34、嗤う魔王
こいつは何を言っている、コスズは心の中で悲鳴を上げた。
確かに自分には癒しの力がある。だが、選べとはどういう意味だ。
「だいぶ混乱しているな。では、順を追って、説明しよう」
「がはあっ!?」
魔王の黒い影が、グリフの体に突き刺さる。それは拘束の鎖のようで、止血帯のようにも見えた。
「途中でこいつが死んではつまらんからな。少し時間をくれてやろう。治療ではないが、止血くらいはな」
「ちぐ、しょう。ころし、やがれ!」
「お前に選択肢などないのだ。分かれよ、裏切者君」
その言葉が麻酔になったように、グリフが動きを止める。だが、何もかもがおかしい。
「そ、そも、なぜそいつが裏切り者なのじゃ!? いや、なぜあんな真似ができた! 背信の呪詛には、複雑な儀式と触媒が必要なはず!」
「なるほど。まず問いに答えようか。これは魔法ではない、技術だ」
魔王に近づこうとしたユーリが、視線で追い散らされる。その顔には脂汗が浮かび、明らかに肋骨かどこかを壊しているのは明白だ。
「後催眠という一種の精神操作技術でな。こいつに岩倉悠里を襲うよう、仕込んでいた」
「さ、催眠術!? そんな、あり得ない!」
「なぜだ」
「その、俺も、詳しくは知らない、けど。誰かに攻撃させるようなことはできない、はずだ」
かなり頼りないユーリの言葉に、魔王は薄く笑う。この雰囲気は不味い、詐欺師が獲物を煙に巻く時のそれだ。
「ユーリ! そやつの話を聞くな! 儂らをペテンにかける気」
「催眠術、あるいは催眠とは、人間の脳が持つ生理的反応を利用したものだ。もちろん、本来ならば人を殺したり、自殺したりするような命令は掛けられない。だが」
魔王の背後に何かが浮かび上がる。それは、どこか遠くの、今ではない場所の映像だ。
「その行動が、成功や自己実現などの快感に繋がる行動なら、ある程度、自発的な操作が可能だ」
映像は、魔王の話題とは関係ない内容に見えた。
それは街並み。どこかで見たことのある景色のようだった。夕暮れの中、かがり火が焚かれ、白粉や紅をどぎつく付けた女たちが客引きする、娼館の街並み。
「催眠には後催眠、というやり方があってな。『このような状況になったら、このように行動しろ』と命じておくことで、それを実行させることができる」
「お、おい……なんだよ、これ!」
魔王の下に敷かれたグリフが、絞殺される時の鶏のような叫びをあげる。
映像に写っているのは、グリフだった。
馴染の娼婦と語らい、一軒の店に入っていく。
思い出した、これはジェデイロの町。今はもう存在しない、滅びた町の色町だ。
「そして、催眠を受けた者に、それを忘れさせることもできる。実行の時までな。無論、魔法でも呪詛でもないから、感知することもほぼ不可能だ」
「うそだ……こんなの、でたらめだ!」
グリフは部屋に招き入れられ、隠れていた魔王の手下に眠らされ、奇妙な儀式に掛けられていた。
『グリフよ。お前は今、どこにいる』
寝ぼけたような、陶然とした男は、それにだらしなく答えていた。
『まおうの、しろだぁ』
『その通りだ。お前の他に、誰がいる?』
『ゆーりと、こすず、あとは、わからない』
『そうだ。そうなったら、お前はこんな光景を見る』
言葉を掛けたものは、巧みにグリフを誘導し、一つの結末に導いていく。それは、ユーリとグリフ、その他一人と魔王に立ち向かう場面。
『お前は魔王の声を聴く。『そこだ。死ね、勇者悠里!』と、その時、勇者の背中に、魔王がいる』
『ああ。せなかに、まおうが、いる』
『それに思いきり、斬りつけろ。そうすれば、お前は魔王を倒し、勇者を救い、この上ない幸福に包まれるだろう』
