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かみがみ〜最も弱き反逆者〜  作者: 真上犬太
かみがみ~最終章~
215/256

15、惑い人、探し人、狩人

 誰もいなかった、味方は誰もいなかった。

 俺の味方は、誰も。


『キッショ』

『ヤベー』

『ナイワー』


 言葉でさえない、鳴き声のような言葉スラング


『くんなよ』

『うぜ』

『……』


 沈黙と拒絶が、どこまでも続く。


『わかんね』

『知らんし』

『自分で考えたら?』

 

 その理由を問いかけても、誰も答えない。

 それから続く、笑いと暴力にほど近い小突き。


『え、やんの?』

『ぼうりょくはんたーい』

『うわこえ、殺されるー』


 抵抗しようとすれば、逃げられる。

 そんなつもりはないのに、自分ばかりが責められる。


『君の勘違いじゃないの?』

『やられる方にも理由はあるぞ』

『困るんだよ、そんなこと言われても』


 大人も、味方じゃなかった。

 この世の中は、公正でも平等でもない。

 でも、それより辛かったこと。


『次は、モップとかつっこむと、いいんじゃないかな』


 自分の善意を、全てを、否定されたことだった。

 ああ、なんて世界は、不公平で、不道徳で、どこまでも――。



「ユーリさん!」


 のぞき込む猫のような顔に、体がこわばる。それが、イフの素顔だと思い返し、ゆっくりと息を吐いた。


「ここは?」

「ジェ、ジェデイロ、のずっと北の、フディン山の、洞窟です」

「街は? 魔王は?」


 途端に、イフは顔を逸らし、ローブを固く巻き付けて立ち去ってしまう。その後を受けて、コスズが水の入った袋を持って入ってきた。


「まずこれを飲め。話はそれからじゃ」

「……被害は?」

「聞けば、後悔するぞ」


 水を口にして、ゆっくり飲み降す。体が衰弱したときこそ、水分はゆっくりとる。

 呼吸を静かに整え、水を飲み、体の状態を意識していく。

 熱があるのは、肩にある治療痕のせいだろう。たしか、シャーナの右手が、魔王城の攻撃で吹き飛んで。


「シャーナは!?」

「……それも含めて、後悔するぞ」

「たとえ後悔したって、聞かなきゃダメだろ。俺は、勇者なんだから」


 エルフの娘は肩をすくめ、片手を差しだした。


「外に出れば、様子が見えるじゃろう。そこで、全部話す」


 どうやら、一日以上寝たきりだったらしい。足元がふらつくが、コスズの助けを借りて洞窟を出る。"英傑神"の勇者に自動回復の加護はない、仲間たちの看護のおかげで、命を取り留めたわけだ。

