表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~最終章~
232/256

32、似た者同士の円舞

 ひどい顔だ。

 金属の通路を走りながら、コスズは隣を走る男を睨んだ。

 さっきから一言も発していない。あの『ろけっと』の中でさえ、うなったり鼻息を漏らしたりと、黙っていることが我慢ならない風情だったのに。


「な、なあ、コスズ」


 いつの間にか、男は足を止めていた。扉も曲がり角もない、殺風景な場所で。


「や、やっぱり戻ったほうが、いいんじゃねえか」

「…………」

「ほ、ほら、フランの奴、盾もぶっ壊れてよ。見ただろ、あの参謀って奴の蹴り! それにどっか、動きもおかしくて」

「言いたいことは、それだけか?」


 ああ、こいつの顔を見ていると、酷く腹が立つ。

 今まで我慢してきたが、限界だ。


「イフに謝るのが先じゃろうが、たわけ」

「な、なに、言ってんだよ」

「お前、自分の言うたこと、もう忘れたか! バケモノと罵ったのを!」

「うるせえよ!」


 本当に、嫌になる。

 調子のいい時は侠客のように振る舞いながら、都合が悪くなればかんしゃくを起こし、どなり散らす。

 なぜお前のような奴が、ヘラヘラとユーリの側で仲間面をしている。


「その癖、最後の振る舞いで、自分の過ちを気付いておきながら、フランバールを助けにいこうじゃと!? ふざけるのも大概にしろ!」

「良いだろ別に! 同じことじゃねえか!」

「なら言ってやる。儂は反対じゃ」


 付き合いきれない。

 馬鹿男を置き去りにして先へ進む。迷った挙句、奴は体をすぼめるようにして、のこのこと付いてきた。

 まったく、世の中の男は、どうしてこんなクズばかりなのだ。


「結局のところ、これは魔王の奸計、儂らを分断する策じゃ」

「……だから、なんだってんだよ」

「すでに、儂らにそれを跳ね返す力がない。シャーナは釘づけにされ、イフの過去をエサに、フランも後ろに残された。ここでどこかを救おうとしても、ユーリが死ぬだけじゃ」


 反論はなかった。普段なら、それでもとか、ごねるところだろうが、さすがに下に見ていたイフに、あんな振る舞いをされては、減らず口も叩けまい。


「であれば、儂らだけでもユーリにたどり着き、共に魔王を倒すほかあるまい」

「魔王が死ねば、連中も諦めて逃げる。早ければ、残された仲間も救える。そうだな?」


 返事はしてやらなかった。

 その程度の理屈に気づけないほど鈍い、こんな奴が最後の道連れとは。


「……そういや、俺とお前で、最初にユーリの仲間になったんだよな」


 なんだそれは、ここで昔話か。

 お前らしいおべんちゃら、昔馴染みだから、儂は信用できるとでも?


「なんだかんだあったが、お前はその、最初からユーリの役に立ってて、すげえと、思ってたよ」

「はあ、そうか」

「お前、だけじゃねえよ。フランが来て、イフが来て、シャーナが来て。俺は、どんどん惨めになった」


 やれやれ、今度は愚痴か。

 だからこそお前に、フランバールは軍隊での心構えや剣術の指南を、イフも術具や簡単な魔術の手引きをしようとしていたのに。

 それを面倒くさがり、ユーリの剣術をかじった程度で、強くなったつもりでいたのが、お前だ。

 儂が、儂らが、お前を気にしていないと思っていたのか?

 仲間仲間と言いながら、儂らのことなど『女』としてしか、見ていなかった癖に。


「俺なんかが、いていい場所じゃないって、思ってたんだ。お前らが、色々教えてくれようとしても、俺は、学もねえ、読み書きもできねえ、漁師の出だしよ」


 そうやって自分に言い訳をして、ぬるま湯の憐憫に浸っていたのだろ。

 それがどうした。

 儂がどれだけの苦労を重ねて、あのクソの山のような、因習だらけの森から抜け出したと思っている。


 学がないだと?