床に転がされたグリフは、震えていた。
歯をガチガチ言わせて、涙を流して、切れ切れに嗚咽を漏らしていた。
知らずのうちに仕掛けられていた、幸せな毒の存在を知って。
「念のために種明かしをしておくと、ジェデイロの市長にも同じ仕掛けをしておいた。奴の寝所や、身辺警護の連中が仕掛け人だ」
「自殺なんて仕向けられないっていったのは、お前だろ!?」
「暗示の内容はこうだ『魔王万歳、勇者に死を、と叫び、首元にナイフを当てろ。そうすれば、貴様の娘は戻ってくる』あとは頃を見計らって、転倒の魔法を掛けるだけだ」
ジェデイロ市長の妻と娘は、魔王軍に殺されていた。そのことで苦しみ、政務もまともにできないありさまだったことが、あの都市を瓦解させつつあった。
自分の行った悪行を、さらに深めて地獄を生み出す下地に使う。魔王の悪辣さは、胸が悪くなるほどだった。
「隙だらけ、トラウマだらけの人間には、こうした暗示がよく効く。お前もその一人だったんだよ、グリフ」
「お、お、おれが……っ、なん、だってんだ」
「よく考えろ。よく考えてくれよ。お前のような、何のとりえもない、がさつなクズが、なぜ、ある日突然、モテるようになった? ケチで金払いのよくない貴様が?」
魔王は、心から嗤っていた。
今や見る影も無くなった、大男のしぼんで萎れた顔に、毒を浴びせかけていた。
「そもそも、なぜお前は、故郷を出てきた?」
震えていたグリフの体が、硬直する。目を閉じ、痛みも忘れたように、声を押し殺す。
まるで、優しく諭すように、青年は忌まわしい笑顔で、告げた。
「忘れたとは言わせんぞ、なあ『妻船蹴られのグリフ』よ」
「うあ、あああああああああああああああああ!」
それは羞恥と怒気と、悲鳴が煮崩れてまじりあった絶叫だった。
全身についた傷よりも、さらに深い、悲惨な傷をえぐられた顔だった。
「知っているか? このグリフには、将来を誓い合った女がいた。なけなしの金を積み上げ、婚礼のための船を仕立て上げてな。だが、女は裏切った」
画面が娼館から小さな村の光景に移る。そこには、子供と連れ立って歩く、男と女の漁師の夫婦がいる。
グリフの目の奥に、隠しきれない憎悪と、何かの感情が光った。
「隣村の船主の息子に見初められ、契りを捨てた。船着き場に並んだグリフの妻船を蹴りつけ、金持ちの船に乗り込み、すべてを置き去りにしてな」
グリフの顔は、ぞっとするような無表情だった。
己の過去の恥を暴かれ、声も出せずに震えていた。
「グリフは、村を逃げるように去り、傭兵になった。そして、嘯くようになったのだ『女などくだらぬ』とな」
満足した、とでも言うように、魔王は顔を上げた。
「たかが女に振られたぐらいのことで、このざまだ。正真正銘のクズだ、こいつは」
「や……やめよ! 貴様が、そのように言っていい話ではない!」
「ん? どうしたコスズ。貴様がこいつをかばうなど」
急に向いた矛先に、思わず後ろに下がる。
それでも魔王はこちらを見つめ、嗤う。
「コスズ、いいや『モルフェイル・コスズ・イフィリア』」
「や……やめよ!」
「コスズ!」
ユーリの叫びに耳を塞ぐ。嫌だ、知られたくない。こんなこと、お前には。
「コスズとは森人の数詞で『五』、モルフェイルとは『壮健・豊穣』、そして『イフィリア』とは」
「やめろぉおおおおおおっ!」
こちらの絶叫を嗤い、魔王は告げた。
「『胎盤・母体』そして『孕むもの』を意味する。『健やかなる五代目の孕み女』。それが、こいつの背負った宿業だ」
考えたくない、何も考えたくない。
