第16話 ヲタク女子、女番長に攫われる
あたし田中コトネ、どこにでもいる平凡なヲタク女子。
超有名Dライバー、如月ユイさんとの配信を終えたあたしは、いつもの生活に戻りました。
そう、いつもの……。
ごく普通の、学校生活。
「――コトネちゃんあんなに強かったんだね! 知らなかったよ!」
「――ユイたんのコラボ配信観たよ! マジカッコよかったわ!!」
「――あんなに強いなら言ってくれよ、何で黙ってたんだよ〜!」
「――ねぇねぇどこの事務所に入るの? デビュー決まったら教えてよ〜!!」
「――僕、コトねるさんのファンになっちゃいました! サイン下さい!」
いつもの……。
「ふへ、ふへへ……」
クラスメートに取り囲まれたあたし、田中コトネは死んだ目で虚空を見つめるのだった……。
◇
「疲れました…‥」
昼休み、机の上に頭を乗せ、死んだ顔で呟くあたし。
口からは魂が出たり入ったりしてます。
ぴとっ!
「ひいいいいいいいい!?」
「お疲れコトネ、だいぶ参ってるわね」
マキナちゃんが購買から戻るなり、あたしの首筋に缶ジュースを付けました。
「もうやめて下さいまし! か弱い乙女にイタズラは禁物です!」
「アンタのどこがか弱い女子なのよ」
ほらこれ飲みな、と先の缶ジュースを置いてくれました。
「ありがとうございましゅ」
ゴキュゴキュ……!
「ぷはー!」
あたしは一気飲みし、空き缶を握りしめ、1センチ程の粒にする。
「それにしても、如月ユイとのコラボ配信は見事大成功ね、やったじゃん、いやーアタシも手に汗握ったわ」
「大成功……? あれのどこが大成功ですか!?」
あたしは絶望する。
「あの配信は……あたしが如何にDライバーとしての素質がないのか、それをお届けするための物、なのに……何か逆に盛り上がってしまっているではありませんか!」
「そりゃあねぇ、普通の女子高生がソロでクリムゾンドラゴン討伐したら今朝みたいになるわよ」
今朝、あたしはありとあらゆる生徒の質問責めに合ったのです……。
そりゃあもうしんどかったですよ。
あれですね、質疑応答って運動と別のHPを使いますね。
そして昼休みの半ば、やっと落ち着いたところなのです。
「あたしのようなヲタクは目立たずひっそりと人生を過ごすべきなのに……何故こんなことに」
「その割には、クリムゾンドラゴンと戦ってるときは終始ノリノリだったじゃないの」
「うぐ、あれは……」
爆風で配信ドローンが壊れたと思ってぇ、リスナーさんには映ってないと思ってぇ、ユイたんさんとあたし、2人だけの想い出になるんだと思ってぇ。
だから、本気出したわけでぇ……!
「――ふううううん! ふうううううううんんん!!」
あたしは滝のような涙を流す。
矛先を向けようにも、あたしの顔しか出てきません!
「今ネットは凄いことになってるわよ、『Dライバーの超新星、田中コトネ!』『歴史的快挙、巨大魔結晶の発見!』『クリムゾンドラゴン、倒したのは魔力ゼロの女の子』『ゴリラ女子』、これ全部コトネのことじゃん」
ネットの惨状はコトねる大邪神垢で見ました。
何処もかしこも、あたしに纏わるニュースでいっぱいでした。
見かけるたびにミュートなりスパム報告をするのですが、すり抜けてあたしの元に届けられるのです!
「ううう、あたしのDライバーちゃんで構成された幸せタイムラインに、気持ち悪い茶髪ベレー帽が押し寄せてくる……すっかり汚染されてしまったのです!」
「汚染って」
マキナちゃんは額に手を当てました。
「コトネ、まずアンタは普通じゃないのよ」
「ふえ?」
「この世界って潜在魔力が全てみたいなとこあるじゃん、モンスターを倒すための身体強化、スキルを使うにも魔力は必須、それは多ければ多いほうがいい、でもコトネには魔力がない」
「そうなのです、だからこんな底辺のあたしが注目されるなんて――」
「逆よ逆、だからよ」
マキナちゃんが続けて言いました。
「そんな魔力ゼロのコトネが、潜在魔力が多い探索者でも倒せないようなモンスターを軽々倒してたら、知ってるアタシは兎も角、初めて見る人はびっくりするわよ。潜在魔力が国内上位の方がまだ納得出来るもん」
それは……そうかもしれませんが。
「コトネ、アンタは例外中の例外、今までのダンジョン界隈の常識が通用しないイレギュラーなのよ」
「と、言うと」
「この盛り上がりは、まだ冷めないわよ」
「ひいいいいいいいいいいい!?!?!?」
あたしは頭を掻きむしる。
今日の登校中だって何度も指を刺されたのです。
こんなに注目されては日課の推し活がままならない……いや、もう普段の生活にも弊害が出ます!
「コトネ、いっそのこと『戦乙女』に入ったらどう? 配信でもユイたんに誘われてたじゃん?」
「そんなのダメですよ、あたしが入ることによって『戦乙女』の価値が下がるじゃありませんか」
あの後、ユイたんさんと連絡先を交換しました。
――『戦乙女』に入りたくなったらいつでも連絡してね!