 そして、悠里は目の前に広がる惨状を把握した。

 壮麗な胸壁を誇っていたはずの、城塞都市ジェデイロは、東側にわずかな残骸を留めるばかりの、廃墟と化していた。


「……街が、ジェデイロが……ない」

「儂らが撃ち落された後、魔王は容赦なく『れーるがん』で、市街を焼いた。その後『せんしゃ』とかいう、鉄の車が全てを引きつぶし、爆炎ですべてを砕いた」


 戦車、とはつまりあの戦車のことだろう。そんなものまで魔王は創り出し、その力で街を滅ぼしたのか。


「奴めは言った。人間は捕虜にせず、皆殺しにすると。その言葉に嘘はない、事実、ジェデイロから逃げ出した民たちが……発見され次第、狩られておる」

「そ……そんな!」

「保護のために、残った騎士を集めてフランが走り回っておるが、『きかんじゅう』やら『しりゅうだん』やらがあるせいで、思うように動けんらしい」


 異世界物のアニメやラノベでも、ときどきそういう話はある。近代兵器を使って戦争を勝ち進む主人公の話が。

 だが、この世界では、ファンタジーの首魁とも言える魔王が、近代兵器と戦術を使って人々を蹂躙していた。


「そ、それだったら 今すぐにでも魔王を!」

「……無理じゃ」

「シャーナは?」

「無事、でもあるし、無事でないとも言える。少なくとも今は、無理じゃ」


 そう言えば、さっきから仲間の姿が見えない。

 イフとコスズは無事、フランは任務中なのはいいが、シャーナとグリフの姿がない。


「コスズ、グリフは?」

「…………」

「う、うそ、だろ。なあ、コスズ!」

「おお、ユーリ、起きたのか!」


 のんびりと声を掛けてくる無精ひげの男と、こちらに背を向けて笑いをこらえるコスズを見かわし、悠里は絶叫した。


「そういう冗談は笑えないって!」

「いや~、すまぬすまぬ。せっかくじゃし、このアホ男は死んだことにして、儂らだけでユーリを盛り立ててゆこうかと」

「勇者ユーリ、一の仲間を、つまはじきにしようたぁいい度胸だな。このババア作りのガキエルフが!」

「バ、ババア作りとはなんじゃい! 儂はこれでもまだ十八――いや、それであってるのじゃが!」


 あまりにくだらないやり取りに、少しだけ気分が和らぐ。街の惨状は目を覆いたくなるが、それに囚われることには意味がない。

 ひと段落付いたところで、悠里は尋ねた。


「それで、シャーナは?」

「ここよりもっと奥にある、谷あいのくぼ地で養生中じゃ。一応正気を保っとるが、一昨日までは……儂らまで殺されるかと思ったわ」

「ユーリの容態を話してやって、何とか持たせたようなもんだ。ま、お前が起きて話しかけてやれば、元に戻るだろ」


 妙な会話の成り行きに、悠里は眉をしかめた。

 そもそも、命に別条がなければ、シャーナこそ俺の側にいるはず。それが、度を失うほどに感情を爆発させたということは。


「もしかして、ドラゴンたちに何か、あったのか?」


 途端に、二人は空元気を消して、沈痛な面持ちになった。

 それから、コスズは無言で、はるか南の空を指さした。

 空は薄曇りで、妙にぐずついた天候だ。というか、全体的に空が妙な色合いで、穢されているように思えた。

 一分、二分、そして気が付く。


「……竜の峰が、ない!?」

「これが一番、ユーリがショックを受けるじゃろうと、例のヴィトが言っておったな。落ち着いて聞いてくれ」


 語りたくもない、忌まわしい言葉を口にするように、コスズは事実を語った。


「『せんじゅつかく』とやらによる、長距離の攻撃。それによって、竜の峰は、跡形もなく蒸発したそうじゃ」


 めまいがして、片膝を突く。

 仲間たちが支えてくれるが、これはとても、すぐには受け止め切れなかった。

 熱核兵器による長距離攻撃。

 その事実の意味するところを、仲間たちは知らない。そして、悠里はすぐに理解した。

 魔王は文字通り、世界を滅ぼし得る存在だということを。



 山間を貫く山道を、馬に乗った一行が行く。