忘れるために、遠ざかるために、こんな場所まで来たのに。逃げられたと思った、ユーリの側にいれば、そうでない自分を選べると思ったのに。
「森人は先天的に、重篤な妊娠中毒症を患いやすい。長生の種族が、人間どものように増えては困るからだろう。だが、それでは子孫が残せない。そこで、孕み女が選ばれる」
抵抗する気が萎えていく。こいつはどこまで、自分たちの過去を、知られたくないことを知っているのだ。
「イフィリアの女が氏族長に選ばれるのは、未来に血を残すことを望んだ連中が、祭り上げた結果だ。つまり、この女は民に選ばれた『全ての者の母』、というわけだ」
「いい加減にしろ!」
ユーリが刀を上げ、魔王に突きつける。魔王は平然と、グリフに刃を向けた。
「言うのが遅いぞ。行動も遅い。ああ、そうか、貴様も連中の過去に興味津々だったか」
「違う!」
「このクズを救う隙を伺っていた? どちらにせよ、同じことだ」
言い切ると、魔王はグリフを覆っていた闇を引きはがす。その途端、止まっていた出血があふれ出した。
「さて、もう一度言うぞ、コスズよ。こいつと勇者、どちらを助ける?」
「だ……だから、なにを!」
「その瞬間だけ、俺はお前らを攻撃しない。選んだものを治療し終えるまで」
再び死に瀕したグリフが、うめき声をあげた。だが、それはひどく弱弱しく、目の光も急激に失われていた。
「コスズ、ユーリを、たすけろ」
「え……」
「おれは、もう、しにたい」
両目から涙があふれ、絞り出すように、グリフは嗚咽した。
「いぎで、いだぐ、ない。じにだい。じなぜで、だのむ」
「う……あ」
「ダメだコスズ! 俺はいい! グリフを助けてくれ!」
「おやおや」
魔王の黒い影が、グリフから遠ざかる。だが、その首には黒い影が絡みつき、いつでも絞め殺せる状況が作られていた。
同時に、ユーリの前を黒い影の壁が遮り、こちらに来れないようにされてしまう。
自分は何の縛りもない。
つまり、選択権を持たされてしまった。
「簡単だ。お前が助けたい者の所へ行けばいい。だが、時間は少ないぞ」
なんなんだ、これは。
どうしてこんな天秤が成立すると思う。
だって、どう考えても、選ぶ方など決まっているのに。
「鼻つまみ者で、ろくでなしで、うっとうしい、お前が最も嫌う『男』の象徴」
今にも消え入りそうな呼吸で、うわごとのように『殺してくれ』とつぶやくグリフ。
「誉と栄光、皆を導く存在。お前の敬愛する、至高の勇者」
言葉は分からないが、叫んでいる意味は分かるユーリ。
「さあ、選べ。聖なる森人の孕み女よ!」
こいつは本当に最低だ。
魔王とは、どういう者なのかが心底、理解できた。
人の心を弄び、揺さぶり、身の内に沈んでいた、暗く汚らしい感情を、掴みだして見せる者だ。
グリフのことが嫌いだった。嫌だった、顔も見たくなかった。
思い出しても、こいつに好感など抱いたことはない。あるのはせいぜい、多少役に立った場合の安堵ぐらいだ。
でも、こいつのユーリに対する気持ちは、嘘じゃない。
それを、あんな風に踏みにじらせた。
もちろん、こいつが娼館通いなどしなければ、なかったはずのことだ。
だが、
「遠慮はいらん。貴様が言ってきたことだろう? 必要があれば捨て石にするとな」
裏切られる気持ちは、恋心を、恋情を踏みにじられる辛さは、自分だってわかる。
孕み女の自分が、なんど同じ目に合ってきたか。
愛を囁きながら、結局は『イフィリア』だけを求められる。
一個の存在ではなく、利用可能な物として、粗略にされる辛さは、知っている。
「誰も貴様を責めようなどとは思わんよ。人間としての価値が違いすぎるからな」