 儂が郷から持ち出した金貨が、何日で無くなったと思う。

 街についてその日、日暮れ前にはなくなったわ。

 人間世界の数詞を間違え、それを詐欺のネタにした連中が、全部さらっていった。儂の学など、その程度だ。


 読み書きなど、戦いの世界に何の意味があった?

 森の優雅な狩りではない、血豆を作り、泥をかぶって切り抜ける戦働きに、祖先を慰める詩など何の役にも立たぬ。


 漁師の出か、実に結構。

 お前は何も知らん。この名前の意味も、その境涯もだ。

 命ある限り森に繋がれて、尊き血とやらを永世に伝える役目だ。

 意思などない、自由などない、繁殖のためだけの家畜の生涯と比べれば、漁師の生活など、永遠の楽土に等しいわ。

 

「――スズ」

「ああ、くそ、忌々しい」

「コスズ!」

「なんじゃ! このバカグリフ!」


 本当に、なんてひどい顔をしとるんじゃ、こいつは。

 貴様の半泣き顔など、誰が見たいものか。


「おれは、どうしたらいい」

「生きて会えたら、イフに謝れ」

「……謝っても、駄目だったら?」

「許してもらえるなど、おこがましい。謝って、それから死ね」


 このぐらい言わないと、こいつには響かん。

 それにだ、これ以上、蒸し返したくもない。


「儂とて、お前と同じじゃ。顔を合わせたら、謝る」

「……そうなのか?」

「気持ちの問題じゃ。まあ、お前のようながさつで、無粋で、女心も分からん無粋ものには永遠に理解できんじゃろうがな」


 男は、何も言わなかった。

 こいつなりに思うところがあったのか。まあ、どうでもいい。どうせ酒場と娼館で、きれいさっぱり忘れる程度の頭だ。


「言っておくが、儂はお前を捨て石にする。魔王は底知れん。ユーリに甘やかされた、お前のにわか剣術など、あるだけ邪魔じゃ」

「……分かった。好きに使えよ」


 いや、勘弁してくれ。

 確かに反省しろとは思ったが、ここで急にくよくよされても、面倒すぎる。


「分かった。儂が悪かった。ともかく死ぬ気で喰らい付け。その命を無駄にはせん」

「言い方が変わっただけじゃねえか。まったく……」


 そして、グリフは自分で、自分の顔を殴り飛ばした。

 本当に馬鹿が。


「こ、これで、もし俺が死んだとき、イフに、すまなかったって」

「いやじゃ、めんどくさい。そも、決戦前にそんなくだらんことをする、お前の性根が気にくわん」

「く、くっそ、どうすりゃお気に召すんだよぉ!」

『それで? いつまで俺は、その夫婦漫才を見続けていればいい?』


 たどり着こうとしていた戸口の前で、そんな声が掛った。

 仕方ない。これ以上、くだらない逡巡は無し。


「傭兵は割り切りが肝心、じゃったな」

「なんだよ、それ」

「儂の師匠の言葉じゃ。さて、待たせたの、クソ魔王」



 妙な扉だった。

 表面にはなにか、ごちゃごちゃと彫り込んである、俺たちの倍以上も、でかい扉だ。


「こういう時はお前の出番じゃろ、さっさと開けろ」


 普段より当たりの強い、コスズの声を受けて、扉を押し開く。

 手ごたえが軽い、見た目よりも軽いか薄いか。そして目の前に広がったのは、これまで以上に妙な広場だった。

 背の低い間仕切りの並んだ場所。遠くにはガラスでできた壁に、本棚らしいものがいくつも並んでいる。

 その他にはいくつも、小さなベンチみたいなものが並んでいる。

 見たことのない、おかしな感じの建屋。


「ユ、ユーリ!」


 その中心に、磔にされたユーリの姿があった。

 十字型の木に掛けられ、ぐったりとしている。見た目に傷はないが、顔が白い。


「来てやったぞクソ魔王! ユーリは返してもらうぜ!」

「おっと、そこで止まれ」


 ユーリの側に、槍を持ったゴブリンの兵士が立つ。わき腹に、穂先を突きつけていた。


「卑怯じゃぞ、と言いたいが、貴様には誉め言葉にしかならんな、魔王よ」

「早くも俺のやり方を理解し始めたか。さすがは次期、大森林の大母」


 まるで、すべてどうでもいいとでも言うように、魔王は並んだベンチの一つに腰かけていた。そして本当に、どうでも良さそうに告げた。


「そろそろ来客をもてなしたい。お引き取り願おう」

「……はぁ!? 俺らがついたばっかりだぞ! 目の前の」

「ごろつきと娼婦をあしらうなど、王の仕事ではない。見逃してやるから、尻尾を撒いて出ていけ、と言ったのだ」


 こいつはどこまで、俺たちを舐めれば気が済むんだ。俺はともかく、コスズまで雑魚扱いかよ。

 とはいえ、今は何もできない。鎧は脱がされ、ユーリは裸同然だ、こっちの攻撃が届く前に、ゴブリンの槍がユーリを殺す。


(猪のように飛び出すなよ)

(くだらねえ口叩いてる間で、ユーリを救う方法を考えやがれ。そのためなら、いくらだって捨て石になってやる)