 その誰もが口を開かない。隊列の中央にいる、青い仔竜と少女でさえも。その全てを眺めるアクスルは、仔竜の沈黙を見つめていた。

 自分たちの元勇者で、今は竜たちの力によって姿を変えられた存在。


「昼もだいぶ過ぎました。ここらで休憩にしましょう」

「そうだね。そら、アンタたちも手伝いな」


 赤毛の傭兵魔術師に率いられ、三人が河原へ降りていく。

 まるであの頃のようだ。


「いいや、ちがうな」


 確かに彼は青いが、その青は本来、鎧の青であったはずだ。神の祝福を受け、あらゆる攻撃をはじく鎧を身に着けた少年。

 どこか生意気で、それでいて素直で、好奇心が強く、良く笑っていた。


「ごめん、ちょっと待ってくれ。安全か調べるわ」


 仔竜は水際に胸の機械を近づけ、それから頷いた。


「いいぞ。この辺りはまだ『きれい』だ」

「……やれやれ、目には見えない毒、か」


 三日前の魔王の攻撃を見て以来、彼や天上のドラゴンたちは、神経質になっている。水源だけではない、空模様をひどく気にしていた。


放射性降下物フォールアウト、あなた方には『目には見えない厄介な毒』とだけ言っておきましょう』


 その声はこわばり、愁いを含んでいる気がした、ドラゴンの感情は分からないが、竜たちの峰が跡形もなく消えたことに、関係しているかもしれない。


『ケデナを離れれば、とりあえず忘れていただいて結構です。ここに留まるにしても、竜の峰は百キロ以上離れていますし。風向きと天候さえ気にしていれば問題ないかと』


 そんな注釈を入れた竜に、少年は鋭く訂正した。


『あいつが『二発目』を撃たない限りは、だろ』


 おそらく、竜となった少年は、正確に魔王の脅威を理解している。

 一度は城の深淵にたどり着き、魔王その人と対峙したという彼は、あの悪辣な宣言の全てに、怒りと憤りを覚えていた。


「んじゃ、適当にちゃっちゃっと作るか」

「なんだいアンタ、料理なんてできないだろ?」

「こっちに来て、いろいろ――できるように、なったんだよ」


 感情を取りこぼしたように、彼は手にした小刀で、鍋に材料を切り落としていく。それでも見事なもので、火の加減を見ながらパンを温め、山菜で小皿料理さえ作っていた。


「はい、できたぜ。雑で適当なのはかんべんな」

「いや……ほんと驚いたね。こりゃ、ちょっとした料理屋の飯だよ」

「い、いただきます!」

「かたじけない」


 味は申し分なし、むしろ旅先でこんなものを食べられるとは思わなかった。煮込みは味も良く、歯触りのいい、草の根のようなものが入っていた。


「す、すごい、おいひい……ありがと、ございまふ。んぐんぐ」

「三人で旅してた時は、もっぱらあたしが炊事でね。リィルに任せたら、食材を焦がすわ鍋を壊すわ、悲惨だったよ」

「い、言わないで! 必ずエルカや、コウジにも負けないぐらいの、料理を作れるようになりますから!」


 リィルの顔はすっかりやわらぎ、険が取れていた。手の無骨さも少しずつ消えて、かつての繊手を思い起こさせた。

 そうだ、彼女の笑顔を取り戻すことが、本来やるべきことだったのだ。


「なんだい騎士様、にやにやして」

「いや、実にうまい鍋だと思いまして。特にこの根がいいですな。こんなもの、どこで見つけてきたのですか?」

「ああ、それは俺が好きだからって――」


 アクスルは失言を悟った。

 考えればわかることだ。我々が口にしている、我々が知らない料理。それを教えたのは一人しかいない。


「そういや、グルーの港って、あとどのぐらいなんだ?」


 料理から顔を逸らすと、仔竜の少年はわざとらしく話題を変えた。それに気づかないふりをして、エルカは山道に目を向けた。


「この山道を三日ばかり行ったところさ。アタシがモラニア行きの船に乗る頃、ちょうど"海魔将"の封鎖が解けて、行き来が自由になってたんだよ」

「そういえば不思議ですね。"海魔将"は南洋群島を十年近く治めた、強力な存在という話でしたのに、いきなり勢力が失われてしまって」

「あんな【神規】じゃ、しょうがねーよ。日美香の能力には、俺らも――」


