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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~最終章~
220/256

20、野原を行く、ケモノのように

 彼の部屋は、砦の北にある小さな塔の中だ。

 それが、捕虜を捕えておく場所に使われていたことも知っていたし、他の人たちの目に付かないようにという、腫れもの扱いの意味であることも、イフは知っていた。

 階段を昇っていく途中で、小さな子供が勝手に部屋に入っていくのが見えた。


「しぇーと! あそぼ!」


 避難民の、カーヤという名前の少女。なぜか彼が一緒に連れてきた、どこかの村で焼け出された子供だ。

 イフにとって、彼は不思議な存在だった。

 コボルトのシェート、女神の加護を受けて勇者を狩った魔物。


「人形、どうした?」

「もにょおじさんくれた!」


 戸口に立って、盗み見るように二人の様子を見る。首に抱き着かれ、困惑しながら、子供の手の届かないところへ、作りかけの矢柄を遠ざけ、木くずを払っている。

 まるで仲のいい兄弟姉妹のような、そんなやり取り。


「カーヤ、もにょおじさん、好きか」

「すき! ぷぷおじさんきらい!」


 モーニック、と言い切れないので、カーヤは彼を『もにょおじさん』と呼ぶ。言われた騎士は気にする風でもなく、顔を合わせるたび、じゃれつくカーヤをあやしていた。


「ダメだ。カーヤ、危ない」

「ぶーん、ぶーん! もにょおじさん、ぶーん!」


 どうやら剣の稽古でもしているつもりなのだろう。矢柄を振り回すカーヤと苦笑するシェート、もう少し見ていたいが、仕事はしなければならない。

 開けっ放しの扉を叩き、顔を出す。


「シ、シェート、さん。おはよ、うござい、ます」

「ああ」


 彼は何も隠さない。顔も覆わず、手足もむき出しのまま。その腕や、ちらりと見える胸元にある、むごい傷さえ気にしないでいた。

 私と同じか、それ以上に忌まれる存在として、生まれたのに。


「お、おとりこみ、中ですか?」

「しぇーと、カーヤと遊ぶ!」

「すまん、カーヤ。下、手伝い、行く。遊ぶ、まただ」

「……やだ」


 またかんしゃくが起きる、そんな危険な雰囲気を察したのか、部屋の隅で寝転がっていた星狼が、素早く子供を鼻面で放り上げ、背中に乗せた。


「ぐーと! おんまやって! おんま!」

「……すまん。グート」

「きゅぅん」


 白い狼には悪いが、こちらも仕事だ。シェートを連れだすと、そのまま塔を降りる。

 

「今日、仕事、なんだ」

「サンジャージ師匠が、空飛ぶ、マント、試作したいって。実験、です」

「分かった」

「あ、あと、巡回、偵察任務、お願いできますか」

「グート、外出したい。いいぞ」


 彼の態度は淡々としていて、私が知っている人たちの誰とも違う。冷たいわけじゃないけど、熱くもない。

 そこに居て、静かにたたずんで、何かのきっかけで動き出す。

 まるで、草原に生きる動物のような。

 でも、カーヤといる時の彼は、暖かいように見えた。


「あ、あのっ!」

「なんだ?」

「カ、カーヤ、さんって、あなたの、おこさんとか、じゃない、です、よね?」


 彼は目を丸くして、それから笑う。

 ああ、またやってしまった。思ったことがあると、つい口にしてしまう。ユーリさんはそれが私のいい所だと言ってくれたけど。


「カーヤ、焼けた村、生き残り。俺、助けた」

「え、っと、た、食べたいとか、は」

「ない。コボルト、人喰うな、言われる。俺、食わないぞ」


 正直、彼には驚かされてばかりだ。

 粗暴で凶悪なゴブリン種に比べ、コボルトはこの大陸にはそれほど見かけない。自分にとっての彼らは、焦点の定まらない目で必死に襲い掛かってくるか、怯え隠れていく背中の印象、それだけ。