 だが、コスズの顔にあるのは困惑と絶望だ。こいつの魔法でさえ、ゴブリンの槍より早く、行動することはできないってのか。

 そんな俺たちの困惑を笑うみたいに、魔王は手元の本を読みだした。


「さて、俺はどれだけ待てばいい? この本を読み終えるぐらいまでは時間をやろう。そう言えば、回復を許すと言っていたか」


 魔王の後ろの方にある、部屋らしい場所から、何人かのゴブリンがやってくる。

 そいつらは、俺たちの前にやってくると、テーブルを並べ、布切れをかぶせて、その上に料理を並べ始めた。


「どういうつもりだ」

「この戦争が始まって、すでに十時間以上経つ。食事も休憩もまだだったろう?」

「ごろつきと――しょうふ、に、割く時間はないとほざいておったな」

「これは失敬。故に、心づくしのお詫びだ。俺はすでに済ませた、好きに取るといい」


 目の前には、銀色に光る食器や白い皿、妙な形の鳥かごみたいなもの、そういう一切に食い物が並べられている。

 その全部を、テーブルごと勢いよく蹴倒した。


「ふざけんな! 誰がテメエの施しなんざ受けるか!」

「……おいおい、頼むぞ"英傑神"の勇者、いや、今や"万民の主"と名乗る、偉大なる、英傑の守護神の使徒殿よ」


 心底不快そうに、魔王は足を踏み鳴らして立ち上がった。


「飼い犬の躾がなっていないぞ。食卓を蹴倒し、もてなしを踏みにじるような人間と交われと、貴様の父親は教えたのか?」

「や……やめろ、父さんを、悪く、言うな」

「ようやく、だんまりを止めたな」


 それで分かった、ユーリは魔王に、何かされていた。

 だからこっちにも視線を向けなかったし、俺たちに助けも求めなかった。


「悪かった、ユーリ。俺たちが不甲斐ないばっかりに」

「全くじゃ。いや、そこでお前と同意してしまうのは、なんとも業腹じゃが」

「とにかく! 何とかしてやるから、安心して待ってろ」


 こいつはユーリを殺さなかった。たぶん、俺たちをいたぶって楽しむために。

 であれば、今はユーリは死なない。なにかのきっかけて、こいつが隙を見せるかもしれない。

 だったら、ここは一点買いだ。


「そんなに時間がねえってんならよ、手短に済ませようぜ」

「ほう?」

「グリフ?」

「黙ってろ。……大体テメエ、なんでユーリを生かしてんだ? 今すぐ殺して、俺たちをあざ笑うこともできるってのによ」


 正直、こいつは俺よりも頭がいいだろう。何を言ってるかも、さっぱりわからない。

 だけど、分かることだってある。


「要するにあれだ、俺らをイビりてえんだよな。チンピラみたく」

「……ほう」


 魔王は肩眉を上げて、俺を見た。

 真正面から見ると、恐ろしく美形だ。ただ、薄気味悪いって言葉が先に出るが。

 その、いかにもな見た目の中味は、真っ黒だ。

 ドヤ街のドブみてえに、馬車に潰された馬のクソみてえに。

 つまり、俺とご同類ってわけだ。


「俺らを裸にひん剥いて、地面に這いつくばらせて、どうかお願いします、魔王様にはかないません、許してくださいって、そういうザマが見てえんだよな」

「表現は下種で低劣だが、慧眼だ。貴様を侮っていた、評価を改めよう」

「いらねえよ。でだ、ユーリを離せ」


 ぷ、と、魔王は噴き出した。

 それからユーリに近づき、自分の剣を抜いて、脇腹に近づける。


「《ロンギヌス》と《カシウス》を、交互に突き刺したら、どういうことになるのか。知りたい気分になってきたぞ」

「知るかよ。それと、そんな脅しには乗らねえ。出来るわけがねえ」

「なぜそう思う」

「テメエが心底、性根の腐ったクソだからだ」


 そうだ。言ってるうちに気が付いてしまう。

 コイツがユーリを生かして、俺らに見せつける理由。これまでの仕打ちと同じだ。

 

「ジェデイロの時からそうだった。テメエは獲物を、死ぬまでいたぶる。生かしておくのは、それ以上の、趣向があるからだ」

「……ほう」

「本当に、あのチビ竜軍師の言ってた通りだ。テメエは詐欺師で、無いものをあるように見せやがる。それを、相手が苦しんで、死にたいぐらいにキツい目に合わせて、その上でもっと、責め立てるために使いやがるんだ!」