なにより、ここでユーリを選べば『自分の嫌悪感を肯定して、嫌いなものを自分の都合で切り捨てる』という醜態をさらすことになる。
誰が許しても、自分がユーリを真っ直ぐ見つめられなくなってしまう。
「残念じゃったな、魔王」
笑いながら、コスズは癒しの手を、グリフに差し伸べた。
「こんなろくでなしでも、ユーリの仲間じゃ。仲間は、死なせんよ」
だが、コスズの中にあった勝利の高揚は、一瞬で吹き散れた。
魔王は、満面の笑みで、嗤っていた。
「ありがとう、愚かな女よ」
次の瞬間、コスズとグリフの下から床の感触が消える。
まっしぐらに墜落していく感覚。落ちていく男を抱き締め、コスズは絶叫した。
「必ず勝て! ユーリぃいいいいっ!」
暗い穴が閉じる。
今まで二つの姿があった場所には、何もない。
そして魔王は、嗤っていた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ! アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
怒りで血が昇り、悠里の背中が猛烈に痛む。
それでも刀を構え、歯を食いしばった。
「見たか悠里、あの顔を、ええ? 連中の、ぶざまで、最高に笑える顔を!」
「黙れよ!」
魔王は本当に、心地よさそうに嗤っていた。
快感と快哉と満足を、満面にたたえて。
「ああ、最高だ。お前らは最高の道化だ。良かった、本当に良かった。笑えるよ、ようやく、心からだ。本当に、長かった」
「お前は、最低だ!」
「この期に及んで、その程度の評価か? ああ、日本語というのは、罵倒の語彙が極度に貧相な言語だったな」
魔王は構えを解いていた。剣をかき消し、壁を消去して、手近なベンチに座った。
それから、傍らを指し示す。
「立ち話もなんだ。座れよ」
「ふざけるな! お前を殺す!」
「ああ。好きにしろ」
本当に無防備に、両手を広げる。まるで、今すぐ貫いてくれ、とでも言うように。
でも、その動きさえ、罠かもしれない。
「いつでも好きに殺していい。そうでなくとも、俺はもうすぐ死ぬしな」
「またブラフか!」
「いや、事実だ。医療スタッフの見立てでは、今回の防衛戦で無茶をすれば、一月も持たないとお墨付きをもらっている。そら、カルテも見るか?」
放り投げられた紙が、足元にたどり着く。
そこには、真っ黒になった肺のレントゲンや、内臓のあちこちのダメージが、事細かに書かれていた。
「さっき飲んだコーヒーも、酷く胃に来ていてな。やはりシェートに倣って、ハチミツ入りの紅茶にでもしておけばよかった」
「そうやって俺をなぶって、まだ何かするつもりか」
「だから、事実を述べているだけだ。実は、今もうっかり死にそうでな。気を抜くと」
ふらり、と魔王の体が座席から崩れ落ちる。
重い砂袋のような音を立てて、動かなくなった肉体が、投げ出されていた。
「……は?」
ゆっくりと、慎重に近づく。それは、間違いなく魔王の姿だ。鼻に刃を近づけて、曇りを見る。一切なにも付かない。
「とまあ、そうなってしまいそうなんだ」
「!?」
少し離れたベンチに、魔王が座っている。
もう一度足元を見ると、それはゴブリンの死体で、こちらを見る男は、嘲笑うように口を歪めていた。
「なんだ、笑えよ。面白いだろ?」
「……っ!」
一気に間合いを詰めて、剣を振り降ろす。その身体は真っ二つに断ち割れ、黒い影になって床に染み込んだ。
「言っておくが、俺はもう、お前とは戦わない」
「な、なに!?」
「残り少ない命だ。好きなことに使いたい。仕事は終わった、後はオフの時間だ」
そういえば、さっきまでの魔王とは口調が違っている。