 書きつけ用の羊皮紙を取り出し、要点を書き記す。

 サンジャージ師匠曰く「魔術師は目の生き物」だから。気になったものは記録する。


「モ、モラニアの、コボルトも、みんなシェートさん、みたい、ですか?」

「……違う。俺、変わってる、言われた」

「ご、ごめん、なさいっ。変な事、聞いて……」

「いい。書き物、世界、知るため。そうだな?」

「……は、はいっ! こうして、一杯、記録して、それで、わ、私、知りたいです!」


 口にしてから、改めて気が付く。

 この不思議なものを、もっと知りたい。


「私、シェートさんのこと、知りたい、です」

「俺、コボルト。それだけ」

「……違い、ます。きっと」


 ユーリさんは言った。この世界には『もしも』って、思う自由があるって。

 ずっと、私の世界には、一つしかなかった。

 誰かに痛みを与えること。私が生まれた理由は、それだけだった。

 ■■――それが、私に与えられた名前。

 でも、もしも(if-then)、そうでなかったとしたら? そう言ってくれたのが、ユーリさんだった。

 そして、彼もまた『そうではない』という、事実の一つに思えた。


「遅いぞイフ! 待ちくたびれたわい!」


 新しく繰りぬかれた地下の奥に、サンジャージ師匠の研究室はあった。

 ジェデイロの研究所は無くなってしまったけど、ここに来て二週間もしないうちに、あの懐かしい、ガラクタだらけの部屋が出来上がっていた。


「念のため確認しとくが、魔法は使えんのだな?」

「ああ。サリア、加護貰った。あと、腕輪。俺、魔法、わからない」

「よかろう。であれば……飛行であるよりは浮遊、後は風を受けて……いや待て?」


 作業台に肘を突き、思いついたアイデアを書きつけていく。さらにいくつもの銀片や宝石をかき集め、ごちゃごちゃとした塊に組み上げた。


「ま、試作はこんなもんだろ。では、実験だ」

「え……魔法、道具、作る。もっと……違う」

「なんだ、魔法を知らんくせに文句はつけるのか!? 安心しろ! この世に儂ほどの天才、魔法道具の匠はおらん!」


 その時、初めてイフは見た。

 悲しそうに、声もなくつぶやく彼の顔を。

 