別れ際、笑顔でそう言ってくれましたが。
その期待には応えられそうにありません。
これはユイたんさん……貴女が大事だからこそ。
「あたしのような不純物は、『戦乙女』に必要ないのです」
「相変わらずねぇ、Dライバーだって結局のところ人間じゃないのよ」
「神々の使いです! 幸せを振り撒くために、地上に降り立って活動しているのです!」
Dライバーちゃんは、もはや人を超えた超絶尊み生存体。
それは一切変わらない事実。
「それにですよ、ユイたんさんとの配信から数日経ちますが、他の配信事務所からスカウトの類いは一切来ていないのですよ」
「え、そうなの?」
「やはりどの事務所もプロなんですねぇ、あたしをただの一般ピーポーだと見抜いてるからなんですよ!」
なっはっはっ!
それで良いのです。
世論に流されない強靭な意志、今後のDライバー界は安泰です。
「時間は掛かるでしょうが、このまま緩やかに鎮まるのを待つとしましょう」
「うーん、嵐の前の静けさって感じがするけども……」
キンコンカンコーン!
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると、頭の寂しい初老の先生がやってくる。
「はーい、今日の数学は抜き打ちテストやりますよ〜」
「「「――ええ〜〜!?」」」
「え〜じゃない、人は抜き打ちテストという理不尽を重ねて大人になるんです、今のうちに積み重ねなさい、そして未来で先生に感謝しなさい」
ブーブー!
クラスはブーイングの嵐。
「ぬ、抜き打ちテスト……マズいですぅ……!」
勉強全般得意じゃありませんが、中でも数学は特にニガテなのです。
前のマキナちゃんは余裕そうに内職(魔道具弄り)しています。
この前の定期テストでも学年3位になるくらい成績優秀だからなぁ、羨ましい……!
「いいですかぁ、先生ほど生徒のことを考えている教員は他にいません。君たち生徒のためなら鬼にもなるし、何かあれば全力で守ります。それが教育者としてのあるべきすg――」
ドカアアアアアアアン!!
「――がたあああああああ!?!?」
教室の扉が吹き飛ばされ、教卓の先生に直撃しました。
ぬっと教室に入り込む人影。
黒い特攻服に木刀、サングラスにマスクを着けた女子でした。
それは1人ではありません、2人、3人と増えていって……その数20人以上!
「な、何だ!?」
「カチコミ!? この現代に!?」
クラス中がどよめく。
こ、この人たちは……まさか!
そう思った矢先、1人がアタシを見るや否や、乱雑に頬を掴みました。
「ふえ、ふええ!?」
されるがままのあたし。
一頻り確認すると、教室の外に呼びかけました。
「アネゴ、ホシを見つけました!」
「――おう」
すると、その声の主が正体を現す。
眩しい金髪ロング、キリッとした鋭い目、サラシを巻いたワイルドなお姿。
スラッとした高身長を際立たせる漆黒の特攻服、そして…… 背中に背負うは『悪鬼羅刹』の四文字!
「あ、貴女は……!!」
鬼龍院ナギサ、通称『ナギ姐様』
チャンネル登録者数400万人、元は女番長グループという異色の経歴を持つ事務所『悪鬼羅刹』所属のDライバー。
そのダイナミックなバトルスタイルから、女性人気ナンバーワン!
正に、Dライバー界の王子様なのです!
「そんなナギ姐様が、何故こんなところに……!」
「田中コトネだな、今からツラ貸せや」
「ふええ、あたしですか!?」
「時間は有限だ、さっさとしろ」
「えっとその、今は授業中でして……終わってからでも」
「オレにしていい返事は2つ」
あたしはクイっと顎を持ち上げられる。
「――『はい』か『分かりました、ナギ姐様』だけだ」
ズキュゥゥゥン!
はわああああ、顔の造形が良すぎる!
お母様はミケランジェロですか!
「ひゃ、ひゃいいいいい……!」
「よし」
ひょい。
ナギ姐様はあたしを肩に担ぐ。
「ふえ?」
「いくぞ」
「「「へい!」」」
ゾロゾロと引き上げる『悪鬼羅刹』メンバー。
しまったあああああ!!
見惚れてしまってつい返事を!
「お、お待ちなさい! 可愛い生徒が連れて行かれるのを、黙って見てるわけにはいきません!!」
扉の下敷きになっていた先生が抜け出すと、ナギ姐様の前に立ち塞がる。
「どけよ、先公に用はねぇ」
「そういう訳にはいきません、教師生活40年、教え子の危機を見て見ぬ振りするほど耄碌していな――!」
「いいから」
強烈な殺気が、ナギ姐様から放たれる。
「――さっさとどけ」
見下ろしながらの一言。
言われるなり、先生はガタガタと震えながら横にズレる。
「ど、どどどど、どうぞご自由にお持ち帰り下さいいいいい!!」
ええ、そんなぁ……!
「あうう……マキナちゃん!」
「いてら〜」
「マキナちゃん!?」
マキナちゃんが笑顔で手を振る。
う、裏切られた……マブダチにも。
「ま、諦めろ、悪いようにはしねぇ」
「ひいいいいいいいい……!!」
ナギ姐様に担がれたまま、あたしは教室から遠ざかっていくのだった……。
「ま、コトネなら大丈夫っしょ〜」




