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「ごめんね、本当はロキの歓迎会をしたいんだけど、ちょっと立て込んでて」
簡単な挨拶を終えるとリリアはロキの手を引いて田舎町のストリートをスタコロと歩いていく。
「あそこに宿をとっていてね、一人を除いてみんなあそこで待ってる」
出会ってから笑みを崩すことのないリリアは雪のように白い肌とは対照的な赤髪を伸ばしていて、少し丸みを帯びたつり目の瞳は空のように澄んだ碧だった。
「ここでバカンスしてたわけじゃないの、ただ今回のヤマがやっかいでね、魔族絡みなのよ、ほんとまいっちゃう」
ロキは一方的に話しかけてくるリリアを鬱陶しく思いながらも首だけは動かし相づちをとっていた。
「ンフフ、でも大丈夫。ロキが手伝ってくれればすぐ終わるから」
「……何でもいい、誰を殺すか教えてくれれば」
「いい心がけだ」
階段を登った先に連なっていた部屋のひとつを指さしてドアノブをひねる。
「みんなお待たせ! 一応かちこむ準備もできてる?」
勢いよく扉を開けた先でロキの視界に飛び込んできたのは三人が目を丸くした姿だった。
「……あれ? スケさんは?」
「スケイルならご令嬢が勢い任せに開け放った扉の後ろにいますよ」
リリアの問いに答えたのは眼鏡をかけた暗いピンク肌の大柄の男で、一目見てオーク族だと理解ができる。
「えっ……ウソ、あらぁスケさんごめんなさい」
「お嬢、気を付けてくださいよ。ハンサムな顔が台無しになっちまう」
立ちながらも鼻を抑えて涙を堪えている耳の尖がった金髪のエルフ族の男が扉の後ろから姿を現した。
「さっきまでの顔より充分マシになったと思いますよスケイル」
「黙っとけカクズ、ケバブにすっぞ」
カクズがあざ笑うとすぐさまスケイルが凄んだ。
「はいはい、喧嘩はあとで、カクさんもスケさんを挑発しないで」
そんな二人のやりとりを慣れた手つきで納めるとリリアはロキの背中をポンと叩きみんなの前に立たせた。
「ロキ・タイラー。私たちの新しい仲間だ」
「えっ、リリアーヌ新しいメンバーってこのヒト族の子どもなのですか?」
「そうだよアーシャ」
アーシャと言われた彼女はリリアと同じ白い肌に艶やかな黒髪と誰が見ても二度見してしまうほどの大きな胸を携えていた。
「ンフフ、もしかして不服?」
「いえ、リリアーヌが決めたことに私はなんの不満もないですが、その……戦力になるんですかその子ども?」
「問題ないよ、ロキは強い。その証拠にあなたのチャーム効いてないでしょ」
「むぅ、そ、それは」
ロキはアーシャを感情のない瞳でただ眺めていた。リリアが扉を開けて彼女と目が合った時から、アーシャがサキュバスだと気が付いた。
「きっと子どもだから私の魅力に気が付かなっただけです」
「違うよ」
負け惜しみのようにつぶやきひきさがらないアーシャにロキはため息を吐きその流れのまま言葉を続ける。
「僕には魔法が通じないんだ。どんなに強力な魔法でもね」
「なっ」「言うじゃねーか坊や」
アーシャにそう返した時、彼女が何かを言おうと口を開く前にスケイルがロキの頭を撫でた。
「スケイル」
「まぁまぁアーシャの姉御、坊やも悪意があって言ったんじゃねーよ」
「僕は坊やじゃない」
そう言って目配せしてきたスケイルをロキは冷ややかな目つきで拒否する。
「ますます気に入ったぜ、坊やなんて言って悪かったなロキ坊」
するとスケイルは満面の笑みで嫌がるロキの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「まったくスケイルは、ちょっとドラコさっきからニヤニヤしてないであなたも何か言ったらどうです? 年長者でしょ?」
しびれを切らしたアーシャはグラスを片手に、奥のソファーに座りながら見守っていた翡翠の目をした老年に話をふった。
「ん、あぁ……まぁ何にしても賑やかなことはいいことじゃねーか。だろリリア」
「ンフフ」
「もう!」
「はいはい、アーシャ分かってるからそのくらいにして」
陽気に高笑いするドラコに不服そうなアーシャをなだめる。
「カクさん、状況は?」
「残念ながら何も変わってませんよ、ドッペルからの報告でもあちらさんはこちらの要求を一つたりとも受け入れる気はないとのことで」
「そうか、残念だな」
「なぁお嬢あいつらボコっていいんだろ」
「いやスケさん、彼らに最後のチャンスを与えようと思うの」
「しかしご令嬢、話し合いでなんとかなる輩ではないと思いますが」
「分かってる、でも同じ魔族として彼らを信じたいから」
スケイルとカクズはお互いに顔を合わせ、諦めたように頬を緩める。
「私はリリアーヌが決めたことなら賛成です」
「ありがとう、そうと決まればさっそく行動を開始しましょう。スケさん、カクさんはドッペルと連携をとって敵の制圧」
「了解」「承知」
「ドラコはここに残って村人たちの守護」
「あいよ」
「アーシャもドラコと一緒にここに残って魔王城との連絡を取り合って、その後の処理を円滑に進めて」
「リリアーヌと同席出来ないのは残念ですが分かりました」
「ロキは私と一緒ね」
「うん」
リリアは「ンフフ」と笑いながら踵を返した。
「さぁ行こう。世直しの時間だ」