「あいつ、もっと、上手」


 そんな風に、言っている気がした。



 午後からは彼と組んでくれ。ユーリ殿からそう言われた。

 フランバールにとって、勇者の命令は絶対だ。忠誠を誓ったというだけではない、初めて会って、彼とあの廃砦を攻略したときから、この身も心も彼に捧げると決めた。

 馬に乗り、進むこちらの隣で、狼に鞍を掛けて進むコボルトを見る。

 その少し後ろに、隻腕の同僚が追随している。


「ミルザーヌ卿、わだちだ」


 砦を出て少し経った頃、大地に刻まれた『戦車』の痕跡を見た。

 最初にあれを倒して以後、連中はこちらとつかず離れずを保っている。イツミコウジと名乗る仔竜の進言で行った対戦車攻略を、避けるように。


「まだ新しいですね。土が乾いていない」

「追うのか?」

「……軍師殿の基本戦略は『撃退』です。ここは砦から離れている。狩り込めるにしても援軍を呼ぶには時間かかかります」


 蛮勇で我が身を危機にさらすつもりはない。神の教え通り、我々は勝つまで死ぬわけにはいかないからだ。

 フランバールは、定められた巡回経路を思い出し、くつわを向けようとした。


「どうした、シェート」


 だが、同僚はそうしなかった。声を掛け、下馬してコボルトの脇に立つ。

 そういえば、この二人は砦に来た時から距離が近い。モーニック卿と言えば、きわめて厳格で規則に厳しく、騎士の鑑と呼ばれるほどの堅物だ。

 ただ、子供や女性には人気があり、人当たりが悪いというわけではない。

 魔物と仲良く肩を並べるという性格でもないはずだが、なにか気に入る要素でもあったのだろうか。

 何事かを確かめていた様子のコボルトが顔を上げて、土の一部を差した。


「足だ。ふたつ、みっつ」

「ああ……これか。素足に……血か。良く見つけられたな」

「……追われてる。戦車、人、狩ってる」


 コボルトは狼にまたがり、方向を確かめる。

 片手に神器を取り、こちらに振り返った。


「助け、行く。来るか?」

「無論だ。ミルザーヌ卿、よろしいな?」

「であれば貴殿は伝令に。援軍を頼みます」


 彼はためらわなかった。隻腕で馬を駆る技量は驚くべきものだが、激しい遊撃戦になる戦車との戦いでは、どうしても不安があるのを、理解しているからだ。

 こちらが『駆け』で進むや否や、コボルトの狼も一層加速する。まれにゴブリンが狼乗りとなることがあったが、連中より軽い体が幸いしてか、機動力が桁違いだ。


「いた。お前、人、助けろ」


 それは、三台に合流した黒い金属の塊だった。一組の轍は三組に増え、蛇行しながらゆっくりと何かを追っている。

 子供とその親、疲れ果て、足をもつれさせて、子供が地面に転がった。

 その瞬間、


「しっ!」

 

 神器の光が叩きつけられ、一台の車輪が吹き飛ぶ。連中の『砲塔』が、ぐるりとこちらに向き直った。


「走れ! 行け! 助けろ!」


 それを引き付けるように前に出て、体を狼の上で立て、流れるように斉射する。八つに分かれた銀光が、外部に取り付けられていた髭のような物を、正確に叩き潰す。

 遅れて、コボルトの周囲で爆発が起こり、それを突き抜けて狼の乗り手が進撃する。


『アンテナ――まあ、遠くと話せる魔法の道具みたいなもんだよ。可能ならそれを潰してくれ。それであいつらは撤退するはずだ』


 馬以上の速度で進行する物体に生えた、常に揺れる一本の草を射貫くような行為を、走り抜ける狼に乗って行う技量。

 確かにあの銀光は、必中の力を持つ『凍月閃』だが、『術士が目を付けた箇所』に当てるのは、相当な訓練がいると聞いていた。

 

「無事か!? 無事なら走れ! あちらに砦がある、そこに避難せよ!」


 親子が身を起こし、涙ながらに感謝して去っていく。戦車は轟音を立てて去り、仕事を終えた狩人が、神器を消して戻ってきた。


「見事なものだ」

「俺、仕事、しただけ」

「いや……それでも見事と言おう」


 思えば、ヴィルメロザで初めて会った時から感じていた。

 異質で異常、それでいて静かにたたずむこの生物の、生き方を。

 仕事に忠実だが、騎士のそれではなく、その強さの源は、弓兵や戦士のそれではない。


「なるほど、狩人か」

「……そうだ」


 フランバールの感嘆に、狩人のコボルトは不思議そうな顔をした。

 なぜこいつは、そんな当然のことを言うのかと。


「俺、ずっと、そうだ」

「……では、その狩人の腕に賞賛を」

「いい。獲物、狩った時、言え」


 なかなか頑固な一言に、思わず笑ってしまった。

 援軍を連れて戻った青の騎士が、馬蹄を響かせながらやってくる。それを眺めつつ、彼女は同僚に声を掛けた。


「一当てして疲れたろう、合流して休憩だ、シェート殿」

「……ああ」



 気に入らない潮目だ。グリフは忌々しさを、胸の奥で吐き捨てた。

 そして、地下の会議所に並ぶ面子を眺める。

 フランや騎士たちは、もうすっかりなじみだ。騎士団領にいた頃のぎすぎすした感じはもうなくて、本当に同じ奴かと疑いそうになる。

 エルフのババアは未だに気にくわなかったが、コスズのおふくろということもあり、気持ちの面では問題ない。ドワーフのおっさんは好きだが、さすがに付き合い酒は二度とごめんだ。

