第4話 ヲタク少女、バズる
翌日の朝。
あたし、田中コトネはベッドからむくりと起き上がった。
「眠れませんでした……」
目元にはクマ、ボサボサの髪。
あの後、あたしは一目散に帰宅しました。
思わぬユイたんとの出会いに整理が付かず、落ち着くために寝ようとしましたが、ただ横たわって1日を過ごしただけでした。
そして、今に至ると。
「絶対ヘンな人だと思われましたぁぁぁ……」
あたしは髪を掻きむしる。
時を戻してやり直したい……!
もっとこう普通な、当たり障りのない感じで話したかった。
脳が処理出来ずに、色々と混乱してしまった。
挙げ句の果てに、その場から逃げ出す始末。
「――ほぎゃああああああああああ!!!!」
あたしは頭を抑えて叫ぶ。
ユイたん、こんなあたしでゴメンなさい。
ロクにコミュ力が鍛えてなかったが故に、とんだ失礼を!!
「申し訳ございません、お許しください、今後はこのようなことを起こさぬよう、一層努力いたしますが故、何卒どうか……どうか!!」
あたしはユイたんグッズ棚(祭壇)に土下座をし、赦しを請う。
こうでもしなければ、今の人生を続けることはできません。
あたし田中コトネが、Dライバーちゃんを推し続けていくための必要な儀式なのです。
1時間後、
「ぜぇぜぇ……」
禊を終え、ふと我に返る。
「学校に行かなきゃ……」
今日は平日、女子高生の顔を持つあたしはそろそろ登校しなければなりません。
しかし、この低いテンションのまま一日を乗り切れるかどうか……?
「は、こういうときこそDライバーちゃんを摂取せねば!」
好きなジャンルの供給、考えてみれば、これ以上の良薬はない。
それがあたしのメンタルを保つことになり、ひいてはDライバーちゃんたちの応援に繋がる。
まさにWIN-WIN、早速気持ちを切り替えていかねば……!
「まずはぽつったーのタイムラインチェックから!」
スマホでSNSアプリ『ぽつったー』を開く。
あたしの垢(コトねる大邪神)は、ありとあらゆるDライバーちゃんをフォローしているので、タイムラインはDライバーちゃん一色。
正に花園、幸せてぇてぇ空間なのです!
「さてさて、Dライバーちゃんたちの起床ぽつーとはと……」
その時、とある見出しが目に映る。
【秋葉原ダンジョンにてイレギュラー、その脅威を防いだ謎の英雄に迫る!】
「むむ?」
秋葉原ダンジョンのイレギュラー……昨日のことでしょうか?
あたしは画面をタップすると、添付された動画が流れだした。
そこには、
――ドゴオオオオオン!!
吹っ飛ばされるエンペラーデーモンと……。
『―― ふっふっふ……やっぱりパワーは全てを解決するのです』
あたし、田中コトネが映し出されていた。
「!?!?!?」
えっえっ。
「な、何ですかぁこれぇ!?」
間違いない……これは、完全にあたしです。
昨日のイレギュラーの一部始終が、丸々収められています。
『これはひとえに愛、あたしの愛が生み出したパワー!』
「ひえええええええ!?」
あたしは両頬を抑え、ム◯クのように絶望する。
でも何で……?
すると、動画のあたしが急にキョドりだす。
そうだ、ここでユイたんがいることに気付いたのです。
ユイたんの背中が映る。
まるで、あたしというよりユイたんの視点で撮られてるみたい。
あれ、これってもしかして……。
「ユ、ユイたんのドローン、ってことは!?」
は、配信してたのおおおおおおお!?
ユイたんの衝撃が強すぎて全然ドローンに気が付かなかった……。
それなら動画が撮られていることにも納得がいきます……!
でも、ユイたんの配信通知はONにしてたはずだけど。
「はっ、そういえば」
あたしは昨日のことを思い出す。
スタンピードに駆け付ける直前、スマホが震えたような気がしました。
今思うとあれは……ユイたんの配信通知だったんだ!
そして、キョドりながら逃げ出す姿もしっかり映ってました。
「ひいい、あたしってこんなキモかったんですかああ!?」
あたしは身体を捩り、悶え苦しむ。
一つひとつの動きはもちろん、放たれる声も気持ち悪い。
そして問題は……これを不特定多数の人間が観ているということ。
ユイたんはDライバー界でも上澄みレベル、平均同接は10万人を誇ります。
そんな彼女のゲリラ配信ともなれば、界隈はみんな注目します。
あたしはダンジョン配信専用サイト『ダンチョンチューブ』で、ユイたんのチャンネルを開く。
最新ライブに、ほんの数分程度のアーカイブが残ってました。
「これですね……」
あたしは恐る恐る概要を確認する。
最大同接数……20万人。
再生数……300万回視聴。
「――ひいいいいいいいいいいい!?!?」
じゅ、20万人!?
再生数に関しては、まだ1日も経ってないのに300万も!?
「終わった……」
灰になるあたし。
どこにでもいる平凡な女子高生、田中コトネは、一夜にしてバズってしまいました。
♪〜。
その時、スマホに着信が入る。
画面には友人の『虹野マキナ』の表示。
「マ、マキナちゃん!」
あたしは縋るように電話に出る。
『おはよコトネ〜、ニュース観たよ、一躍有名人じゃん』
すごく呑気で、気の抜けた第一声でした。
「マキナちゃん助けて下さいいい……あたし何でこんなことに」
『やっぱり動揺してる、ま、いつかはこんな日が来るとは思ってたけどね、あはははは』
「笑い事じゃないですよぉ!」
『何だ、思ってたより元気そうで良かったわ』
ケタケタと笑うマキナちゃん。
普段あっけらかんとしてますが、こうして電話してくれるのはありがたいです。
あたしには勿体ないマブダチなのです。
『ま、詳しいことは学校で話しましょ、ちゃんと来なさいよ〜、コトネから色々聞きたいし』
「はいい、どうかよろしくお願いします」
『それにコトネ……アンタどうせ時計見てないでしょ、まだ家ならヤバイんじゃない?』
「ふえ?」
時計を見ると、普段家を出る時間をとっくに過ぎていました。
「ち、遅刻ですうううう!!!!」
あたしは制服に着替えると、急いで部屋を後にするのでした。
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