 今度はエルカが顔をしかめる番だった。

 人の心の機微を知る彼女も、さすがに彼の柔らかい部分を避けて、心やすい会話を続けるのは不可能だ。

 結局、不自然な沈黙のまま食事は終わり、それぞれが役目を果たすばかりになった。


「ごめんな」


 その言葉にリィルは苦痛に顔を歪め、あえて何気ない振りで、エルカは仕事を淡々とこなす。その中で、私だけは何もできていない。

 朴訥で朴念仁で、剣の腕前しかない男だ。

 であれば、自分は自分のできることをするしかない。


「参りましょう。先導はお任せあれ」


 何度言ったかもわからない出発の合図を告げると、アクスルは山道を進んでいく。

 空は、穢されたように薄曇りだった。



「いらない!」


 何度目かの絶叫に、シェートはげんなりしていた。

 ボロボロの服を着た人間の少女。いつもふくれっ面で、こちらのやることなすこと、全部が気にくわないという。


「……飯、食わない。腹、へるぞ?」

「いらない! おっかあのごはんたべたい!」


 コボルトの食事は確かに人間の口には合わないだろうが、それでも食べなければ死んでしまう。


『カーヤよ。わがままは止めて』

「いや! さりあきらい! しぇーときらい! おっかあ、おっかああああああああ!」

『ど、どうする!? ここまできかん気な子供は久しぶりだぞ!』

「……俺も。シュレハ、すごかった。カーヤ、もっと、すごい」


 焼け落ちた村を出て、山奥に避難したものの、村人らしい姿はどこにもなかった。

 結局、ただ一人生き残った、カーヤという少女を連れて、野宿をすることになったのだが、これが思う以上の難物だった。

 さすがに腹が減るのか、用意した木の実ぐらいは食べるが、それ以外は口にしようとしなかった。

 慣れ親しんだ食事が恋しいのと、コボルトである自分に警戒をしているのだろう。


「なあ、カーヤ、おっかあ、どんな飯、作る?」

「カーヤ、ツチツチ、たべたい」

「……俺、それ、知らない。ツチツチ、どんなだ」

「おいしいの! ツチツチ食べたい!」


 ようやく要求が出たと思えば、今度は本人しか知らない料理の名前が出た。村人がいれば話も聞けただろうが、色々な意味で無理な話だった。

 だが、サリアの方はもう少し、こういうことに心得があった。


『カーヤ、ツチツチはあったかいか?』

「うん。ツチツチ、あったかい」

『カーヤ、ツチツチはしょっぱいか?』

「んー、ツチツチ、しょっぱくないよ。でも、しょっぱい!」

『ではカーヤ、ツチツチを作る時、おっかあは『ちょっとまってて』と言ったか?』


 少女はにっこりと笑い、両手を上げて飛び上がった。


「うん! もうちょっとまってなって、それでカーヤ、ちょっとまってた!」

『なるほど。分かった』


 シェートは首を傾げ、目の前でドングリを転がし始めたカーヤを眺める。何事か呟いていたサリアは、耳打ちするように言った。


『おそらくだが、ツチツチは煮物、特にその中に入っている具材だ』

「そ、そうなのか?」

『作るのに時間がかかり、あったかく、しょっぱいがしょっぱくない。なによりツチツチというのは、作る時の音だろう』

「あ……カーヤ、ツチツチ、作る時、離れてろ、言われたか?」


 キョトンとした顔をした少女は素直に頷き、両手で何かを持つ真似をした。

 それをこねるよう動作を付け加えて。


「ツチツチ、つくるのあぶない、まってなって」

『おそらく小麦、草の根、どんぐり、この辺りだろう。とはいえ、地方独特の植物の場合は、お手上げだが』

「分かった」


 小麦はいくらか持たせてもらったし、どんぐりも北の大陸から持ち出してある。木の根に関しては探せばなんとかなるだろう。

 後は作るための道具だが。


『シェート、一つ頼みがる』

「どうした」

『……カーヤの母親の墓を、造ってやってくれ。いつか、あの子が会いに行けるように』


 頷くと、カーヤの手の上に、青い木の実を十粒置いた。


「なあに、これ」