 イフとその師匠のイカれた爺さん。妙な実験に付き合わされるのは勘弁だが、"繰魔将"の城では助けられたし、悪い奴でもないのは知ってる。

 ドラゴンのシャーナは、いつにもまして機嫌が悪い。

 たぶん、その不機嫌の幾らかは、俺と同じものだろう。

 仲間内で一番最後に合流したコスズは、状況を飲み込めない、という感じでユーリの方を見ていた。


「これで全員そろったな。じゃあ、最後の作戦会議だ」


 俺の気に入らないもの、その一が口を開く。

 知らない間に懐に入り込んで、仲間面していたチビのドラゴン。

 いや、ドラゴンのガワを被った、負け犬の元勇者だ。


「おいコージ、ちょっといいか」

「なんだい?」

「なんでテメエが仕切ってんだ。ここはユーリの砦だぞ」


 ユーリが口を開く前に、俺はきっぱりと言い切る。


「立場の上下ってもんは、しっかりしとくもんだろ。違うか、フラン」

「グリフ殿、気持ちは分かるが」

「分かってねえよ。元々、俺たちはユーリのために集まったんだろ? それを、こんなうさんくせえ奴に仕切らせて、良く平気でいられるな!」


 全員の目が俺に突き刺さるが、そんなことは知ったことじゃない。

 こいつらは、全員甘すぎる。


「言っとくが、俺はこんな奴、信用してねえからな」

「グリフ、俺が彼に参謀役をお願いしたんだ。それを信用できないか?」

「その信用とやらに、何度も付け込まれたろうが! 俺と会った時、あの村でどんな目にあったか、忘れたとは言わせねえぞ!?」


 ユーリとの出会いは最悪だった。

 傭兵稼業の途中、魔物に襲われた貧乏な村という触れ込みで、仕事を受けた。そのきっかけが、お人よしのユーリだ。


「テメエらの金はしっかり隠したまま、俺たちにはパンと銅貨だけ。取り戻した財宝とやらも、半分もよこさなかったよな!」

「あれは、もう話が付いただろ!」

「それだけじゃねえ、ヴィルメロザ、ジェデイロ、エルフの森、ドワーフの坑道、おまけに"繰魔将"の砦まで! そのお人よしで、どれだけ死ぬ目にあった!?」


 よくもまあ、あれだけ騙され、不利な状況を押し付けられたものだと呆れてしまう。

 その原因がユーリでなければ、とっくに投げ出していただろう。


「でも……それでも俺は、勇者だ。困ってる人を疑って接することは、したくない」

「ああ、ご立派な態度だ。俺だってお前のその甘さ、嫌いじゃねえよ。だがな、こいつらは違うだろ!」


 あの下らない決闘とやらで、確信した。

 こいつらはろくでなしの、ごろつきだと。


「見ただろ、あの決闘。あのコボルトは、方々で勇者を殺して恨みを買った! このチビは、テメエのケツさえ拭かず、自分を殺した相手にヘラヘラ引っ付いてた!」

「グリフ!」

「なあ、そんな不実なことをする連中を、お前は、お前らは、本気で信じられんのか?」


 刺すような視線が部屋中から突き刺さる。

 ああそうだ、俺は野蛮で、身勝手で、ろくでなしな人間だよ。

 でも、裏切りなんてものを平然と許せるほど、甘くもねえ。


「俺は、勇者ユーリの、一番の仲間だ。だったら、ユーリの身の安全を真っ先に考える。そのためなら汚名も被る、この命だってくれてやる!」


 あの村を出て、その日暮らしのごろつき同然に生きてきた俺に、世界を救う仲間なんて役割を与えてくれたのが、ユーリだ。

 そいつを傷つける者は、誰だろうと許さない。


「そういう覚悟があって、ここにきたんじゃねえのか、お前らも!」

「……そうだ、グリフ殿。しかし彼らは」

「その仲間に、いっちょかみしてやろうなんて考えの奴は、必要ねえ。覚悟のない奴は、平気で人をだまして、裏切りやがるからな!」


