軍速度の低下を避け、行軍速度維持を狙った苦肉の策であったというわけだな。」


「左様です、しかしそれ以外にも問題が持ち上がってきたのです。」


「ん?」


「時間経過にともない、第三回の戦の、山に入ってからの悪夢のような奇襲、夜襲が大幅に誇張され宣伝されると、その本拠地への奇襲攻撃に難色を示す者が大勢で出したのです。安全の保障をしてやらないと参加を渋るようになってしまったのです。」


 フリードヘルムはため息をつきながら、彼女の方を見ると言った、


「安全保障がないと戦に参加しないなど・・・・・・・臆病を通り越して・・・・」


「返す言葉もございません、村の喉元の位置に小屋を設置し、『敵は我らに気付いていない年月が経ち油断しきっている』と、アピールすることによって、手柄や実入りを欲しがる者達が集まった次第です。」


 ここまでの話しぶりから、彼女はかなりこの作戦立案に携わっており、年齢から察するにエンゲルベルトの縁者、もしくは側近の縁者であったのだろうと察したが、さすがに同情もあり、その点は指摘せずに彼女に言った、


「卿の作戦実行までの苦労、たいへんであったろうな・・・・その点は感服する。」


「無駄な戦で死人ばかりだしたと反省しかございません。」 


 そのような状態で戦をしようという事自体がナンセンスではあるが、この方法ならかなり確率は低いが成功の見込みもなくはない、まさに大穴狙いのギャンブルではあるが一筋の光明は見える。ただし、それは村の喉元に設置された補給小屋が発見されることなく機能すれば、という話である、


「レイヴン卿、貴公はこの小屋の存在を知っておられたのですか?」


「正確にはレギナント様は早期、というか建設段階で発見されたようです。進軍ルートはたえず村人数名で組んでの広範囲警戒網を敷いており『怪しいのが小屋を建てている』という報告は、村から一番近い小屋ではなく4番目の段階で気付いていたようです。」


 彼はそう言うと、指揮棒で地図上に置かれた4番目の小屋の位置を指し示した。その位置はほとんど山の敵側の麓に近く、二番目に遠い位置に設置された小屋であった。その警戒網の広さに驚愕すると、質問を重ねた、


「その位置まで警戒網を広げる事にどこまでの意味があるのでしょうか?」


 すると黙って聞いていたカイが口を挟む


「僭越ながらレギナント様に代わってお答えいたします。警戒網を大きく取る理由は二つあります、一つは先の第一回、第二回のように、伯爵領が攻められた際に敵の後背にまわり、逆侵攻をかけるためのルートを常にチェックされていたからです。第二は当の本人が奇襲されることの怖さを熟知されていたため、その警戒には十二分に神経を使われていたようです。」


「ふむ・・・・見事だな・・・・だが、発見したならなぜ放置したのだ?」


「当時まだご健在だった先代様は、『潰してもまた来るだろうから、おびき寄せて今度こそとどめを刺そうか、身代金ももう期待できんだろうからね』との事でした。」


「生前に全ての計画を立案されておいでだったという事か?」


「ええ、ですからその作戦通りに行ったら、ほぼその通りになったんですよ、皆と話したんのです、『本当に人間だったのか?』って。」


 最後に笑いながら答えるテオドールであったが、フリートヘルムにすれば信じがたい話であった、父がいつも語る武勇伝は多少誇張が含まれているのではないかとさえ思っていたくらいである。そんな息子の様子を察してオルトヴィーンは静かに付け加える。


「事実であろうよ・・・だから恐ろしかった。」


と。

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