 ユーリたちは知らない。フランだって見ていない。

 あの、地獄みてえな村や町の様子を。


「テメエの砲撃で焼かれたところは、井戸も枯れて水もなかった。食い物もない、互いが奪い合って死んでいく。そんな地獄だった」

「ああ、貴様はそちらに回っていたのか。どうだった、俺の仕事は」

「最低でヘドが出そうだったぜ! おかげで、折角の酒も喉を通らないぐらいにな!」


 フランたちが『助けられる』連中を見たなら、俺は『助からない』連中を見てきた。

 あんなもんを見せつけられて、酒なんざ喉を通るか。


「ジェデイロで死んだ連中が、まだましに見えたぜ。わざと見逃したあげく、疎開先の村を率先して焼き回りやがって! この外道が!」

「まさかグリフ、お前、それを一人で……」

「お気楽いい加減なグリフ様じゃなきゃ、見てられなかったろうからな。俺みたいなクズには、ちょうどいい汚れ仕事さ」


 逃がした先の村が、丁寧に追討される。ユーリたちの反抗がもう少し遅かったら、被害は拡大していただろう。

 俺が見てきたのは間に合わなかった連中、焼かれた死体ばかりだ。

 それでも、少しでも安全だと思える場所に逃がし、できなかった恨みを被り続けた。


「なぜ……それを、言わんかった。儂にも、なにか」

「お前らはユーリのお綺麗な部分だ。でも、世の中それだけじゃねえ。無能だからできる仕事、だらしない人間だから浴びせていい罵声を、集めただけだ」


 こいつらが俺を見下げてるのは知ってる。

 でも、こいつらはキラキラしたもんしか見えてねえ、それじゃ、駄目なんだ。


 助けられた村人は、純朴とは程遠い小悪党だ。感謝の笑みの裏で、自分の金と、明日の食い物を隠してため込んでる。

 だから、裏で締めあげて、取るもんを取った。


 騎士団のクソ共は、名誉と名声ばかりで、本当に飢えた連中のことなんて知らんぷり。

 だからフランを通じて、孤児院の連中を面倒見させた。


 街の貴族も商人も、人間全部を金としか見ない。

 だから盗賊ギルドと結託して、ユーリの活動資金を『捻出カツアゲ』した。


 ドワーフもエルフも、結局は人間がどうなろうと構わない。

 俺にできたのは、飲みたくもねえ酒を飲み、タケだのクズだのを引く抜く仕事だが。


 ドラゴンなんて、世界全部を見下げてるようなクソトカゲだ。

 あれはさすがにユーリがいなきゃ、どうにもならなかったな。


 でも、そんな世界でひとつだけ、守りたいもんがあった。

 呆れるほど純真で、世界をどうにかしたいって思ってる、アイツの気持ちだ。


「エルフの部族長、ドラゴンの女王、騎士団団長さま。お前らは勇者ユーリの、大事な看板だ。俺はそういう看板が汚れねえように、きれいに磨くためのぼろ布。それでいい」

「驚いたな」


 魔王は、本当に目を丸くしていた。

 それから、うっとりと笑い、俺に向けて一礼しやがった。


「非礼を詫びよう。俺は貴様を、低俗なクズと見誤っていた」

「そりゃどうも。で、次は綺麗なぼろ布に格上げか?」

