究極の天才
40階の扉が開くと、朝のオフィスフロアが広がっていた。ガラス張りの壁から差し込む陽光が、モニターの光と混じり、未来の職場を演出する。デスクにはコーヒーの香りが漂い、キーボードの打鍵音が控えめに響く。
オフィスには、すでに一人の男が到着していた。星野──サイバーレジェンドの天才プログラマー。白衣を羽織ったようなラフなシャツ姿で、モニターに向かい、何やらコードを叩いている。まだ20代後半の若造だが、GX2の生みの親として、社内では神格化されている。
「あっ、皆さん、おはようございます〜」
星野の明るい声が、フロアに響き渡る。いつもの爽やかな笑顔。まるで何も知らない、純粋なエンジニアのそれだ。
田中、矢島、工藤、宮田、大崎の五人は、エレベーターから解放されたばかり。揃って星野のデスクに近づく。
彼に敬意の言葉を送る五人。でも何故か、目は殺伐としている。溜め込んだ感情が、朝の空気を一気に熱くする。
「星野……てめぇ、余計なもん作りやがって……」
田中が低く唸る。
「毎日毎日、お前のせいでストレス止まんねぇよ……」
矢島がフリスクを噛み締めながら、睨む。
「もう、本当、あれセクハラマシーンだよ! 最低っ……! 絶対に訴えてやるっ……!」
工藤の声が尖る。
「人のプライバシー、ベラベラベラベラ喋りやがってよぉ……!?」
宮田が赤面しながら吐き捨てる。
「なんで空気清浄機は入れてねぇんだよ……いの一番に入れるもんじゃねぇのかよ……!?」
大崎が先輩らしいアドバイスを送る。
五人の視線が、星野に突き刺さる。天才を見る目は、まるで獲物を狙う狼の群れ。オフィスの空気が、ピンと張り詰める。
「……へっ?」
星野はキョトンとする。皆が何を言っているのか、さっぱりわからない。モニターのコードが、GX2の次なるアップデートを映しているが、そんなことは今はどうでもいい。
「うおおぉぉぉ! ぶっ殺してやる!」
五人が一斉に星野に飛びかかる。オフィスは戦場と化す。
これがサイバーレジェンドの一日の定番。多分、天才への愛情表現。きっと、和気藹々としたじゃれ合いだ。
実にアットホームな職場である。AIの技術がこんな美しい絆を生むとは、誰が想像しただろうか。
彼らは今日も、社会を良くするために働く。
GX2のアップデートを待ちつつ、階段の利用を誓いつつ、少しだけ──ほんの少しだけ──エレベーターを愛しつつ。




