第1話 ヲタク少女、田中コトネ
「ふおお、やっぱりたまりませんなぁ……!」
あたしの名前は田中コトネ、どこにでもいる平凡な女子高生。
そんな普通が服を着てるようなあたしにも、夢中になってることがあります。
そう……それは。
「――Dライバーちゃん最高!」
ダンジョン配信。
あたしはモニターに映るモンスターと戦闘を繰り広げる美少女を見て、恍惚に叫ぶのだった。
世界中に、まるでゲームから飛び出したようなモンスターが蔓延る大迷宮、ダンジョンが現れて早10年。
最初はどこの国もパニックになったようですが……それは昔の話。
ダンジョンから得られる摩訶不思議なアイテムや資源は、今やこの地球上でなくてはならない存在になりました。
ダンジョンを探索し、戦利品を持ち帰る『探索者』の職業としての確立。
やがて、そのダンジョンアタック、モンスターとの戦いも『ダンジョン配信』という形でお茶の間に届けられるようになり、あっという間に一大エンターテイメントとして台頭したのです!
危険を顧みずダンジョンに潜り、スリルとロマンを届けてくれる勇敢な配信者たち。
中でも多くの視聴者を集め、プロとも呼べるレベルに達した人々を、あたしたちは敬意を込め『ダンジョンライバー』……縮めて『Dライバー』と呼びます!
そんなダンジョン配信者ヲタクの私は、今日も今日とて……とあるDライバーちゃんの配信を観ているわけで。
「――こんユイ〜! 『戦乙女の1番星』、私、如月ユイは本日、桜の森ダンジョンに来てま〜す!」
「――ふおおおおおおユイたん、今日も可愛いよおおおおおおおおお!!」
自室にて、あたしはピンクのサイリウムを振りながら咽び泣く。
如月ユイ、通称『ユイたん』。
ユニーク職の『剣聖』を持つ現役女子高生の彼女は、チャンネル登録者数500万人、大手ダンジョン配信事務所『戦乙女』所属のDライバー。
黒髪ロングにピンクのインナーカラーの清楚なお姿、天使のようなウィスパーボイス、そして少し天然なところが激推しポイント……!
歌唱力とダンスも去ることながら、探索者としての実力も折り紙付き、デビューから現在にかけて最前線で活躍する、超銀河級Dライバーちゃんなのです!
「行きます、『ディバイン・スラッシュ』!!」
ユイたんは迫り来るモンスターを一刀両断する。
続け様、2匹、3匹と同じように倒していく。
「まさかの3連撃!? サービス精神が過ぎますぞぉ!!」
ユイたんは剣を鞘にしまい、画面越しに呼びかける。
「どーですか皆さん、私の活躍観てくれてましたかぁ〜!」
「――観てましたぁ、この目で観てましたともおおおおおおおおお!!!!!!」
あたしが叫ぶと、チャットも爆速で流れていく。
今、この日本で同じように同志たちが沸き立っていることでしょう。
「おっといけない、お布施をしなければ」
手慣れた操作でユイたんに赤スパ(30000円)を贈るあたし。
推しのためならこの程度、全然惜しくはないのです。
「あっ、コトねる大邪神さんスパチャありがとうー! いつも観てくれて私嬉しいな!」
「!?!?!?」
コトねる大邪神。
それはあたし、田中コトネのハンドルネーム。
「えーっと、『ユイたん、いつも楽しい配信ありがとうございます!(長文警戒ですぞ!)ユイたんに出会えてから、あたしの人生は色を取り戻し、配信前は思わずダイナミックハンドスプリングの毎日でございましゅ! この先ずっと、あたしの、いや同志たちみんなの1番星として輝いてくださいまし!(そしてあたしは側を漂う星屑、目立たずともユイたんの近くに居続ける確かな存在)』」
ふええ、読まれちゃったよぉ!
客観的に見ると、ものすごく気持ち悪いスパチャです……。
幻滅待ったなし、王手すらも飛び越えてます。
「ふふふ、ありがとう! もちろん私はこれからも輝き続けるよ! ただ気付いてないだけで、コトねる大邪神さんも輝いてるんだよ、だって……」
ユイたんはドローンに目線を向けると、
「――私にとって、応援してくれるみんなが1番星なんだから♪」
ぱちん、とウインク。
ズキュゥゥゥン!!
そのウインクから放たれた矢は、まっすぐにあたしのハートを射止める。
「――ンンン゛ッ ンンンンンン゛!!」
あたしは胸を抑え、唇を噛み締める。
死人が出ます。
全国各地で謎の遺体が見つかりましゅ。
皆、幸せそうな顔を浮かべていることでしょう。
その内の1人があたしです。
「さぁどんどん進んじゃいますよぉ〜、リスナーさんも着いてきてね!」
「はいいいい! 一生着いていきます!!!」
あたしは敬礼をする。
もちろん返事なんて来るはずない。
だけど、ユイたんはきっと見てくれてる。
そんな気がするのです。
ユイたんの同接は毎回10万人越え。
流行の移り変わりが激しいDライバー界隈、その中でもコンスタントに視聴者を集められるのは、高い人気の裏付けと言えます……!
そうして、ユイたんのダンジョン配信はあっという間に終わりを迎えました。
「みんな今日もありがとう! また配信で会おうね、それではまた、おつユイ〜!!」
「――おつユイでございます〜!!」
EDが流れ、待機サムネに切り替わる。
「はふぅ〜今日も素晴らしい配信でした……」
配信時間は2時間なのに、体感時間はわずか10分。
瞬く間に過ぎた時間は、濃縮された満足感として心臓に届きました。
「尊い、尊いよぉユイたん」
あたしはヨダレを拭う。
ユイたんは何をやっても華があると言いますか、選ばれし者特有のオーラがあるのです。
あたしのような一般ピーポーとは住む世界が違います。
本当に同じ女子高生とは思えません。
正に天使、いや神と言っても過言ではありませんな。
ユイたんをこの世に産み育てたご両親に感謝しなければなりません。
あたしはユイたんグッズで彩られた棚(祭壇)に手を合わせる。
「本日も配信ありがとうございました。この先のユイたんの繁栄、発展、名声をお祈り申し上げ奉ります」
あたしにとって、Dライバーちゃんの存在は生きる意味その物。
これは、ユイたんだけではありません。
あくまで最推しがユイたんであって、ダンチューバーちゃんは皆、等しく推しなのです。
Dライバーちゃんがいない生活など、考えられません!
「さて、明日の推し活に備えて寝るとしましょう」
明日は休み。
学業の傍ら、休日は貴重な時間。
ならば、とことん推し活に使わなければ損という物!
「明日は気合い入れますぞぉ!」
あたしは電気を消し、ユイたんのASMR音声(至高の耳かき編)を流しながら眠りにつくのだった。
この時、あたしは知りませんでした。
明日、あたしの人生を大きく変える出来事が起こるなんて……!?
※本日18時頃、2話目投稿予定です!




