第07話 あの地図見れば安全だって
久しぶりに、ギルドの扉をくぐった。
報告だ。コモルのこと。さすがに、しないと。何日も、引き延ばしすぎた。
……なんだけど。
なんか、いつもと様子が違う。
ロビーが、やけにざわついてる。冒険者たちが、あちこちで地図を広げて、なにか話し込んでる。耳に、切れ切れに入ってくる。
「——だから、コモルの三層は、左の下りが安全なんだって」
「あの配信の地図、もう見た? 罠の位置まで、全部載ってて」
「ロックゴーレム出るらしいぞ。寝てるって話だけど」
……ん?
なんか、聞き覚えのある単語が、混じってる気がする。
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とりあえず、受付へ向かう。
ミナさんが俺を見て、困ったような、笑ったような顔をした。
「トールさん。……やっと、来てくれましたね」
「あ、はい。すみません。あの、新しいダンジョンを、発見しまして。コモル坑道の報告を——」
「知ってます。みんな、知ってますよ」
「……え」
ミナさんが、カウンターの下から、紙の束を出す。冒険者の申請書だ。コモル坑道、探索許可申請。何枚も、ある。
「トールさんの配信を見て、もう何組も来てるんです。『あの未発見の坑道、自分も潜りたい』って。……ギルドとしては、発見者からの正式な報告が先に欲しかったんですけどね」
「……すみません」
「埋めるのに、夢中で?」
「……はい」
ミナさんは、小さくため息をついた。それから、ちょっと笑った。
「まあ、トールさんですもんね。……はい、報告書。書いてください。本来なら、これ、すごい功績なんですよ。記録にしかなかった、忘れ去られていた坑道の再発見なんですから」
功績、と言われてもぴんとこない。
俺は、ただ、隠し通路や隠しエリアの空白のマスを埋めたかっただけだ。
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報告書を書いてる間も、ロビーのざわつきは続いてた。
「そろぼっちの地図さえあれば、コモルも怖くないよな」
「ほんと、あの人、何者なんだろうな。顔も出さないし」
すぐ後ろで、そんな声がする。
……あの。それ、俺なんですけど。
とは、言えない。言ったところで、たぶん、信じてもらえない。こんな、ぼそぼそ喋る地味な男が、あの「そろぼっち」だなんて。
顔を出してなくて、よかった。心からそう思う。画面の中の俺と、ここにいる俺は、別人でいい。そのほうが、ずっと楽だ。
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書き終えた報告書を出すと、ミナさんが、それを大事そうに受け取った。
「あの、トールさん。一応、お伝えしておくと。……トールさんのコモルの地図、今かなりの高値がついてます。攻略パーティもですが、ギルドとしても正規に登録したくて」
「そう、なんですね」
「上の人が、一度ちゃんとお話したいって。専属の依頼とか、待遇のこととか……」
「あー……」
正直、こういうことを考えるのは苦手だ。今より稼げるのは、まぁ分かる。ギルドが正式に登録っていうのは、なんとなくわかる。専属……ということは配信できなくなるとか?
「……それ断ったら、配信したりとか。地図、埋めちゃダメになります?」
ミナさんが、きょとんとして、それから噴き出した。
「なりません。全然、なりませんよ。むしろギルド側で把握できてる方が、安全に繋がります。だからどんどん埋めて欲しいです」
「あ、なら、やります。俺、また潜るんで。コモル、まだ奥が残ってるんで」
ミナさんは、なんだか、まぶしそうな目で俺を見た。
「……はい。いってらっしゃい」
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その夜。いつも通り、配信をつけた。
「はいどーも、そろぼっちでーす」
……あれ。
視聴者の数字が、桁、ひとつ増えてた。コメントの流れも、いつもよりずっと速い。
〔だんちょー〕きたーー!
〔ねむ〕今日めっちゃ人多いね
〔名無し〕コモルの人だ!! 初めて来ました
〔通りすがり〕ギルドで噂になってたから来た
〔名無しがWatching〕例の地図の人ってここ?
〔名無し〕初見です声いいっすね
知らない名前が、どんどん増えていく。なんか、こそばゆい。
「えーと……なんか、増えましたね。はじめましての方。……あ、いつもの方も、どうも」
別に、有名になりたかったわけじゃない。バズりたかったわけでも、ない。俺は、ただ地図を埋めたい。それだけ、なんだけど。
でも。
画面の向こうに、人が増えてる。顔も名前も知らない人たちが、俺の淡々とした作業を、見に来てくれてる。
……まあ。悪くは、ない。むしろ、ちょっとだけ嬉しい。地図が埋まったときと、似たような感じだ。空白が、埋まっていくみたいな。
「じゃ、今日も。コモル坑道の埋め残しから、いきまーす」
俺は、いつもの朗らかそうな声で配信をスタートさせた。




