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30. 抑え込む思い

秋の山というのは、春とはまた違ったざわつきを見せてくれるものです。

実りは悦びでもありますけれど、冬を迎える準備の気配を山全体で感じさせる様子は、これから迎える厳しい季節への覚悟を感じさせるのです。


私は久しぶりに放課後のひと時、山の散策に入っていました。


「痛っ……!」


木々を見上げていた時、不意に首筋に熱とバチっとした痛みを感じます。

でもそこに手をやる頃には、もう熱はありません。

ただ痛みの名残を感じるだけです。


「今日もお互いに多いですね。風祭さん」


ポツリと口にすると、泣きたい気持ちをぐっとこらえました。

だめ、こんな風にしてたら番の紋に熱がこもって知らせがいってしまう……私は熱くなりかけた紋にだめだという強い意志を込めて、熱を抑え込もうとしました。


バチリという強い反発に「痛い……」うめき声が出ますが、なんとか紋の熱は治まり、涙目になりながらも安心します。


良かった。

番の紋は熱を持たなかった──。


風祭さんの戦闘の現場に転移してから1週間が経ちました。


あの日以来、私達はお互いに連絡を取っていません。

お互いに、です。

毎晩の電話はピタリとやみました。

どちらからもかけていません。


そして、これまで何かあるたびに気遣いの気配を紋に感じていましたが、それもなくなりました。

……というよりも何かある度に紋が熱を持っても、それを止めようと無理矢理自分で抑えつけているのです。


その無理な行動が痛みとなって自分だけではなく相手にも伝わっていることは、毎日の痛みで分かっていました。

私が何も感じていない時でも、不意に番の紋にバチリとした鋭い痛みを感じることが日に何度もあるからです。


それは外からのストレスもあるかもしれませんが、きっとお互いに相手のことを考える時で。

私はあれから時間があれば風祭さんのことを──そして番というもののことを考えています。



この半年余りの間に、私にとって風祭さんは大切な人になっていました。

不安な時、怖い時、いつだって話を聞いてくれて、腕の中に抱えてくれて。

そして、離れていても番の紋を通して温かい思いやりを送ってくれる。

楽しかったことは毎日電話で共有し、その電話の中でお互いの新しい部分を知っていく。


男女の愛とか、そういうことは分からない。

でもとてもとても大切な人になっていました。


でも、そう思う度に小さい私が今の私に訴えるのです。

『おかあさんがないてるよ。こんどは、さらがおかあさんをなかせるの?おかあさんにはもう、さらしかいないのに?』と。


この1週間。

風祭さんに会いたいと思う度に、声を聞きたいと思ってしまう度に、同時にお母さんのことが思い出されるのです。

まだ数回しか会ったことがない相手に番だからと惹かれていってしまう私……お母さんへのあまりにも酷い裏切りだと思うのです。


だから、風祭さんのことを思い少しでも紋に熱を感じるとその思いを打ち消してきました。

紋に痛みを感じながら。


これが日に何度もあるように、風祭さんも同じなのでしょう。

毎日何度も、私は何も考えていない時でも紋がバチリと痛みます。

あの日、私をつらそうな目で、そして厳しい目で見つめていた彼の顔を思い出します。


あの人もまた、私を、番というものを否定したくなっている──確信しています。


この痛みの記憶と、その裏のお互いの苦しさが見えてしまうこの1週間はつらくて。


私は決意します──風祭さんと話さなくてはいけない。


その日の夜。

1週間ぶりに彼に連絡を入れました。

『会ってお話できませんか?』と。



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