尊大な命令口調から、砕けた友人同士の会話のような雰囲気で。ひどく馴れ馴れしく、小馬鹿にするような。
「死体が欲しければくれてやる。だが、それだけだ。お前の剣で死ぬなんて、真っ平ごめんだね」
「なんなんだ、お前は! それが、世界を滅ぼす魔王の言う事か!」
「はあ? それこそ、何を言っているんだお前は、だ」
愛想が尽きたとでも言うように、魔王は歩き去っていってしまう。
走って追いかけると、その身体は影に消え、ガラス張りの図書館らしき部屋に移動していた。
そこにあったのは、日本で出版されていたラノベの数々。
見たことのあるタイトルも、知らないタイトルもある。だが、そこに共通するテーマは一貫していた。
異世界転生、あるいは異世界転移の、物語たち。
「創作における魔王なんて、勇者をもてなすホスト役だぞ。"神々の遊戯"でも同じこと。世界を滅ぼす? そうしてくれと、神々に頼まれたからやっただけだ」
「な……っ!」
「頼まれたからやっただけ、は言いすぎか。一応、片手間程度には真面目だったな」
今度は振り上げの一刀。
それも、空を切るような気の抜けた手ごたえしか伝えてこない。崩れた影が元通りになり、少し離れた場所で本を読み始めた。
「そもそも、今時の魔王サマは世界なんて滅ぼさない。迷える現代人を教え導き、ブラック企業を立て直し、あるいは勇者と同居して、幸せに暮らすものさ」
「それは、ただのフィクションだ! お前は、少なくともこの世界の魔王は、みんなを殺して苦しめた!」
「ああ、その通りだ。本当にくだらない。トレンドに合わないネタなどさせられて、本の売り上げもひどく落ち込むだろう。いや、出版すら、していないかもな?」
声を上げて笑う姿は、何もかもを嘲っていた。
居並ぶすべての物語を、唾棄していた。
「俺は、お前らが大嫌いだ。神々も、その神に踊らされ、勇者なんてクソみたいな存在に成り果てた、神を崇めず、魔を侮る、神去のクズどもが、大嫌いだ」
その瞬間、本棚が轟音を立てて崩れ落ちた。
ドミノ倒しのように、埃と塵と、紙を巻き上げて。引き裂けた本の、紙吹雪の中で魔王は、怒りを顕わにしていた。
「魔王とはなんだ? いずれ必ず倒されるお約束の悪か? それとも、神とその愛を信じきれず、ねじ曲がった救いを求める連中の、新たな偶像崇拝の本尊か?」
足元に転がった本を、踏みにじる。カラフルな表紙が、魔王の怒りに触れて、どす黒く醜く、変色していく。
「ただの舞台装置、ちょい悪の救い主、嗜虐心を満たす手ごろなエネミーか? ああ本当に、お前らはくだらない! この世の全てがお前たちに服すと、都合よく操れると、搾取可能な資源だと、嘯いてはばからない!」
怒りの波が、でたらめに周囲を食い荒らす。紙が吹き飛び、本棚の残骸が壊れ、所蔵していた本が破れていく。
身構えた悠里を、魔王は睨み、嗤った。
「だから、壊すことにしたんだ。お前たちの大好きな偶像を。そして、計画は完了した」
語りたいだけ語ると、魔王は去ってく。
振り返りもせず、ただこう言った。
「帰るなら好きにしろ。ただ、俺の邪魔はするな」
「その前に、教えろ」
悠里は追いすがり、その肩を掴もうと手を伸ばす。影が遠ざかり、図書館の隅にあった奇妙なドアの前に立った。
「何が知りたい」
「偶像を壊す計画、その意味だ」
「いいとも」
カードキーを通し、分厚く黒いドアが開く。
その先にあった物は、とんでもなく意外なものだった。
明らかな、どこかの日本家屋を模した、廊下の内装。
「こ、これは」
「まあ、入れよ、悠里」
合板張りのドアを開け、魔王は悠里を誘った。
「俺の部屋へ、ようこぞ。勇者を上げるのは、これで二度目だ」