「おやつだ。カーヤ、サリア、縄目作り、一緒、遊べ」

『これからシェートはツチツチを作る材料を探してくる。その間、私と遊んでいよう』

「……いっちゃ、やだ」


 シェートは少女の掌の上の粒を、指さす。それから昔、兄弟たちに留守番を頼む時のことを思いだしながら言った。


「縄目、十、作る。できたら、ほどく、青い実、一粒、食べろ。全部食べる、俺、帰る」

「ほんと? たべたら、かえってくる?」

「十、縄目つくる、そしたら、解いて、一粒な。できるか?」

「……うん」


 つたで作った縄をカーヤに渡し、その端っこに結び目を作ってみせる。遊びとご褒美、この二つがあれば、短い間の留守番ぐらいなら、何とかなるものだ。

 とはいえ、あまり時間は掛けたくない。カーヤが怖がるのでグートは姿を見せないように言ってあるから、何かあった時は手が遅れてしまう。

 身支度を整えると、シェートは駆けだした。


『ところで、シェート。伝えておくことがある』

「なんだ?」

『悠里殿が目を覚ましたそうだ。命に別状はない』

「そうか……よかった」

 

 木立を抜け、斜面を下り、焼け残った村の跡地に出る。すでに腐肉を漁る鳥たちが村のあちこちに舞い降りていて、腐臭がきつくなっていた。


「すまん。カーヤ、おっかあ、それだけだ。いいか?」

『そうだな。お前ひとりでは、すべて弔うなど無理だろう。頼む』


 井戸の近くに倒れていた死体に手を掛け、その脇腹がひどく傷ついているのに気づく。

 その上、左の顔と肩口が焼けて、おそらく即死に近かっただろう。その背後に当たる地点には、大きく歪なくぼみが出来上がって、そこを中心に炎が広がったのが見て取れた。


『この村は、魔王城からの攻撃によって潰されたそうだ』

「なんで……?」

『試し撃ち、ということらしい。ジェデイロ市を焼き尽くす前の、弓の威力を確認するようなものだと』


 なんだそれは。

 この光景を生み出した理由が、ただ調子を見るためだというのか。

 思い出す、劫火の光景を。自分の村が焼かれた瞬間を。

 その中でたった一人、生き残った自分を。


「……サリア、カーヤ、家、わかるか?」

『お前の右手奥、焼け落ちてはいるが、いくらか雑貨も残っているようだな』


 素早く駆け寄り、崩れたがれきを押しのけて残されたものを漁る。

 壺や小刀に混じって、大きな鉢が見つかる。おそらくこれで、ツチツチを作っていたのだろう。

 袋の中に収めると、カーヤの母親だったものに蔓を掛け、燃え残った板の上に乗せて引きずっていく。そうしてしばらくすると、村のはずれに小高くなった場所を見つけた。

 人間たちの弔いは分からないから、コボルト式にすることにした。

 なるべく掘る穴が小さくて済むように、体を折り曲げて両足を両手で抱く形にまげ、それをひもでくくった。

 掘った穴に横たえて、埋めていく。そういえば、こんな風にしてあの時もみんなを、埋めていったっけ。

 その時、シェートの喉が小さく、うなるような韻律を上げた。


『……それは?』

「弔い歌」


 それ以上説明する気はなかったが、サリアは黙って、終わるまで待っていた。短い、単調な繰り返し、泣きながら、慈しみながら、死者に送る時の歌だ。

 そういえばあの時、俺は歌っただろうか。

 何もかもがおぼろげで、思い出すことさえできなかった。


「終わった。カーヤは?」

『かんしゃくだ。早くしてくれ、もう押しとどめられぬ』

「分かった」


 袋を手に、シェートはカーヤの待つ場所へ駆け戻る。

 母親の墓を勝手に作ったことを知ったら、あの子はどう思うだろう。そんなことを考えながら。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、シェート、変わったな。普通のコボルト、にんげんのこどもを助けたりはしないだろう。これがいいことが悪いことかはわからないが
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