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スマホと彼女の誘惑

「……あと、五分だけ」

自室の机。あらたは数学の問題集を広げながら、その横に置いたスマートフォンを凝視していた。画面は暗い。通知も来ていない。だが、右手の親指が、まるで独自の意思を持っているかのように、無意識にホームボタンへと伸びようとする。

(ダメだ。電源は切った。リビングに置くって決めたんだ)

だが、数分後には「もし、まあやから急用だったら?」「あのゲームの限定イベント、スタミナが溢れてるかも」という言い訳が脳内を埋め尽くす。

あらたは椅子を蹴って立ち上がり、リビングへ向かった。そして、充電器に刺さったスマホを奪い取るように掴む。

その時、画面が光った。一条まあやからのLINEだ。

『あらた、勉強頑張ってる? 無理しすぎないでね。おやすみ!』

その優しい言葉が、今のあらたには毒に感じられた。

「無理してない。全然、頑張れてないんだよ……俺は」

返信を打とうとして、手が止まる。今の自分に、彼女に送る「頑張ってるよ」という言葉は持ち合わせていなかった。

翌日、あらたは塾の講師、関谷の前にいた。

「関谷さん。……スマホが、どうしても手放せません。電源を切っても、気になって集中できないんです。俺、依存症かもしれません」

関谷は冷めた目で、あらたの震える指先を見た。

「佐藤くん。それは依存症というより、『現実逃避の癖』だ。君の脳は今、勉強による『将来の大きな報酬』より、スマホによる『目先の小さな快楽』を優先するよう調教されている」

関谷はホワイトボードに、無機質なペンを走らせた。

【受験応援コラム:あらたのメソッド③】

「スマホ依存を壊す、物理的・環境的遮断術」

1.タイムロッキングコンテナの導入: 物理的に開かない箱にスマホを入れる。根性ではなく、環境に頼る。

2.「通知」を全オフにし、白黒画面設定へ: 脳が「色彩」による刺激を求めないよう、アクセシビリティ設定で画面をグレースケールにする。

3.ドーパミン・デトックス: 勉強を始める前の5分間、何もしない時間を設ける。脳を「退屈」に慣れさせることで、勉強という刺激を相対的に高める。

「いいかい、佐藤くん。スマホを触りたくなったら、その衝動をノートの端に『正』の字で記録しなさい。自分がどれだけ脳に操られているかを可視化するんだ」

あらたは学校に戻り、関谷の言葉を実践した。

授業中、休み時間、放課後。スマホを触りたくなった瞬間、青ペンでノートの隅に印をつける。

放課後までに、その数は『42』に達していた。

「……こんなにか」

愕然とした。自分の集中力がいかに細切れにされていたか。

そんな時、廊下で一条まあやに呼び止められた。

「あらた! あのね、次の日曜日……」

「ごめん、まあや」

あらたは遮るように言った。彼女の顔を見ると、甘えたくなる。スマホを触って、彼女と楽しい会話を続けていたいという欲求が爆発しそうになる。

「日曜日、模試の過去問解かなきゃいけないんだ。……しばらく、放課後のLINEも控える。ごめん」

まあやの瞳が、少しだけ寂しげに揺れた。

「……うん。分かった。あらたが本気なら、私、応援する」

彼女の寂しそうな笑顔が、スマホの画面よりも眩しく、そして痛かった。

あらたは逃げるように図書室へ向かう。

ポケットの中のスマホは、タイムロッキングコンテナ代わりのジップロックの中で、沈黙を守っている。

(本気出すって、こういうことなんだ。……何かを捨てるってことなんだ)

あらたは青ペンを握りしめた。

指先はまだ、わずかに震えていた。

【第5話:学習のポイント】

1.可視化: 誘惑に負けそうになった回数を記録し、自分の弱さを客観視する。

2.グレースケール設定: スマホの魅力を視覚的に減退させる。

3.断絶の宣言: 大切な人にこそ、勉強期間の連絡制限を伝え、逃げ道を塞ぐ。

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