 ようやく、すまし顔の仔竜が顔色を変えた。最初に会った時は、鉄でできてるんじゃねえかと思ったが、やればできるじゃねえか。

 だが、


「違うぞ、お前」


 全身の毛が抜き尽くされるような、鋭い痛みが体をなぶった。冬の岸壁にぶち当たる、身を切るような波しぶきを思わせる殺気。

 部屋の隅にいたコボルトの両目が、暗闇のかがり火のように、ギラギラと燃えていた。


「な、なにがだよ」

「俺、悠里、仲間、違う」

「そ……そうかよ! だったら、なんだってんだ!?」

「道具、狩りの道具」


 それは、深い水底のサメのように、こちらから視線を外さない。

 こいつはただのコボルト、じゃない。

 手負いのケモノ、手を出せばただじゃすまない。

 決して手を出してはいけない、年を経た海域のヌシ。そんな錯覚がちらついた。


「俺、道具だ。道具、裏切らない。魔王、倒すまで」

「そ……そうかよ。さすが、勇者をぶっ殺してきたケモノは、言うことが違うな」

「気がすんだか、グリフさんよ」


 いつの間にか、仔竜の顔が冷たく冴えていた。

 ただのチビのドラゴンもどき、のはずだった表情が一変している。


「あの"魔王"相手にいっちょかみなんて、温い考えで立ち向かおうなんて奴は、この場に一人もいない。もちろん、俺もだ」

「その割には、軍師様なんて、後ろで控えの役を選んでるじゃねえか」

「だったら、アンタがやってくれよ。俺の代わりを」


 シャーナの本性を見たときは、さすがに肝が冷えた。これこそドラゴン、寝物語に聞かされた凶悪な化け物だと。

 だが、目の前のこいつは、シャーナさえちゃちに思えるような存在だった。

 毒だ。触れただけで肉を腐らせる、毒の化身。


「知った仲を死地に送り、死なせるために物資を手配し、どんなに苦しくても、後ろで笑って策を出し、負けたら恨みを喰らって殺される。その頭と覚悟が、あるってんならな」


 大潮のような、口元まで迫る、冷たい窒息の感覚。

 その強烈な威圧が、唐突に遠のいた。

 目の前の仔竜は、睨んでいない。それどころか、しおらしく頭を下げた。


「……ごめん――言いすぎた。グリフ、お前の気持ち、考えもしてなかったよ」

「え……」

「しばらく悠里と離れてたら、いきなり俺みたいなのがデカイ面してるんだ、不審に思うのも当然だよな。さすが悠里の一番の仲間だ。以後、気を付ける」


 まるで、いきなり座ろうとした椅子を、寸前で引っこ抜かれたような感覚。あわててにらみを利かせるが、仔竜は穏やかに謝罪の姿勢を取ったままだ。


「司会進行を頼むよ、悠里。内容は全部知ってるだろ」

「ああ、わかった。その前に、グリフ・・・


 そこで俺は、自分の失態を悟った。

 俺たちのユーリは、侮辱することを許さない。それが誰でも、どんな相手でも。


「二度とだ。二度と、シェートと浩二を、悪く言うな」


 後はもう、何もわからなかった。

 聞き取れたのは、ユーリと一緒に、空飛ぶ船で魔王城に突入することぐらいだ。

 それでも、俺は納得いかなかった。

 会議前よりも、一層強い不安と嫌悪が、錨のように深く沈んでいく。

 あいつらは、危険だ。

 毒蛇と野のケモノ。

 いつか、俺たちの勇者を殺し得る、災厄の化身だ。


「騙されねえぞ、俺だけは」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 冷静な視点ではグリフの気持ちもわからんでも無いけど…… 同時にトップの意向に逆らってるって自覚はないのかな。 結果的に実に魔王好みのつけ入り口になってるような……
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