「いいや。岩倉悠里、一の忠臣。貴様のような奴は、生かしておけない」


 その時、俺は自分のあさはかさを思い知った。

 慣れないことはするもんじゃねえ、コイツ、見せ札の下にもう一枚、隠してやがった。

 今ここで、瞬きもしないうちに俺を殺せる力。

 体が動かない。俺の体全部が、奴の殺気に取り囲まれている。


(すまねえ、ユーリ)


 それでもこいつが動けば、何かが変わる。その間にコスズが、何とかする。

 そう信じて、俺は。


「解き放ってやれ」


 拍子抜けするほどのあっけなさで、魔王が下がる。ゴブリンが槍を離し、そのままどこかに行ってしまう。

 手足の戒めが解けて、膝を突いてユーリが地面にしゃがみ込む。

 駆け寄ると、顔も上げずにユーリは呻いた。


「グリフ、ごめん」

「な、なんだよ。謝るのはこっちだ! 助けが遅れて」

「そうじゃ、ないんだ。俺は」

「勝手にイベントシーンを挿入するな。こちらの会話が残っているぞ」


 いつの間にか、魔王はマントを外していた。

 ユーリの剣と鎧が、仕切り壁の並ぶ辺りに置かれている。


「支度を整えろ。そして、立ち向かってこい」

「正々堂々の戦い、って柄でもねえだろ」

「テキストオンリーの節は終わった。次は行動力を消費しての戦闘シーンだ」


 また妙な物言いしやがって。魔王は薄ら笑いを浮かべ、ユーリを見つめている。

 その間に、コスズが荷物を手に戻り、内容を確認していた。


「簡易にじゃが、検めておいた。呪いや魔法の類は掛かっておらぬ」

「分かった……ありがとう」

「ユーリ、お前、気にすんなよ」


 こんなことを言っても無駄だが、言わずにはいられなかった。


「俺らは、その、まとまった仲間じゃなかった。でも、お前を助けたいって気持ちは、みんな本物だと思う。だから、俺のことはどうでもいいから、他の奴らは、信じてやれ」

「馬鹿が、本当に馬鹿が。傷口に塩を塗り込んでどうする」


 コスズは細身の剣を構え、ユーリの側に立つ。

 その顔は相変わらず、俺の方には向かない。


「儂らは、お前が好きじゃ。それだけ信じていろ。勝つぞ、魔王に」


 それでいい。俺なんて、捨てていけ。

 こんなクズな根無し草には、これぐらいがちょうどいい。


「待たせたな、魔王さんよ」

「ああ、そうだ。親切ついでに言っておこう、これはイベント戦闘ではない」


 その手に真っ暗な剣を生み出して、魔王は笑った。


「負ければ、そこでゲームオーバーだ。安心して、死ぬがいい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王が終始魔王ムーブしてるな 勇者パーティーで一番の汚れ役を評価したのもその重要さを知った上でか。ドラゴンより高(好)評価なんだろうなあ [気になる点] 魔王の神去り文化をやたらとなぞら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